世界には、生まれもって神様に選ばれた人間がいる

他の人とは全てが違う。容姿もそう、性格もそう、炎を抱く子もいれば雷を食べる子だっている。そんな彼らは神様の子どもらしい


でもこの日本には、選ばれた神の子はいない






『かんべーさんっかんべーさんっ』

「んー?どうした真澄、楽しい話か?ああ、楽しい話だな!顔にそう書いてある」

『当たりー!かんべーさんだけにおしえてあげるっ』

「おう!何だ何だ、官兵衛さんに言ってみろ」

『えーっとね、えーっとね…じゃーんっ!!』

「っ!!!!?」





キラキラと、手元で輝く氷の粒


えいっと手のひらに力を込めると、それは何処からともなく現れた

幼い私が自分の“特技”に気づいた時、それを一番初めに見せたのは親戚のお兄さん。彼に喜んで欲しかった。驚いて欲しかった。褒めて欲しかった


でも…




「っ…真澄、それは、他の人には見せてないな?」

『うん!かんべーさんにだけっ』

「…少し、真澄の父ちゃんと話してくるから、真澄は良い子で待ってるんだぞ。解ったな」

『……………』





その日から、私は親戚である官兵衛さんと暮らすことになった


泣いてるお母さん。苦しそうなお父さん。それでも二人は、私を引き止めなかった

不安な顔で見上げる私に、官兵衛さんはずっとずっと声をかけ続けてくれる。大丈夫だ、任せてくれ、絶対に…






「真澄は、官兵衛さんが守ってやるからな」






この日本で“婆裟羅者”と呼ばれる異能者は、前世での業を抱えた咎人だという

人間じゃない人間を、世界は仲間外れにしたいらしい








−10年後−








『官兵衛さーん!早く起きないと遅刻するよーっ!かんべーさーんっ!!』




おかずを弁当箱に詰めながら、2階に向かって叫ぶ絵に描いたような朝

1度目は返事がない。エプロンを外して2度目を叫ぶ、早く起きないと会社に遅れちゃうよ…と




「うぇえ…もう少し待ってくれ真澄…昨日の酒が残って…う゛っ」

『えー、一昨日もソレ聞いた。最近、官兵衛さんの肝臓さんは職務放棄気味なんだから。飲む量控えないとダメじゃん』




のそのそと2階から降りてきた大柄な男が、ぼさぼさ頭を掻きつつ大欠伸をした


彼…官兵衛さんと同居を始めてはや十年。“あの日”のことは鮮明に思い出せるけど、頼りになったお兄さんの面影は段々と遠ざかる

年々オジサン化が進む彼にエプロンを投げつければ、避けることもできず顔面に直撃した




「うっぷ…いや、解ってるんだが大人には付き合いってもんが…て、ん?又兵衛はどうした?」

『お馬鹿さんからラインが入った…て言って出て行った。たぶん幸村君』

「ふぅん、朝から年頃の男子高校生が仲の良いことで…今日は靴下が左右揃わないってところか?」

『又兵衛はなんだかんだ面倒見良いからね…寝癖がなおらない、じゃない?』

「アイツの髪型だと寝癖かどうか見分けつかんだろ」

『官兵衛さんには言われたくなーい』

「ははっそりゃそうだ…さて真澄、もう出るか?」

『うんっ』




自分と又兵衛と幸村君…ともう1つ、合計4つのお弁当を手に家を出る

そして毎朝の日課。玄関へ向かう間際、官兵衛さんが私の方へ片手を伸ばしてきたから…





『行ってきます、官兵衛さんっ』

「気をつけてな、真澄」





指先から放った氷の粒。それは彼の手のひらに届いた瞬間、体温で溶けてしまった





婆裟羅者は隠れて生きろ。家の外で能力は使うな。教えてはいけない、知られてはいけない

だって人は人から外れた存在を、どうしても排除したがる



婆裟羅者は進学が難しい

婆裟羅者は就職が難しい

婆裟羅者は結婚が難しい


だって恐ろしいから。彼らは性格も身体も普通の人間とは違い、その能力を悪いことに使うかもしれない

だから排除しなきゃ。それが日本において、神の子がいない理由だ…小学校に入った頃、私は先生からそう教わった




『…だからお母さんたちは、真澄を官兵衛さんに渡したの?』




授業で婆裟羅者について学んだ日、私は官兵衛さんにそう尋ねた

官兵衛さんのことは大好きだ。だから寂しいと感じたことは無いし、この家にはもう一人、親戚の男の子も住んでいる


でも、それでも、私は尋ねた。困らせると思ったけど…官兵衛さんは笑って答えてくれた





「違うぞ、官兵衛さんと真澄が同じだからだ!同じ仲間、同じ友達、同じ家族と一緒なら楽しいだろう?」

『同じ?』

「そうだ、見てろよ…そらっ」

『うわっ!!え…風…?』

「真澄は氷だが官兵衛さんは風…官兵衛さんも同じなんだ、みんなには内緒だぞーっ」

『すごいっ!!かんべえさんも一緒っ!!もう一回やって!もっと強く!』




同じ仲間で助け合えばいい。私たちにとっては“普通の人”こそ恐ろしい

だって能力を誤って使えば、彼らはあっさり傷ついてしまうじゃないか




 



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