あの日の夢
「おい、狐。さっきから官兵衛が喧しいのだが―…ん?」
「…………」
「…貴様、何をしている」
「うぉおっ!!?な、い、石田、いつの間に…!」
「ずっと二階に…いや、ついさっき来た」
ある日の朝。私が店まで降りてくると、そこには腹立たしいがほぼ毎日顔を合わせる伊達の姿。そしてその目の前では…狐が机に伏していた
早朝の仕事が一段落し、連日の疲れがたまっていたのだろう。女はうとうとと眠っているようだった
「…朝のピークも過ぎたからな、オレがキッチンから戻ったらこれだ」
「そうか…」
「オレはもう少し先輩の寝顔を眺めてから大学へ行く」
「…貴様、変態か」
「真顔で言うなっ!!それに変態じゃねぇ、ただ、先輩の―…!」
カランカランッ
「ん?」
「Ah?」
「…………」
「アンタは…」
その時、店の扉がカランと鳴り入ってきた客。男は私と伊達を横目で見るがそれだけで、直ぐに一番隅の席へ着いてしまった
この男は―…
「毛利…」
「…結はどうした、客が来たのだ。さっさと注文をとらぬか」
「先輩ならここで休憩中だ、渋々だがオレが代わりに―…」
「叩き起こせ、バイトごときが入れた物など我の口に合わぬ」
「なっ…テメェ…!」
「至極正論だがな。伊達、狐の知らぬまに客と騒ぎを起こすつもりか」
「っ、うるせぇ、アンタに言われる筋合いはねぇ…っくそ、マスターもアンタもやっぱり気にくわねぇなっ」
「……ん?」
イライラと毛利を睨む伊達…対する毛利はこれを鼻で笑っている
私がふと気になったのは、この男と毛利も古い仲なのかということ
「これのことも昔から知っていたのか?」
「…直接会ったのは開店の時だがな、先輩とは店で働きだす前から知り合いらしい」
「…………」
「オレも勝家も、先輩がマスターやこいつといつ会ったのか知らねぇ。オレがマスターと会ったのも町を出る手前だ」
「…ふん、我が其奴といつ出会おうが貴様には関係ない。さっさと注文をとれ」
早くしろと急かすこの男。先ほども言ったが、狐の知らぬまに騒ぎを起こすことはできない
…伊達が騒ぐ前に起こすか。私は伏したまま小さく寝息をたてる狐の肩へ手を伸ばす
この女は、どのような夢を見ているのだろうか
20140909.
過去編
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