運命の輪番外編 | ナノ

  サイダー


「ぐ―…!」




……寝苦しい


ハッと目が覚めた私が真っ先に感じたのはそれだった。腹の上への圧迫感、何かが私に乗っている

未だに寝惚けた頭で視線を動かせば…目の前に、私を見つめる女児が一人



…………は?




『…………』

「…ここには狐だけでなく座敷わらしもいたのか」

『わらしー?』

「貴様のことだ」




ギロリと女児を睨んでみせるが、こいつは臆することなく涼しい顔で私を見つめ続ける

見た目は五つか六つそこらだろう。少しして、女児は何故かニカッと歯を見せながら私に笑い―…




『あさ、ですよ!おきてくださーいっ』





よく知る女と同じ言葉で、私を起こすのだった


………………は?










「…三成様!やっぱり結ちゃん、どこにもいないみたいっすよ」

「部屋にも書庫にも店にも…どこ行ったんですかねぇ、あの馬鹿。家康の所、とか?」

「いや、あの狐が朝食も作らず出かけるとは考えられない」

「だが三成くん、彼女がいないのも確かだ。そして同時に…」








『おにんぎょーさん!カワイイ!あれ、ほしい!』

「こらこら!勝手に触って壊したらどうすんだ、結が泣いちまうだろっ!?」

「ヒッ…この気味の悪い人形を好むとはこの童、なかなかによい趣味をしておるわ」

「んなもんいいからお前さんも止めろ!小生は餓鬼の扱いが解らん!」

「われも解らぬ」

「……不思議な子供が迷い込んでいるんだね」

「………はい」




あの女がいない。どこを探せど見当たらないと途方に暮れる中、店を走り回る女児に皆の視線が集まった

突然、現れた女児は飾り棚の人形に手を伸ばし、落としそうになっては官兵衛が支えるということを繰り返している


…実に落ち着きのない餓鬼だ




『やーっ!!』

「や、じゃない!小生もや、だ!頼むから大人しくしてくれ!」

「…先輩、なんかアレ、危ない雰囲気なんすけど」

「…女児拉致の図」

「あー…」

「あーっじゃなくお前さんらも何とかしろっ!!」

「ふん、だが餓鬼の世話が様になっているではないか官兵衛」

「そうだね、そのままお世話を頼むよ官兵衛くん」

「完全に面倒を押し付けられてるよなっ!?」

『おとーさん?』

「お父さん言うなっ!!!」

「……………」




官兵衛が怒鳴るたびに手を叩きはしゃぐ餓鬼。こいつ、大きくなったならば胆の据わった女になるな

だがしかし、キンキンと響く笑い声が喧しいのも確か。家主の狐は行方不明、見知らぬ餓鬼はチョロチョロと目障り


私が苛立っているのを察してか、左近がなだめようと近寄っては離れていく。その間も餓鬼は騒いでいて―…!




『あ!次、あれ!』

「こ、こら!だから高い所は危ないって―…!」

「いい加減静かにしろっ!!黙れないのか餓鬼っ!!!」

『っ―………』

「ちょ、三成様っ!?」




我慢ならずとうとう怒鳴り付けた私に対し、女児がピタリと動きを止めた

驚いた顔のまま私を見つめてくる。それに慌てた左近がやっと間に入ってきた




「落ち着いてくださいってば!餓鬼なんだから騒がしいもんっすよ、ね?ね?」

「しかし…!」

「おお、おお、童が泣いてしまうのではないか?恐ろしい顔よなぁ三成」

「顔は関係ないっ!!」

『……………』

「っ―………」




いつの間にか私の前まで移動していた女児。真っ直ぐ私を見上げている、本当に泣くのか?

皆が皆この成り行きを見守っていると…女児がゆっくりと手を上げ私を指差す。そして―…






『とりさんっ!!』

「・・・・・」





…………………。





「く、くちばし…ぐふぁっ!!?」

「黙れ官兵衛ぇえぇえっ!!!」

「怖い!無邪気で怖いもの知らずな餓鬼が怖いっす先輩っ!!」

「こいつ、ズケズケ物言うなぁ」

『ぴよぴよチュンチュンッ』

「〜〜っ!!秀吉様ぁあぁあぁっ!!!この糞餓鬼を斬滅する許可を私にっ!!!」

「落ち着け三成、餓鬼の言うことに逐一腹を立て……ふふっ、」

「秀吉様っ!!?」

『ちゅんちゅんは、おこってる?おなかすいたの?』

「ヒッ…ヒーヒヒヒッ!!!そうよな、ちゅんちゅんは空腹やもしれぬ、可哀想になぁ」

「ちゅんちゅんと呼ぶなっ!!!」




この糞餓鬼、一度痛い目に合わなければ解らないようだな…!

今にも餓鬼を殴らんとする私を左近と半兵衛様がなだめた。こんな時に狐は何をして―…!



カランカランッ




「失礼するぞ、ん?なんだ、皆揃っているのか」

「っ、家康っ!!?」

「朝食が来ないので様子を見に来たんだが、まさか結に何か―……え?」

『むー?』




突然扉の鐘が鳴り、振り向けばそこには朝食を取りに来たであろう家康が立っていた

家康の予想通り狐に何かあったのだが、今はこの糞餓鬼を何とかしなければならない


勢揃いした私たちに奴は首を傾げるが、ふと、官兵衛によじ登る女児へ視線を移し…固まる

そして…





「っ、結…?」





………………は?












「…本当に、この子が結くんなのかい?」

「あ、ああ。つい先日、勝家殿の家で昔の絵を見せてもらったんだ。これなのだが…」

「…確かにこの子で間違いない」

「家康…貴様は何故、狐の絵を持っている」

「ああ、実は勝家殿に頼んで一枚もらって…て、い、今はいいだろうっ!?」

「しっかし、このヤンチャな餓鬼が本当にあの結ちゃんなんですかね?そんで、小さくなっちまったって?」

「…狐の妖術か?」

「いや、だから結は狐じゃないぞ三成」




家康が差し出した絵を覗き込めば、そこには餓鬼が二人描かれている

一人は柴田勝家。もう一人は今、家康に抱えられている女児。これがあの狐だというのか




「えっと…君、名前を教えてくれるかな?」

『結ーっ』

「……そのまさかなのか」

「オレ様たちが未来に来たってんなら、アレが退化してもおかしくはないでしょうけどぉ…」

「それにしても性格が違いすぎるんじゃないか?」

「まぁまぁ、ワシも勝家殿から話を聞いた時は驚いたが。どちらも結に変わりはないんだ」

「いやに冷静だな。流石は狐の贄、第一号か」

「なっ、そういうわけじゃ…!」

『デコデコーッ』

「ん?でこでこ?ははっワシのことか結!そうだな、でこでこだぞーっ」

「・・・・・」




抱えられていた子狐は家康の肩へとよじ登り、でこでこと妙なことを言いながら家康の額をペシペシ叩き始める

それに怒ることなくむしろデレデレと破顔する家康。その顔に腹が立つ、と再び立ち上がる私を左近が必死に引き止めた




「小生が言うのもあれだが…家康のやつ、本気で結に憑かれてんじゃないか?」

「御狐殿が年上でも女児でもよいのであろう、贄の鑑ではないか」

「だ、だから違う!ワシは、別に結がどうだということでは…!」

「貴様と狐の話は後だ。この餓鬼が狐だというならば、元の姿に戻さねばならんだろう」




ちらりと子狐を見ながらため息をつく。そうだ、戻さねばならない

私たちが元の時代へ戻る鍵となる女。そしてここで生き抜くためにはあれの協力が不可欠


何より…あの大人しい狐でなければ私たちの体力がもたない




「それはそうですし…アレたちにバレたら面倒なんじゃあないですかねぇ、いろいろ」

「……あれ?」

「アレ」




カランカランッ





「Hey!先輩、悪いな少し遅れちまった!」

「クビだな」

「いきなりかっ!?アンタは店なんか来てねぇでさっさと学校行けよ、勝家っ」

「そっくりそのまま返そう…結、徳川氏が此方へ来ていないか……ん?」

「Ah?」

「…………あ゛」







20140502.
→続く
夢主幼児化編

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