You Copy?
「おい、ありゃ何だ?」
『歩道橋ですね。車を避けて向こう側まで行くための道です』
「あれは?」
『ビルです。あれも一応…家と言うか屋敷と言うか』
「向こうのは何だ?」
『・・・・』
さっきから長曾我部さんは私を質問攻めにする。目に入るもの全てを聞いてくるからなんか疲れてきた。いや、目をキラキラ輝かせる彼にそんなこと言えないけど
「…………」
『あ、毛利さん、疲れちゃいました?』
「…黙れ」
『えぇ−…』
対する毛利さんはずっと黙りを決め込んでいた。ただ、ときどき私の手から逃れようとするけど放してあげない
『ああ、あれがコンビニです。食べ物とか雑貨…だいたいあそこに揃ってますよ』
「店か…やっぱ妙な形してんなぁ」
『ちょ、気をつけてくださ−…!』
好奇心旺盛な彼は私の手を引っ張りコンビニへ向かう。ダメですよ!まだ説明してないことが…!!
ウィンッ
「うぉっ!!!?」
「っ!!!?」
『あっちゃー…』
自動で開いてくれる扉…略して自動ドアに飛び退く長曾我部さん。毛利さんもビクリと肩を震わせた、いやビビるなよ
『…こんなドア、たくさんありますから。気をつけてくださいね』
「すっげぇカラクリだな…!!」
『ちょ、興奮しないでください入りますよっ』
「・・・・」
『は・い・り・ま・す・よ、毛利さんっ』
「ふんっ…」
長曾我部さんと毛利さんを引っ張りコンビニに入ると、可愛い店員さんが「いらっしゃ、」まで言って押し黙った
そりゃ片方は銀髪に眼帯付けた強面の兄ちゃん。片や射殺す視線で周りを警戒する兄ちゃん…その手を掴むスッピンの私。ビビるよね、やっぱり
『今日はとりあえず必要なものだけ買いますね。弁当と歯ブラシくらいかな』
「…すげぇな…これ全部食い物か?」
「色が奇妙ぞ」
『あー…着色料とかないもんなぁ昔。大丈夫です、食べられますから』
ソワソワする彼らを落ち着けて、三人分の弁当と新しい歯ブラシを会計する。店員さんがビビるので二人は外に出しておいた
『はい、じゃあ帰りましょうか』
「おうっ!もう手は繋がなくて大丈夫か?」
『いえ、帰りは違う道を通ってみるので一応繋いでください』
「そうか…ほらよっ」
『あ…』
長曾我部さんは私の持っていた袋を奪い右手を差し出してきた。一瞬驚いてたじろいだけれど、左手でその手をとる
うーん…ゴツゴツした大きな手。この手から兄を思い出すのは、私がブラコンたる由縁か…いや、彼は兄じゃない…けど…
『…お兄ちゃんみたいですね長曾我部さん』
「あ?」
『私が引っ張ってるはずなのに…おかしいな』
「ははっ!兄貴か、悪くねぇがアンタには本物がいるんだろ?」
『あははー、いたんですけどね』
「っ……」
『……あれ?』
突然、長曾我部さんの表情が固まった。右側にいた毛利さんも少し驚いている
そういえば…兄がいる、とは言ったけど死んだとは言ってなかったな。失敗、失敗
『事故で。一緒に暮らしていたんですけどね』
「事故…か」
『はい、夜道、後ろから車に…と聞いてます』
典型的なひき逃げだった。動かない兄には無数の傷があって…痛かっただろうな、残業で疲れてたのにな
雨の降っていたあの日を…私は忘れることができない
『だから正直、助かりました。二人が落ちてきたのが私の家で』
「貴様…苦労が喜ばしいと言うのか」
『苦労と言うか、寂しかったんですよ。兄さんがいない家が』
だから助かった。彼らが居てくれたら…きっと兄を思い出す回数は減るだろう。きっと魂が抜けたようになることもない
『だから気にせず我が家だと思ってください!兄さん!保険金を活用する私を許してくださいっ』
「あー…よく、分かんねぇこともあるけどよ。俺らが世話になる間は、俺がアンタの兄貴代理だなっ」
『マジですかっ!』
意外な言葉に顔を上げたら、やっぱりニカッと笑う長曾我部さん。やばい、アニキ、男前だ
「だから敬語もいらねぇし、長曾我部さんじゃなくて元親でかまわねぇよ」
『了解!任せろ元親っ』
「切り替え早っ!!!」
「我を呼び捨てることも馴れ馴れしく話すことも許さん」
『わ、分かってますよ…』
「ふんっ…」
『……あれ?』
…とか言いつつ、私の空いた手を握る…じゃなく掴む毛利さん。なんだデレか、と見上げたら目は冷たいままだから違うらしい
『あのー…』
「くるまとやらは危ないのだろう?我を危険に晒すでない」
『は、はぁ…じゃあ、早く帰りましょうか…元就、さん』
「…………」
試しに名前を呼んでみたが怒られなかった。帰り道を知らないくせに私を引っ張る元就さん
車は危ない…そう言いつつ、車道側を歩いてくれるのは無意識なのだろうか
mae tugi