運命の輪番外編 | ナノ

  レモン


「これはどうだ?色も派手でなく地味でもない」

『あれ…去年のもこんな色じゃなかった?』

「…そうだったか?」

『……勝家くん、ちゃんと選んでる?』

「…………」

『あ、こっちはどう?』

「これは父には派手すぎる。どちらかと言えばマスターではないか?」

『そうかなぁ…』

「何をしてるんだ、結?」

『あ…父の日のプレゼントを選んでたの』




休日の昼、お店のテーブルにカタログを広げて悩む私と勝家くん

それを覗き込むようにやって来たのは家康くんで、少し離れた場所にいた三成さんも視線をこちらへ向けた




『この時代にはお父さんに感謝をする日があって、私のおじさん…勝家くんのお父さんとマスターに毎年贈り物をしてるんだよ』

「私たちはネクタイを贈ろうと思っている。そして、やはり今年も結に全て任せよう」

『勝家くん、毎年それだよね…』

「感謝…か、」

『あ、三成さん、秀吉様に贈り物とかどうですか?』

「っ―……私が秀吉様に?」

『はいっ』




秀吉様は豊臣軍の大黒柱。三成さんは彼を慕っているし、感謝もしてると思う

ただそれを言葉にしたり、贈り物にしたりはなかなかないだろう

現に今、三成さんはどうしようかと思案している




「ははっ、それはいいな。ならワシは忠勝に贈るか」

『忠勝さんに?』

「ああ、父とはまた違うが…いつも世話になっている、たまには労うとするよ」

「そうか…私も乗るとしよう」

『じゃあ今年は三成さんと家康くんも参加で…あ、又兵衛さん!』

「ぁあ?」

『又兵衛さんも参加しませんか?父の日のプレゼントっ』




次に現れたのは、飲み物を取りに降りてきたであろう又兵衛さん

のそのそとこちらに近づいてきたので、私はもう一度父の日を説明する




「父の日…」

『又兵衛さん、官兵衛さんに贈り物とかどうですか?』

「はぁ?オレ様が、あの、官兵衛さんにですか?」

『はいっ』

「なぁに面白い冗談言ってんですかねぇ。オレ様は官兵衛さんに感謝なんかしませんよ」

『あ……行っちゃった』




興味なさげな又兵衛さんはまたのそのそと、二階に戻っていってしまった

官兵衛さん、喜ぶと思うのにな…まぁ、彼が気乗りしないなら仕方ない




『さて、じゃあ肝心のプレゼントはどうしよう?』

「私たちと同じくネクタイはどうだ?この時代の装飾品のようなものだ」

「この絵の男が首に巻いているものか…秀吉様が結ぶと、首が絞まる気がするのだが」

「た、忠勝は届くかすら解らんな、ははっ」

『確かに…』




秀吉様も忠勝さんも一般のお父さんとは規格が違う

だからネクタイや服は合わないかな…じゃあ他の父の日のプレゼント、か




『子供の頃は肩叩き券とか渡したよね』

「…券などなくとも日頃からしていたが」

「秀吉様の肩を殴り付けろと言うのかっ!?わ、私にはできない…」

「うーん…いくらワシでも、忠勝の肩を殴ると確実に手を痛めるな」

『じゃあお花…は、微妙かな…お酒…も未成年で贈るのはアレだし…んー、えっと…』




四人で揃って首を捻る。いざプレゼントを考えるとなかなか浮かばないよね

お金をかけるわけにもいかないし、秀吉様や忠勝さんって何を渡せば喜んでくれるか解らないし


チラリと窺った家康くんと三成さんも真剣に悩んでいる。さぁ、どうしま―…





「おい、結!すまんが何か飲み物をくれっ」

『え、あ、官兵衛さん…はいっ』

「官兵衛…貴様、飲み物くらい狐に頼まず自分でなんとかしろ」

「だから自分で取りに来たんだよ!又兵衛に頼んだらアイツ、自分の分しか取ってこなかったからなっ」

『あ、は…又兵衛さんらしいですね。お茶どうぞ、官兵衛さんっ』

「ん…おお!そうだ官兵衛、父の日に何をもらったら嬉しいか教えてくれっ」

「……は?」




次にのしのしと降りてきたのは官兵衛さんで、彼の顔を見て思いついたのか家康くんが問いかける

首を傾げる官兵衛さんにまたまた説明をするけど…ああ、なるほど




『官兵衛さんって全身から父性がにじみ出てますもんねっ』

「おう御狐様、それは褒めてんのか?それともオッサンって言いたいのか?」

「明らかに後者だ。それで黒田氏、どうだろうか?」

「ぐっ…!伊達といいお前さんといい、小生をなめてるだろ!まぁ、いい、贈り物なぁ」

『…………』

「…正直、何でもいいと思うぞ」

『え?』

「何がってよりは何でって理由の方が気になるしな!むしろ感謝の一言だけだって嬉しいさっ」




うんうんと頷きながら官兵衛さんが答えてくれたのは、至極普通な、当たり前のことだった

確かに感謝を形にしたのが贈り物。それを悩んでるんだけど、これで振り出しだろうか




「なんだなんだ?お前さんら、父の日やろうってのか?」

「ああ、忠勝に日頃の感謝をしようと思ってな!」

「私は秀吉様に…間違っても貴様へではない」

「んなもん解ってる!なるほど、さっき又兵衛が小生を無言で睨んでたのはそれかっ」

『あ…確かに、又兵衛さんも誘いました…けど…』

「断ったんだろ?まぁアイツは素直じゃないとこがあるからなっ」

『あ、いえ、その…』

「小生には解るぞ!当日まで隠して驚かそうって魂胆だな、素直じゃない奴めっ」

『あ、はは…』









「…なぁ三成、又兵衛は本当に父の日をやると思うか?」

「知るか」

「あれは…完全に黒田氏が調子に乗っている。当日が楽しみだな」

「別の意味でな」

「……………」




楽しみだと笑う官兵衛と、困ったようなひきつった笑みを浮かべる結

そこから視線を移せば、バッチリと、三成と目が合った。そして互いに苦笑




「ははっ…さて三成、何を贈ろうか?」

「ふん…秀吉様への献上品、私なんぞが選んだところで喜んで頂けるか」

「ならばどうする?」

「…私なりに感謝をお伝えするだけだ」

「…それもそうだな!うん、ワシもそうしようっ」

「真似をするな家康!」

「そう言うなよ三成っ」

「…………」













「……三成、何処へ行くつもりだ?もう日も暮れる」

「申し訳ありません秀吉様!本多が移動できず、秀吉様にご足労頂くしか…!」

「う、む?」

『秀吉様、行くのは勝家くんの家です。家康くんや忠勝さんも待ってますよ』

「二人がか?」




未だに状況が飲み込めていない秀吉様を連れ、私と三成さんは勝家くんの家までの道を急ぐ

夕暮れ時。夕飯の匂いがする住宅地。今日はささやかな家族団らんの時を過ごしているんだろう






「っ……来たか…こちらだ、蔵が会場で申し訳ない」

「勝家…三成、そろそろ教えろ。我を連れ出した理由は何だ?」

「ハッ…!おい、家康っ!!」

「任せろ!」

「は?」




秀吉様が蔵へ一歩踏み込んだ瞬間、家康くんの声と共にパチリと明かりがついた

そして、そこには―…







「………何をしている三成、家康」

「父の日です!」

「父の日だっ!!」

「…………は?」




蔵の中央には広い机と、この場のメンバー分の夕食

それを囲むように座った三成さんと家康くん、そしてやはり状況が飲み込めてない様子の忠勝さんがいた


そう、父の日。ささやかな感謝の席を用意しました




「…どういうことだ?」

『ふふっ、今日は父親に感謝をする日なんですよ』

「父……いや、我は…」

「秀吉様っ!!」

「三成…」

「どうか、こちらをお受け取りください!」

「……何だこれは」

「秀吉様への感謝を綴った文でございますっ!!」

「文というより書物だな」

『か、勝家くん、シーッ!』



お納めください!と三成さんが差し出したのは、秀吉様のために書いた手紙だった

勝家くんの言う通り手紙の厚さじゃない。秀吉様の大きな手に乗ったのに、その重量感がヒシヒシと伝わってくる




「我への感謝…三成、お前が今更語る必要はないのではないか?」

「お言葉ながら!私が秀吉様に感謝を述べ始めては、一生をかけたとて足りません!」

「…………」

「…しかし、何か物に置き換えるなどもできず…文にしたためました」

「そうか……ふんっ、後でしっかりと読ませてもらうぞ」

「っ―……は、はい!」





「忠勝!ワシからは何もない!文さえもだ!」

「…………?」

「だがしっかりと言葉にしよう!忠勝、いつもありがとう!お前には感謝しているっ」

「………!!!!」

「ハハッ、お前がいてくれて…ワシは何度救われたか。言葉にするだけで何も返せず申し訳ない」

「!!!!!?」

「それでも、これから先、ワシはまだお前に感謝し続けるだろう。その気持ちだけは変わりはしない!」

「…………!」

「っ、ははっ!笑うなよ忠勝っ」

「…今、笑ったのか」

『勝家くん、水さしちゃダメ』

「……すまない」

『ふふっ、』




それぞれの感謝を受け取った秀吉様と忠勝さん。その逞しい背中を見て、彼らは強くなったんだ

それはまだまだ先にあるのか。それとも次は彼らが逞しい背中を見せるのか


きっと二人は、まだ抜かせはしないと立ちはだかるんだろうけど









「……おい、又兵衛、何か忘れちゃいないか?」

「ぁあ?何ですか?狐なら秀吉様と石田を連れて行きましたよ?」

「いや、結にじゃなく小生に、だ!」

「官兵衛さんに?」

「そ、そうだ!ほら、今日は何の日だ、思い出せ!」

「あー…そういや、父の日だとかぁ…あの女、言ってたな」


「そうだ、それだ!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「………で?」

「なぜじゃっ!!!?」





20140616.
秀吉様と忠勝と父の日

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