キャンディ
『あれ…又兵衛さん、何してるんですか?』
「ぁあ?」
『それ、紅茶の葉…又兵衛さん、紅茶の香りが好きなんですねっ』
店に降りた私の視界に入った彼は、棚に並んだ紅茶の容器を眺めているところだった
どきどき顔を近づけスンッと香りを嗅いでいる。そっと近づけばその中から一つ、彼が手に取った
「こおちゃ…」
『茶木が日本に伝わったのは又兵衛さんたちの時代よりもっと後ですからね。珍しい匂いでしょ?』
「…………」
『…………』
「…………」
『……よし、又兵衛さんっ』
「ん?」
『お茶しましょう!』
『お待たせしましたっ』
「…ずいぶん色の薄い茶ですねぇ。味ついてるんですか、これ」
『さ、茶道で出てくるお茶と比べてますか又兵衛さん』
又兵衛さんの前に置いたティーカップの中で、いれたての紅茶がゆらゆら揺れている
彼お気に入りの紅茶をまずはストレートで。初めての香りに若干顔をしかめた又兵衛さんだけど、スンスンと嗅いでいるうちにそっとカップを手に取った
『お菓子も合わせてどうぞ。又兵衛さん、甘いの平気ですか?』
「まぁ…嫌いじゃあないですけど…」
『よかった、遠慮せず食べてくださいねっ』
「…………」
昨日、政宗くんと一緒に作ったクッキー。そしてケーキを切り分けてテーブルに置く
こちらも初めてであろう又兵衛さんは、キョロキョロ見渡しながらも最後に紅茶へ視線を戻す。そして…
「…いただきます」
ズズッ…
「…………」
『ど、どうでしょうか?又兵衛さんたちからすれば、少し甘いかもしれませんね…』
「いや…」
『え?』
「…結構な、お手前でぇ」
ボソリ、そう呟いた又兵衛さんは残りの紅茶もグイッと飲み干し、ティーカップの中は綺麗に無くなってしまった
結構なお手前で…それは、つまり…!
『あ…ありがとうございます!あ、そうだ、次はミルクティーにしますか?レモンティーはまた後にして…』
「はぁ?みるく?れもん?」
『ケーキも食べてください!こっちがイチゴであれがチョコで…甘い物に合うんですよ、紅茶っ』
「あ、いや…なんで、そんなに楽しそうにしてるんですかね…」
『もちろん、お茶するのが楽しいからですよっ』
「っ…………」
こうやってお茶とお菓子を並べて、誰かとお話しする
仕事柄かもしれないけど、私はそれが大好き。そして何より私が出した物を、又兵衛さんに美味しいって言ってもらえたから
『あ、おかわり入れましょうか?どうせならポットもこっちに持ってきますねっ』
「そこはお前に任せますけど…」
『はい!そうだっ長曾我部さんが海外からのお土産で珍しいお菓子をくれたんです、それも食べちゃいましょうよっ』
「…お前、さぁ。食べ物の話になるとよく喋りますねぇ、よくもまぁペラペラと」
『え…す、すみません!すみません!つい…気持ちが高ぶって…』
「いや、煩いのは嫌いですけど…いいんじゃないですかぁ?お前のそれは」
『え、と…?』
「……おかわり、さっきの」
『は、はい!』
又兵衛さんに促され、私は奥からポット…と新しいカップを運び、二人分の紅茶を準備する
又兵衛さんが選んだ紅茶の葉。実は私も一番好きで、何度も練習した種類なんだ
『いい香りですよね、これ。どんな飲み方にも合いますし』
「まぁ又兵衛様の選んだ茶ですからぁ?当然でしょう、又兵衛様が間違うと思ってんですかねぇ」
『いいえ、さすがは又兵衛さんですっ』
「っ……調子いいよなぁお前」
続けて口にしたショートケーキも気に入ったのか、黙々と食べ進める又兵衛さん
…きっと、太りにくいんだろうなぁ彼。羨ましいと思いつつ、私も目の前のチョコレートケーキを一口。お茶をしている間は体重なんか気にしない
『それにしても、あれだけ並べてる紅茶の中で、どうしてこれを選んだんですか?』
「ぁあ?」
『い、いえ、又兵衛さんならもう少し濃い味が好きかと思って。この茶葉、比較的あっさりしたものですし』
「何でって言われても…お前と同じ匂いがしたからなんですけど」
『へ?』
「は?」
20140410.
又兵衛様聖誕祭
紅茶担当な又兵衛さま。五感が野性的な又兵衛さま
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