Σ-シグマ-高校時代 | ナノ
さよならの日


さようなら、お元気で

私はアナタを忘れない






雲一つない晴天とは、まさに絶好の卒業式日和である







「皆の者…今日はおぬしらの、青春における最大の大一番。これまでの己を振り返り、今一度気を引き締めるがよい」

『……………』

「…だが、それ以上に悔いの残らぬ別れとしよう。それがワシから唯一、皆への望みである!では!皆体育館へ向かうのじゃーっ!!」

『…卒業式、』




武田先生の挨拶も、これが見納めなんですね

クラスメートが体育館へ向かう中、チラリとうかがった机。そこに座っていたはずの親友は、今日も現れなかった






−1時間前






「今日も風魔はいないのかっ!?卒業式だぞっ!!」

「電話をかけても応答しない…このまま現れないつもりか」

「そつぎょうしきをけっせき…りゆうがあればみとめられるでしょう、しかしこのようなわかれはあまりにも…」

『風魔くん…』

「…大丈夫ですってナキ先輩、風魔先輩ですからぁ?素っ頓狂な登場しやがりますよぉ」

『…だといいのですが』




朝一番。卒業式を控えた私たちいつものメンバーは、人のいない教室で最後まで彼を待っていた

ある日をきっかけに学校へ、私たちの前へ、現れなくなった風魔くん。卒業式には…と思っていたが、やはり彼は来なかった




「…ところで、風魔だけじゃなく黒田も見当たらないが?」

「あー…官兵衛さんならただの寝坊じゃあないですかぁ?官兵衛さんだし」

「な、なるほど」

『黒田くんだから、と納得してしまうのもアレですが。後藤くん、連絡してあげたらどうでしょう?』

「ナキ先輩が言うなら…ったく仕方ねぇなぁ………………留守電」

「寝ているな」

「ねていますね」

「まったくどいつもこいつも…!今日が終われば、いつ、会えるか分からないっていうのに!」

『………………』




かすがさんの言う通り。私たちの中に、同じ道を進む人は誰一人としていなかった

あの上杉くんとかすがさんさえ、選んだ大学は別々だ。私は貿易関係の会社に就職。雑賀さんは実家のお父様に弟子入り。そして、風魔くんも…




「大丈夫だ小石、我らは風魔を信じて待とう」

『雑賀さん…でも、風魔くんが来てくれなかったら…私は…』

「その時はそれが、風魔の選んだ答えだ。だがそれでも、必ず我らはまた会う。何十年先であってもな」

『…………はい』

「行こう、小石」

『はいっ』




雑賀さんの力強い声に返事を返し三年の教室に戻ろうとした、その時…





「あのぉ…ナキ先輩…」

『はい?』




ごにょごにょとはっきりは聞こえない声で、後藤くんがこっそり話しかけてきた





「卒業式が終わったら、なんですけどねぇ…あのぉ…えっと…」

『はあ、何でしょ…あ』


ニーッ!!

ミーッ!!



「い゛っ…てぇこらクロ!シロ!爪立てるんじゃあないですよぉっ!!」

『クロ、シロ。貴方たちもずいぶん大きくなりましたよね』




後藤くんの肩にマフラーのように掻きついていた二匹は、私たちが出会った頃よりずいぶん成長していた

以前は後藤くんの頭に乗っていたのに今では立派な猫。そんな彼らも私たちの卒業式に駆けつけてくれたらしい




ニーッ

ミーッ


「はいはい分かってますからお前らは黙っとけ…先輩、後で、話が…あるんですけど」

『今ではダメなのでしょうか?』

「だ、ダメですダメ!卒業式終わったら、また、話しかけますんで…待っててください」

『…分かりました』

「へへっ、あ、そうだオレ様としたことが大事なこと忘れてました」

『ん?』

「…卒業、おめでとうございますナキ先輩」

『…ありがとうございます、後藤くん』

「オレ様も、すぐ、追いつきますからねぇ」









…昨日、







「でぇーきたぁっ!!できましたよぉっ!!今度こそっ!!ナキ先輩に渡すラブレターっ!!」


ニーッ

ミーッ




昨日の夜…いや朝方?一枚の手紙を書き上げたオレ様は、近所のことなんか気にせずに叫んだ

送る相手は他でもない。明日、高校を卒業してしまうナキ先輩宛だ


…一度失敗してしまった告白を、再びあの人へ




「次こそポエムって間違われないように、ナキ先輩への愛はストレートに綴りましたからぁっ!!何より!この最後の一行!」


ニー…

ミー…


「ああ、お前ら猫だからぁ?人間様の言葉は分かりませんよねぇ?仕方ねぇなぁ読み上げてやりますよ…」




後藤又兵衛より、


前回は不覚にも書き忘れてしまった自分の名前。そのせいでイタズラだと思われた…素敵なポエムって褒められましたけどねぇ!

だが今度は違う。オレ様はナキ先輩に告白するんだ。こいつらが繋いでくれた運命だからな




「…卒業してサヨナラなんて、嫌ですからねぇ」


ニーッ!!

ミーッ!!


「お前らも行きますか、卒業式?いいですよぉ一緒におめでとう言いましょうねぇ」




ごろごろと足にすり寄ってくる二匹を持ち上げて、ボロボロなベットに倒れ込む

…あ、官兵衛さんにもおめでとうって言ってやらないと。でもきっと寝坊しやがりますねぇだって官兵衛さんですから




「…先輩、ナキ先輩…ナキ先輩」






アナタに忘れられたくない






20151201.


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