運命の輪 | ナノ

  綺麗に流してしまいます


「…これがブラシ、床を磨いてくれ。こちらが雑巾、脱衣場を拭いてもらおう」

『床が濡れてて滑りやすいから、転ばないように気をつけてね左近くん』

「大丈夫だって結ちゃん!俺が隅から隅までピカッピカに―…うわあっ!!?」



ガッシャーンッ!!!!



「あ……」

『ひいっ!!?左近くんっ!!!』

「おいおい左近!お前さんが風呂桶ぶっ飛ばしてどうすん―…うぉおっ!!!?」



ドッシャーンッ!!!!



『官兵衛さんっ!!?』

「…結、やはり彼らに銭湯の手伝いは無理ではないか?」

『え、えっと…』




お店がお休みの今日、私は豊臣の皆さんを連れて勝家くんの家…柴田屋に来ていた

配られるデッキブラシや雑巾。いつもお世話になっている銭湯のお手伝いをしようと集まったんだ


提案者はもちろん…




「すまん結、勝家殿…かえって手間をかける」

『う、ううん!気にしないで家康くん!掃除はたいへんだから手伝ってもらえて嬉しいよ!ね、勝家くんっ』

「ああ、気持ちはとても嬉しい」

「……すまん、」

『勝家くん言い方っ!!!で、でも天井とか普段は掃除できないから、秀吉様がいてくれたらあっという間に―…!』

「貴様らぁ…!よくも秀吉様に掃除などという雑務を…!」

『ひぃいっ!!?すみません!すみませんっ!!』

「やめろ三成、我もたまには動かねば体が鈍る。この程度、雑作もな……あっ」



バキッ!!!!




『ドアがっ!!?』

「…秀吉、君は天井に注力してくれ。ああ、くれぐれも優しくね」

「……ああ」

「…掃除が終わるまで我が家は、無事だろうか」

『…………』




心配そうな勝家くんと家康くんを尻目に、豊臣の皆さんは存外ノリノリで掃除をしてくれていた

サイズの問題で中に入れない忠勝さんは、夜中に煙突を掃除してくれるらしい。折れないかな、そっちも心配です




「はぁあ…なぁんでオレ様がぁ、こんなことしなくちゃならないんですかねぇ」

「そんなこと言っちゃってー先輩、雑巾めちゃくちゃ似合ってますよ、ほらそっくり」

「どういう意味だぁ左近っ!!」

「おいおい又兵衛、喧嘩をするんじゃない!あと左近!お前さんも桶を直すの手伝えっ」

「はーいっ」

「…ぁあ?官兵衛さん、なぁにめちゃくちゃに積み上げてるんですかぁ?」

「は?」

「それ、そんな重ねちゃ取りにくいでしょ。交互に段々重ねて…あぁー、だからぁ、こうやって水貯まらないよう逆さで…」

「お、おう」






『…又兵衛さんって、意外と片付け得意そうですね』

「片付け上手か単なる神経質か…どこぞの男と同じクチよ」

「刑部…狐…何故、私を見る」

『ひぃっ!!?』

「ヒヒッ」




カツンッとブラシで床を叩いた三成さんがこっちに来たので慌てて退避!すみません、片付け上手って素敵だと思います

対する吉継さんは秀吉様同様、高いところ担当。はじめは心配したけど彼には御輿があるから、水に濡れる心配もない




「結、いったん床を流そう。水を出すぞ」

『あ、待って勝家くん、濡れちゃうからズボン捲らせて…よいしょっ』

「お、結ちゃんのいい生足頂きました!ごちそうさまで―…」



バキィッ!!!



「ぎゃあっ!!?」

『あ゛……』

「左近、下品な目で結を見るな」




濡れないようズボンの裾を捲った時、ヒューッとちゃかすような口笛を吹いた左近くん

瞬間、勝家くんのデッキブラシが空を切り彼の脳天に落ちた。無駄がない。流石だけど危ないよ勝家くん




「ちょ、勝家、今のマジだっただろっ!?ガチで俺の頭割るつもりだったろっ!!?」

「本気でなければ殴りはしない」

「今のはすまない、僕らの教育不足だ…三成くん、」

「申し訳ありません…!左近、貴様、このような時に…!」

「いやいやここは喜ぶところでしょっ!?おい、家康!アンタもばっちり見てたんだから一人だけ逃げんなっ!!」

「なっ…!な、何を言うワシはそんな、違うぞ結っ!!決して邪な目で見てなんか…!」

『え、えっと、あの…』




側にいた家康くんを巻き込んで、見ただの見てないだの見たくないのかだの論争する左近くん…

あの、えっとと困る私に雑巾を渡した勝家くんが、脱衣場を頼むと一言。うん、解った




「じゃあ僕もそっちへ行くよ、じめじめとした場所は好きじゃなくてね」

「ならば我も行こう」

「秀吉、棚を壊さないようにね」

「……解っている」

『じゃあ勝家くん、私たちあっち掃除してくる』

「ああ、任せる」

『うんっ』











「あーあ、せっかく結ちゃんのチラリだったのに」

「まだ言っているのか…左近、あまり結をからかうなよ。あとワシを巻き込むなっ」

「アンタに言われる筋合いはねぇけどなー、て、いてっ!!?」

「左近、いい加減にしろ。今後一切、結に近づくことを禁ずるぞ」

「ちょ、勘弁してくれよ勝家ー、それに俺はあの日からギコチナイ家康を何とかしようとしてさぁ」

「あの日?」

「結ちゃんの店が再開した日」

「っ!!!!?」

「…………」




ぶらし、で床を磨きながら話す左近にワシは肩を跳ねさせ、勝家殿もピタリと動きを止めた

あの日から…

ワシをチラリと横目で見た左近は、再び視線を床に向ける




「勝家もおかしいし、別に聞きやしねぇけど…結ちゃんが気づくのも時間の問題じゃね?」

「…別にワシは、何も変わってはいない」

「…私もだ」

「あっそ、じゃあいいけど……あ、三成様ーっ!!あの灯り磨きます?俺、肩車するんでっ」

「…………」




パッと表情を変えた左近は、パタパタと三成のもとへと駆けていく

なんだ、いったい…ふと見た勝家殿もまた、彼の背中を睨んでいた




「……徳川氏、」

「っ………」

「左近の言ったことは本当か?何故、結にぎこちない」

「い、いや、そんなつもりは…!ただ、ワシが、勝手に…」

「勝手に…何だ?」

「っ……それは…」




脱衣場の方から結と半兵衛殿、そして秀吉殿の話す声が聞こえる

あの日もそうだった。皆がいる場でワシは、誰かと内緒の話をする。今は勝家殿、そしてあの日は…元親と


彼はワシに言ったんだ





「…結に、好きな男がいると」

「……結が言ったのか?」

「い、いや、違うっ、違うが…それは帝、いや、ますたぁ殿ではないかと…」

「…………」




勝家殿が、黙る

風呂場に左近と三成、そして官兵衛と又兵衛の騒ぐ声が響く。その中で彼は小さく呟いた




「ならば…早く忘れさせてやってくれ」

「っ―……!」

「貴方ならば…いや、何でもない。早く終わらせよう、掃除を」

「あ……そ、うか…」

「徳川氏?」

「っ、い、いや、そうだな!ああ、刑部!ワシも手伝うぞっ」

「…………」




勝家殿が視線で追うのを感じながら、ワシは彼のもとから逃げた

そうか…元親の話は、本当だったのか。結の最も近い場所にいる勝家殿が言うなら間違いない


そしてワシは―…






「どうした徳川?ぬしがわれのもとへ来るとは珍しい」

「は、はは…いや、深い意味はないさ…逃げてきただけだから」

「は?」

「ははっ、ワシは酷い男だっ」





その恋が破れたものだと知り、

安心してしまったのだから











「…………」

「左近、どうした?」

「…いや、何でも!しっかし半兵衛様ってばちゃっかり結ちゃんの隣維持してズルいっすよねー」

「何を言っている。半兵衛様は先日の事件に心を痛め、狐を気にかけているだけだ」

「あー…りぞっと事件」

「貴様や家康と違い、あの方が贄へと成り下がるはずがない!」

「…三成様だって最近、然り気無く結って名前で呼ぶようになって―…いってえっ!!?」






20140822.
肉食系が絶滅危惧

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