運命の輪 | ナノ

  隠し味は愛情を


『え、と…今日はマスターの部屋を片付けて、布団を干して、あと…は…』

「やぁ結くん、今日も1日張り切るようだね」

『あ…おはようございます、半兵衛さん。今日の朝刊ならそっちに…』

「あれ?」

『へ?』

「…はぁ、結くん。こっちに来なさい」

『あ、え、あの…?』

「君…熱があるだろう」

『………え?』









「えっ!!結が病気っ!!?」

「煩いぞ家康。長曾我部曰く疲労で熱が出たそうだ。大事には至らない」

「い、いや大事だろうっ!?結は大丈夫なのか…?」

「今は部屋で休んでいるよ。お見舞いと称して騒がないようにね左近くん」

「名指しっすかっ!!?」

「……………」




いつものようにワシと忠勝の朝食を受け取るため、結の店へやって来たのだが…出迎えた面々は何処か様子がおかしかった

なんでも結が熱を出したらしい。医者にも見せて大事には至らなかったが、しばらくは安静にすべきだろう




「小生らが来たのに加え、店の再開も決まって忙しそうだったからなぁ…無理をさせたか」

「いい機会じゃあないですかねぇ?あの女、こうでもしなきゃ休まないでしょうし」

「え、珍しく先輩がイイコト言って…痛い!痛いっす先輩っ!!」

「しかし…そうとなれば困りものよ。御狐殿がおらねば、われらは食事も満足にできぬではないか」

「「「…………あ゛」」」




やれやれと刑部がため息をつけば、皆の視線がそちらへ集まった

確かに…ワシらが此方へ来てからというもの、結は甲斐甲斐しく世話をしてくれた


だからこそ、彼女がいなければ何もできやしない。やって来たのは武芸ばかりな男連中だしな




「しかし、やらねばならぬ。弱った女を酷使するなど有り得ん」

「そうだね秀吉、彼女にはしっかり休んでもらうとして…うん、そうしようっ」

「む?」

「食事は僕が担当するよっ」




ガッシャーンッ!!!!




「うわっ!!?え、ひ、秀吉殿?」

「大丈夫ですか秀吉様っ!!?」

「う、うううむ!な、何でもない!」

「何でもなく見えんのだが…!」




半兵衛殿が食事担当を宣言した瞬間、秀吉殿が持っていた湯飲みをガッシャンと握り潰した!

慌てて駆け寄る三成に平気だと言うが全く平気に見えない。いったい何があったんだ




「は、半兵衛…!お前がわざわざ作る必要もないのでは…?」

「ふふっ、久々だからね。秀吉や僕にも下積み時代はあったさ、あの頃は僕が食事の面倒も…」

「あ、ああ、そ、うだな…!」

「…秀吉様、冷や汗スゴくないっすか?あれ?半兵衛様を止めるべきじゃ?」

「差し出がましいことをするな!半兵衛様が作ってくださるというのだ、お任せしろ」

「いや、三成、ワシも何だか止めるべきな気がするぞ」

「…半兵衛さん、意気揚々と台所に行っちゃいましたけどねぇ」





「おい刑部、ものすっ……ごく嫌な予感がするのは小生の気のせいか?」

「いや奇遇よな、われも同じよ。たいそう危険な虫の知らせがする」

「お前さんと気が合った時点でただ事じゃあすまんな」

「ヒッ…同感」





…………………。






「やぁ、お待たせしたねっ」

「なんじゃこりゃっ!!!?」




半刻程の後、台所から戻ってきた半兵衛殿の手にある物体

それを見た皆の気持ちを代弁して官兵衛が叫んだ。何だ、これは




「ドロドロでグチャグチャで黒くて煙出して鼻を突く臭いがしますねぇ…」

「見たまんまな感想!ちょ、ヤバイって!これはガチでヤバイやつだってっ!!」

「き、貴様っ!!半兵衛様に失礼だろうっ!?」

「じゃあ三成くん、味見をお願いできるかな?」

「!?!?!?」




久々だからねーっと笑いながら三成に物体を差し出す半兵衛殿。決して料理ではない

流石の三成も更に顔を白くし、受け取ろうと伸ばした手が震えている




「三成…拒否も時には勇気だ」

「し、しかし秀吉様っ…!」

「止めるんだ三成!それに手を出してはならない!」

「ぐっ―…!」

「ちょっと自信作なんだよねっ」

「自信作っ!!!?」




ああ、半兵衛殿…そんな笑顔で言ったら、三成が断れるはずがないだろう





「で、では、半兵衛様…ありがたく、頂戴致します…!」

「どうぞ、召し上がれ」

「……………」





…………パクッ



……………………。




バタンッ!!!




「三成っ!!?」

「三成様ーっ!!?」




その物体を口にした瞬間だった。三成の体がピクリと跳ねたかと思えば動かなくなり…そのままバタリと倒れる

動かない。即効性だ




「って、大丈夫か三成っ!!?」

「死んじゃ駄目だ三成様っ!!アンタは俺の希望なんだからっ!!」

「う゛…!と、豊臣を…!秀吉様をっ…!」

「遺言なんか止めろ!生きるんだ三成っ!!まだ助かる!諦めるなっ!!」

「うーん…三成くんの好き嫌いも困ったものだね」

「気づけ半兵衛っ!!それが原因ではないっ!!」




秀吉殿の叫びも今の彼には届かないらしい。何でもできる人かと思ったが、こんな所に落とし穴が

いや、何よりも無自覚なのが恐ろしい。三成を倒しておいて解らないのか彼は仕方ないねと呟き、物体を片手に二階へ向かう……は?




「結くんに食べさせてくるよ」

「病人にそれ食わせるつもりっすかっ!!?」

「え、だって体調が悪いときはお粥だろう?」

「それお粥だったのかっ!!?」






「…ちと不味いな。流石にアレを御狐殿に食わせるのは酷よ」

「み、三成であれだぞっ!?もし結が食ったら…!」

「……………」

「……………」





「っ―…官兵衛っ!?刑部っ!?」

「…何のつもりかな、二人とも」

「結の所には行かせんぞ半兵衛!ここは小生が守ってやらにゃならんっ」

「まぁ暗ほどのやる気はないが、それを食わせるは…あの女が哀れゆえ」




結の部屋へ向かう半兵衛殿の道を塞ぐように、官兵衛と刑部の二人が彼の前に立つ

普段は有り得ない組み合わせだが、なんだか頼もしいぞ…いや、半兵衛殿には勝てる気がしないが




「僕を止めようというのか…いいだろう!君らが豊臣の軍師に相応しいか見定めようっ」

「このような所でこのような風に見定められようなど夢にも思わなんだ」

「一度それを自分で食ってみろってんだ!人に食わせるのはその後にしろっ」

「なんだ官兵衛くん、食べたいならそう言えばいいのに」

「恐ろしく前向きだなっ!?って、止めろ!こっちに来るなぁあぁっ!!」







「…いつまで続ける気だぁこの茶番」

「は、半兵衛殿の作った物体を誰かが完食するまでだろう…って、何処へ行くんだ?」

「付き合いきれないんで…オレ様のことは気にせずに」




フラフラと何処かへ行こうとする又兵衛。いや、結の命がかかってるんだ

お前も何とかしてくれないかと呼び止めれば、彼はチラリとワシを見る。そして…





「お前はぁ、死にかけたそれの甦生に集中してろってんですよ」

「え…ハッ!!三成っ!?」

「息が!三成様の息がぁっ!!死なないでください三成様ぁあっ!!」

「……………」








「えーっと…これ、押したら…あ。開いた」




騒ぎが静まるのを待たず台所へ向かえば、そこは予想と違い綺麗なままだった

半兵衛さんの作品を見る限り、もっとグチャグチャになってると思ったが…一先ず安心、か


普段、あの女が米を炊いているカラクリの蓋を開けば、今朝の残りだろう米が一人分程度




「まぁこれくらいあれば十分か…ったく、あの狐ぇ…動いても動かなくても他人様に迷惑かけるのかよ」





仕方ねぇなと腕を捲り、まずは焦げた鍋を洗いますか






20140522.
半兵衛又兵衛の料理対決前編

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