運命の輪 | ナノ

  正義の男子会


「いやー、さっぱりした!やっぱり広い風呂はいいっすね、三成様!」

「…入浴中、貴様がその喧しい口を閉じればな」

「酷い!だって他の人たちがお通夜みたいに静かだから、俺が代わりに…って、いてててっ!!?」

「それが喧しいんだ…!」




柴田が経営している風呂屋にて


今日は柴田の親の都合で休みらしく、好きにしていいと私たちを呼びに来たのは朝のこと


広々としたそこを貸し切り騒ぐ左近。身体にいいと書かれた風呂に入る半兵衛様と秀吉様

背中を流せ、嫌だ、流せ、嫌だの悶着を続ける官兵衛と又兵衛

刑部はまっさぁじちぇあなる椅子が気に入ったらしく、一向にそこを離れやしなかった




「…徳川氏と本多氏は後で入るそうだ」

「流石に本多とこの大勢は無理だからな」

「ああ…」

「……………」

「……………」




……柴田と会話が続かない

いや、続ける気もないがこれも風呂屋の跡取り。接客ができるのかと多少不安になる

これといい狐といい…この一族は大丈夫なのか




「でも悪いな、勝家。今日は休みだし、家族で旅行じゃなかったのか?」

「いや…私は受験を控えている。両親の旅行に付き合うつもりは初めから無かった」

「じゅ、けん?」

「ああ…何と説明すればいいか…今よりも更に勉学に励むため、上の位を目指すことだ。次の位には伊達氏もいる」

「へぇー」

「理解できなかったくせに解ったふりをするな、左近」

「貴方たちがいつまで此方にいるかは解らないが、私との付き合いはそう長くはないだろう」

「どういう意味だ?」

「私は…ここから遠くの大学へ行くつもりだ」




そう呟いた柴田に対し、私と左近は顔を見合わせる

だいがく、というものがどのような場所かは解らない。各地に点在しているものなのか


しかし…遠くへ。その意味だけは私たちもよく解った




「お前も…結ちゃんを置いていくのか?」

「伊達氏が戻ったならば平気だろう。あれは結を一人にはしない」

「けどさ…!」

「それが、結のためでもある。私の顔を見ない方が…結も楽になる」

「……………」




それは、どういう意味だ。これと狐は親族で、兄弟同然に育ったのではないのか?

狐との間に何かあったのか、咄嗟にそれを問おうと口を開いたその瞬間―…




ガラガラガラッ!!!!




「失礼しますっ!!!!」

「っ!!!!?」

「うおっ!!!?」

「…何かあったのか?」

「お、落とし物っ!!僕んちの鍵っ!!見てませんかっ!?」

「…いや、見ていない」

「そ、そうですか、じゃあ別のとこ探し―…うわぁっ!!?」




バタンッ!!!!




「・・・・・・」

「な、なんすかね、このガキ」




突然、扉を開き飛び込んできた餓鬼。癖の強い髪が目立つ、まだ幼さの残る男だった

探し物をしているのか柴田の答えに急ぎ飛び出そうする…が、しかし。濡れていた床に足をとられ勢いよく転んでしまった




「おーい、ガキンチョ。大丈夫か?」

「い、ててっ…!は、はいぃ…頭だけは頑丈なのでっ」

「彼は山中鹿之介…昔からここに通っている。結とも知り合いだ」

「そうか…」

「って、あれ?お兄さんたち、この町で見ない顔ですね」

「分かるのか?」

「僕、とある方を探して走り回ってるので!この町の人の顔なら全員解るんですよっ」

「へぇー、そのとある方が鍵なのか?」

「ああっ!!そ、そうだ、鍵…!何処かに落としてしまったみたいで、あああ、おやっさんのお昼もまだなのに…!」

「……………」




顔面蒼白で慌てる餓鬼…何故か、あの狐と似ていると思った

自宅の鍵を失い入れないらしい。そんな騒ぎを聞きつけてか着替えをすませた官兵衛が現れる




「何の騒ぎだ?って、誰だこの小さいの」

「じ、実は家の鍵を探してるんです!あれがなくちゃ困るんですっ」

「鍵か……何故だか小生、お前さんのそれが他人事とは思えん」

「おい官兵衛、いらんことは考えるな。私たちは…」

「いいだろう?近所付き合いだと思え!おい、小さいの。小生も一緒に探してやるぞっ」

「ほ、本当ですかっ!!?」

「あ、じゃあ俺も!三成様もどうっすか?」

「馬鹿を言うな。私は行かん」

「そうですかぁ残念。じゃ、サクッと遊んで―…いや、鍵見つけてきます!」

「今、遊んでくると言ったなっ!?待て左近っ!!官兵衛っ!!」




私の制止など聞きもせず、三人は揃って風呂屋を飛び出していった

ろくに知識もないくせに、ちゃんと帰ってくるんだろうな…!苛々と出口を睨む私の隣。柴田勝家も小さくため息をついた













「へー、島さんたちは最近、この町に来たんですね」

「島さんってのは聞き慣れねぇな…左近でいいぜ」

「小生も名でかまわんっ」

「はい、左近さん!官兵衛さん!僕は山中鹿之介、この町で晴様の屋敷に厄介になってます」

「晴様…って、アンタのご主人かい?」

「今は行方不明なんですが…でも帰ってくるって信じてます!だからその日まで、晴様の家を守らなきゃいけない…のに…」

「ふぅん…」




語尾を小さくさせながら元気をなくす鹿之介…やっぱり、結ちゃんに似てるなぁ

鹿之介が鍵を無くすまでに辿った道を歩く俺たち。その間に、俺と官兵衛さんはこの町について話を聞いていた


流石、自分で言うだけのことはある。どんな奴がいてどんなことをしてるのか、事細かに教えてくれた




「お二人は結さんの喫茶店も知ってますよね?」

「まぁそこに住ん…いてっ!!?」

「左近、それは言うなっての…!」

「そこの常連客の長曾我部先生は町のお医者様なんです!困った時は頼りになりますよっ」

「へぇ…」

「雑賀先生は強くて賢い高校の先生で、鶴姫先生は僕と年は近いけど人気の占い師さんで…あ!ただし毛利先生には気をつけてください!」

「う゛っ!!毛利か…確かに気をつけにゃならんな!」

「官兵衛さんこの前、言葉の暴力でコテンパンにされましたもんね」

「うるせぇ!」

「あの人は議員なんですが、町を我が物顔で牛耳ってる悪党!いつ結さんに魔の手が迫るか…!」




晴様だってきっとあの男が…!と拳を震わせる鹿之介…ああ、うん、頑張れよ

今の四人には会ったことがある。俺らの時代にいる連中と瓜二つ、もしかして鹿之介も…




「でも、マスターやマリアさんとも約束してますから!結さんは僕が守るって!」

「ほー、なんだガキンチョ。一丁前に結みたいな女が好みか?」

「いやぁ僕としましては、もう少し色気のあるお姉さんが…いってぇっ!!?」

「ちょ、官兵衛さーん。ガキを殴っちゃダメじゃないっすか」

「なんか腹が立った…!」

「いや、気持ちは察しますけど…いいかガキンチョ、色気のある女もそりゃいいけどな。無いなら育てろな勢いで…」

「お前もガキに何言ってんだ!」

「む…!ガキ扱いしないでくださいよ!僕だってやる時はやる、立派な男で―…」

『あ、いた…鹿之介くん!』

「え…結さーんっ!!!」

「うおっ!!?」




鹿之介の名を呼ぶあの子の声

俺と官兵衛さんの間を抜いて走り出したその先では、やっぱりだけど結ちゃんが俺たちを驚いたように見つめていた

…て、あれ?




「な、なんで結ちゃんがここに?」

『左近くん…官兵衛さん…鹿之介くんと知り合いだったんですか?』

「知り合ったばかりだけどな。御狐様はなんでここにいるんだ?」

『京極さん…あ、うちの常連さんの鞄に覚えのない鍵が入ってて。鹿之介くんのかと思って探してたんです』

「あ…そ、そうだ!マリアさんに遊んでもらって、それから鍵が見当たらなくなったんでした!」

『よかったね鹿之介くん。もう無くしちゃダメだよ』

「はい!僕のためにわざわざありがとうございます結さん…!また後日、お礼させてください!」

『ふふっ、うん、よろしくね』









「…官兵衛さん、まりあさんってのがどんな女かは知らないけど…あのガキンチョが腹立つのは分かったっす」

「女にモテるのはガキの間だけってのを今から教えにゃならんか」

「うっす」

「結さん…!お二人がすごく僕を睨んでるんですが!」

『え、えっと、どうかしたの、左近くん?』

「お前がチヤホヤされんのはガキだからだぞ!もっと色気のある女のとこ行っちまえ!」

『え…あ…す、すみません、色気がなくてすみません、ごめんなさい…!』

「あ゛…!ち、違う!別に結ちゃんが色っぽくないとかそんな…!」

「止めとけ左近!ガキンチョの思うつぼだ、墓穴掘るだけだ!」

「う゛…!」




落ち込む結ちゃんを慰めるガキンチョ

それを見た俺と官兵衛さんは、鹿之介を後で絶対にしばくと心に決めた





20140517.
風双璧と迷探偵

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