運命の輪番外編 | ナノ

  おかわり


「……………」

「……………」

「い、いや、この餓鬼は…!」




突如、店に現れた柴田勝家と伊達政宗。二人の視線は家康が抱えた子狐へ真っ直ぐ向けられている

固まる面々、その中でやはり子狐だけは空気が読めないらしい。クルリと顔を柴田へ向け先程までとはまた違った笑顔で…





『勝家くんっ!!』

「っ!!!!?」

「え、て、うわっ!!?」

「なっ―……!?」




子狐が奴の名を呼んだ瞬間、物凄い勢いで柴田が家康に迫り子狐を奪い取った!

そして直ぐ様、元の位置へと戻る。キャッキャと笑いながら手を叩く餓鬼、対する柴田は私たちをジロリと睨んでいた




「い、今の勝家、三成様より速かった気がする」

「…結に何をした」

「っ、知らん!私たちが目覚めた時にはこれだった…貴様、よくそれが狐だと解ったな」

「私と結は…私が生まれた時からずっと一緒だ。見間違えるはずがない」

「……………」

「家康、狐を奪われ残念かつ羨ましそうな顔をするな…!」

「な、そ、そんなわけないだろうっ!!か、勝手を言うな三成っ」

「せ、先輩…?」

「っ―………」




柴田の隣で固まっていた伊達がようやく我に返り、いつものように女を呼ぶ

これも狐に憑かれているからな。家康同様、小さくなった狐にデレデレと…




『あ、政宗くん!』

「ひぃっ!!?」




………………………。




「…………は?」

『政宗くんもいっしょだ!勝家くん、政宗くんがいる!政宗くんがいる!』

「ああ、そうだな伊達氏だ。ほらっ」

『政宗くんもあそぼ!』

「か、勘弁してくれっ!!勝家、テメ、近づけんなっ!!」

『む…!政宗くん!』

「ぎゃあっ!!?」

「な、なんだこれは…!」




柴田が子狐を近づけた瞬間、伊達が壁まで飛ぶ勢いで逃げていった。それを追う子狐、さらに逃げる伊達

呆気にとられる私たちを見ながら、ふっと柴田がため息をつく




「伊達氏にとって物心ついた頃…あの位の年の結はトラウマでしかない」

「とら、うま?」

「その姿を見るだけで過去の悪夢が蘇り平常の精神状態ではいられないことだ」

「重症ではないかっ!?」

「独眼竜はどれほど結に虐められていたんだ…!」

「よくそれが恋心に変わったものだね」

「Shut up!!余計なこと言うな勝家!オレは虐められてねぇ!先輩に遊んでもらってただけだ!」

『こら政宗くん!勝家くん、怒っちゃダメ!』

「っ!!?オレが悪かったっ!!」

「…完全に上下関係が成立しているではないか」




ついに店の隅に追い詰められた伊達は置いておくとして、見つかってしまったものは仕方がない

記憶も幼い頃のままらしい狐。それを見つめながら少し冷静を取り戻したのか、柴田がコホンと咳払いを一つ




「…今は様子をうかがうとしよう。私も家族に知られないよう、最善はつくす」

「ああ…あの子狐の世話など考えるだけで頭が痛いが」

「結はなつけば従順な子供だった。気に入った人間には妙な呼称をつけていたが…」

「だったらワシはデコデコ、三成はちゅんちゅんと呼ばれたぞ!なぁ三成っ」

「嬉しそうに語るな家康っ!!私はその呼称を認可していない!」

『勝家くん、勝家くん、ちゅんちゅんはおなかすいたんだって。だからおこってるんだって』

「そうか…可哀想にな、ちゅんちゅん」

「貴様らぁあ…!」




伊達で遊ぶのに飽きたのか、再びこちらへ戻ってきた子狐

柴田の腰にしっかり抱きつきながら私を指差す。だからちゅんちゅんと呼ぶな




「三成、この子狐はお前を気に入ったと言っておるのだ。人徳と受け入れてやれ」

「し、しかし秀吉様…!」

『あ、まげまげっ!!』

「髷……我のことか」

「子狐ぇえぇっ!!!貴様、秀吉様にまでも呼称をつけるかっ!!?」

「落ち着け三成。まさか太閤のソコを呼称とするとは、子狐殿はやはり変わり者よ」

「へぇ…じゃあ、オレ様にはどんな名前をつけるんですかねぇ?」

「あ、こら又兵衛!」

『むー?』




子狐の顔をぬっと覗き込みながら、そんなことを言う男を官兵衛がやめとけ、と引っ張った

柴田も警戒して隠そうとするが、首を伸ばし奴を見上げる子狐…その顔が段々無表情になる




『……………』

「……………」

「…結ちゃん、なんで固まってるんすかね?」

「そりゃ幼い子供の少ない語彙力で必死に渾名を考えてるからじゃないかい?」

「あー…先輩の特徴。まげまげもデコデコも出ちまってますから」

「ふん、あのような男。適当に呼んでおけばいいだろう」

「えーいいじゃないっすか、いっそのこと皆考えてもらいましょうよ、ちゅんちゅ―…いってぇっ!!!?」

「左近…次、それを口にすれば叩き斬る…!」

『む!』

「ぁあ?」




ビシッと音が鳴るかのように指を差した子狐が名前を呼んだ





『まげまげっ!!』

「まさかの同じかっ!!?」

「思いつかなかったんですね、しかも先輩と秀吉様が同じっすか」

「秀吉様と…同じ…ま、まぁこの餓鬼にしてはいい選択なんじゃないですかねぇ?」

「お前さんも満更じゃないんだな、又兵衛」

「貴様ぁ…!いくら狐と言えど、秀吉様を虚仮(こけ)にするならばこの私が斬り捨てるっ!!」

「や、やめろ三成!結に悪気はない!」

「子狐が奴をデコデコと呼ばなかった時、少し嬉しそうな顔をした貴様が言うなっ!!」

「子供の戯言を本気にする必要はない。そして結を斬ると言う戯言も、私は許すつもりはない」

『勝家くーんっ』




キャッキャと笑いながら再び柴田に抱きつく子狐。奴も拒むことなくされるがまま

この二人は従兄弟、だったか。まさか幼い頃はこれほどまでに睦まじかったのか?




「おうおう、子狐様はお前さんが大好きだな。そう見せつけるなってんだ」

「……まぁ、そうだろう」

「否定せんのか。しかし普段の結もそれくらい積極的ならいいんだがなぁ、昔と今とじゃぜんぜん違うじゃないか」

「そうは言ってやらないでくれ。それに今の結が積極的ならば…きっとマスターを追い、外国へ旅立っていただろう」

『マスター?』

「今の結が知る必要のない男の名だ」

「そ、そうなったらオレは、また先輩を追うだけだ!」

「貴様、復活したのか」




いつの間にか子狐と柴田の隣には伊達政宗。未だに女児に怯えつつも、もう逃げやしないと口にしている

…幼い奴らは何を約束したのだろうか。ふと、そんなことを思う




「オレは先輩の所へ帰ってきたんだ!そこがマスターの所だろうが関係ねぇさっ」

「また貴方は…それがストーカーだと何故、気づかない」

「ストーカーじゃねぇよ!オレは先輩を守るために強くなって帰ったんだっ」

『え、政宗くん、なきむしだからムリだよ』

「っ!!!!?」

「…今、結ちゃんがどんな風に虐めてたか垣間見えちまいましたよね?」

「政宗くん本人がそれで嬉しいならいいんじゃないかな?」

「……………」





ますたぁという男は幼い狐を知っているからこそ、気が弱くなった狐を独り残し旅立ったのだろうか


そしてやはり私は…










『………ょ……』

「っ―……」

『あ、朝です…起きてください…』

「っ!!!!?」

『ひぃっ!!?すみません!すみません!安眠をお邪魔してすみません!』

「き…狐…!?」

『え…?』




次の日の朝

昨日の疲れを未だに引き摺る私を呼び起こすいつもの声

重みはない、ハッと目を開いた私を覗き込むのは…いつもの、怯えた狐だ。勢いよく起きた私に怯える姿も変わりない




「き、さま…もう平気なのか?」

『え、は、はい…?』

「昨日のことは覚えていないのか?」

『昨日…あ!すみません!すみません!三成さん用に買ったマグカップを割っちゃってすみませんでした!』

「それは一昨日だっ!!っ―…いや…もう、いい…」

『あ、の?』




頭を抱えながら立ち上がった私を心配そうに見つめる狐

そうだ…今の貴様が、貴様らしい




「…狐、」

『は、はい!』

「……私を呼んでみろ」

『………え?』

「……………」

『あ、え、と……み、三成さん…?』

「…そうだ、それ以外で呼ぶことは許可しない」





やはり私は、今の貴様の方がいい






20140508.
夢主幼児化続き。三成ターンでした^^

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