アップル
「今日はごめんなさいね、せっかくの休日に荷物持ちさせて…でも妾の一日を奪えたのだから喜ばしいことかしら?」
「は、はい!マリアさんとデートができて僕は幸せですっ!!」
「…荷物持ちの意味、解ってる?帰ったら鹿さんに蹴られないようにね」
「は、い?」
「まぁいいわ。帰りに運命の輪に寄ってみようかしら、あの子の顔も見たいし」
「結さんっ!!?ああ結さん、そしてマリアさんと一緒にお茶だなんてまさに両手に華っ!!」
「…将来が不安だわ」
「へ?」
休日の今日、僕はマリアさんに呼び出され共に町へと繰り出していた
抱えている荷物は全てマリアさんの洋服。どれも彼女に似合うんだけど、そのうち何着かを結さんにあげようか、だってさ
「最近ようやく着飾るようになったけど、あの子、自分に無頓着だし…着せ替え人形にするのは楽しいけれど」
「た、確かに、近頃の結さんはますます可愛く美しくなって女に磨きがかかってるような…!」
「貴方、一度直虎に殴られた方がいいわね。それはさておき、女が急に綺麗になる理由は一つしかないわ」
「え?」
「ふふ、男よ、お・と・こ…って、あら?あれって結じゃない?」
「結さん?…って、ええっ!!?」
マリアさんがあらあらと指差した先には、確かに結さんがいて…その隣には前に柴田屋、そして喫茶店で見かけた男が三人
仲睦まじいその姿!何か口論してる姿勢の悪い彼と前髪の長い彼、そして中性的な彼と結さんはそれを見て笑っている
これは、まさしくデートっ!!
「結もやるわねぇ…三人も引き連れて」
「ま、まさかあの中に噂のボーイフレンドさんが…!ちょっとそこの貴方たち!結さんは皆の結さんで―…!」
「待ちなさいな」
「ぎゃあっ!!?」
問い詰めるために駆け寄る僕の首根っこを掴み、引き止めるマリアさん!
止めないでください今まさに悪い男の手がっ!!
「面白そうじゃない、少し様子を見てみましょう」
「で、デートを追いかけるんですかっ!?そんな、僕、結さんのキスシーンなんて見たくないっ」
「…妾が言うのもアレだけど…ちょっと話が飛躍しすぎかしら?とにかく追うわよっ」
「は、はい!」
「…ですからぁ、オレ様一人で十分ですよ。半兵衛さんが手を煩わせる必要もぉ、官兵衛さんがしゃしゃり出る理由もありませんってばぁ」
「小生と半兵衛の差っ!!いやいやお前は飽きっぽいだろ!荷物持ちは小生の役目だし、なぁ御狐様!」
「喧嘩をしないでくれ二人とも、それに結くんも僕たちと一緒で嬉しいだろう?」
『は、はい、もちろんです!』
「ふふっ、ほら」
「それ半ば無理矢理言わせてるだろっ!?あと、しっかり結の隣を維持すんなっ」
『あ、え、あの、えっと…!』
「お前もぉこれくらいで泣きそうになってんじゃありませんよぉ」
『うぅ…!』
今日は又兵衛さんと一緒に日用品の買い出し。そこへ小生も行くぞ!とついてきた官兵衛さん、そしていつの間にか隣にいた半兵衛さん
四人で仲良く…とはいかないけれど、近所のスーパーをぶらぶら歩いている。ああ、目立つので、あまり喧嘩は…!
『はぁ…だ、大丈夫かなぁ…』
「ぁあ?なんですかぁお前もぉ、オレ様だけじゃあ役不足って言いたいんですかぁ?えぇ?」
『ち、ちち違います!いつも又兵衛さんにはお世話になってますし、今日もお手伝いしてもらえて、嬉しくて…!』
「…いつも通り調子のいい口ですねぇ」
『ぅう…!』
「あ、あの人、さっきから結さんを苛めて…!やっぱり止めましょうよマリアさん!結さん泣いちゃいます!」
「んー…そうかしら?彼、結が嫌いで言ってるわけじゃないと思うけど?」
「……へ?」
「好きな子なら尚更、苛めたいってあるじゃない。困った顔ほど可愛いものよ、まぁお子様な貴方には解らないかしら…ふふっ」
「困った顔…た、確かに、結さんの泣きそうな顔もなかなか…って、いっでぇっ!!?」
「あら、ごめんなさい、思わず手が出ちゃったわ」
『ほんとに、ほんとなんです…』
「あー、はいはい。解ってますからメソメソ泣かないでくれますかねぇ…オレ様が苛めてるみたいじゃあないですか」
『す、すみません……あ』
「こら又兵衛!だからお前はどうして一々そんな言い方すんだ!」
『官兵衛さん…』
又兵衛さんの前で俯く私。それに気付いた官兵衛さんがババッと駆けつけてくれる
こらっと叱る官兵衛さん。対する又兵衛さんは面倒なのが来たと言いたげに顔をしかめてしまう
「あー…また出た、贄が」
「おう、お前に言われずとも小生は御狐様の贄だ!あと、結も気にすんな、又兵衛は素直に本音を言えないんだよ」
「ぁあ?この狐がグズグズグズグズしてるから、仕方なくオレ様が…」
「ああ、ああ、解ってるよ。な?又兵衛は結を心配してるだけで、素直じゃないよなぁ」
『は、はい…』
「はははっ!!」
『……ふ、ふふっ』
「あらあら、彼は結の正義の味方気取り…かしら?」
「おおお…!結さんのピンチに颯爽と現れる正義のヒーロー!はっ!!まさか彼が、神社の君っ!?」
「彼がボーイフレンド?ん…優しいだけじゃねぇ、女は時に強引に奪われたいものなのよ」
「ご、強引に、ですか…」
「彼にそれができるかしら…ほら、見てみなさいな。結が別の男の方へ行ってしまったじゃない」
『半兵衛さん、何を見てるんですか?』
「っ―…結くん…いや、何でもないよ。気にしないでくれたまえ」
『これ…料理のレシピ本ですね』
「・・・・・」
ふと、立ち止まり何かをじっと見つめる半兵衛さんが視界に入った。どうしたんだろうと近寄れば、そこは店の隅の書籍コーナー
そして彼の視線の先には、簡単料理のレシピ本!という解りやすいタイトル…あの、半兵衛さん、もしかして…
「…先日は本当にすまなかった」
『そ、そんな、半兵衛さんのせいじゃ…!私だって一緒に作ってたんですからっ』
「いや、皆の様子を見る限り僕の料理の腕が問題だった。君を危険な目に合わせてしまうなんて…」
『半兵衛さん…』
「…………」
『っ……一緒に、練習しましょう!お料理!』
「っ!!!?」
私は半兵衛さんの手を自分の両手で包む。完全に自信を失ってしまっている彼。でもこんなの彼らしくない
誰だって初めはヘタクソなんです。私だって何度も練習して練習して…ようやくお客さんに出せるようになった
『練習しましょう、半兵衛さん…私が、半兵衛さんをお手伝いします!』
「結くん…だが僕はまた、君を危ない目に…」
『だから一緒にするんです。どんなに時間がかかったって諦めません!頑張りましょう半兵衛さん』
「…ああ、分かった。必ず君の思いに応えてみせるっ」
「…物凄く壮大に言ってますけど、たかが料理の話ですよねぇ?」
「バカ野郎、半兵衛と結にとっちゃ命を懸けた大問題なんだよ!」
「もう君を危険な目に合わせたりしない、次から味見は全て官兵衛くんに任せよう!」
「なぜじゃあっ!!!?」
「あらー!結の本命は彼ね、間違いないわっ!!」
「…マリアさん、あの人の顔を見て言ってますか?」
「だって素敵な顔…!結が要らないなら妾が欲しいくらいだもの」
「なっ―…!お、男は顔じゃなくハートですっ!!今に見ててください、僕だってそのうち彼に負けないナイスガイに…!」
「言ってることが矛盾してる上にナイスガイはちょっと違うわ。それにしても…見れば見るほど本命が解らないわね」
「ま、まさか結さん、三人とも弄んでる小悪魔なんじゃ…!」
「結に限って…と言いたいけど、もしそうならどうするの?幻滅しちゃう?」
「むしろ僕も遊んでくださ―…いってえっ!!?」
「…ほんと、将来が不安ね。直虎や孫市に相談してみようかしら」
カランカランッ
『あ……いらっしゃいませ京極さん、鹿之介くんっ』
「ふふふっごきげんよう」
「…ど、どうも」
『……あれ?』
ある日、お客さんの少ない時間。カランと鳴った扉から店にやって来たのは、常連客の京極さんと鹿之介くん
にこやかに笑う京極さんに対し、鹿之介くんはしかめっ面で…その視線はカウンターの又兵衛さんと官兵衛さん、次に窓際の半兵衛さんへ向けられた
「なんですかぁこの餓鬼…オレ様に何か文句あるんですかねぇ」
『又兵衛さんっ…あの、鹿之介くん…何かあったの?』
「…ナンデモナイデス」
「ふふっねぇ結?注文の前に教えて欲しいことがあるの、いいかしら?」
『は、はい?』
京極さんが私にそっと擦り寄ってくる、あの、えっと、何を…!
そんな慌てる私と怪しく笑む京極さんに皆の視線が集まってきて、ど、どうしましょう、京極さん、は、恥ずかしいで―…!
「この三人の中で、結の本命の彼は誰かしら?」
『………へ?』
「ぶふぉあっ!!!!?」
京極さんの質問と私の間抜けな返事。そして官兵衛さんが飲んでたお茶を噴き出すのは同時でした
20140831.
マリア様は見た
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