You Copy?
『とりあえず晩御飯を買いに行きましょう。あと着替え。兄さんのがあるからそれで』
「おうっ」
「…………」
長曾我部さんと毛利さんを引っ張って兄さんの部屋にやって来た。タンスからとりあえずTシャツとジャージズボンを引っ張り出す
長曾我部さんは体格いいけど…兄さんも大きかったから、きっと大丈夫だろう。よし、これでいこう
『じゃあ、コレに着替えてください』
「…やっぱ今のじゃダメか?」
『ダメです』
「…………」
私の即答に顔をしかめる長曾我部さん。毛利さんは渡したTシャツをひらひらと動かしては観察している…なんか可愛いな、毛利さん
『えっと、着方は頭を真ん中に入れて…こうですっ』
とりあえず一枚、私は上からTシャツを来て見せる。裏と表の説明も忘れない。ズボンは…まぁ、大丈夫だろう
『じゃあ着替えたらさっきの部屋に来てくださいね…あ。武器はここに置いておいてください』
「なに…?」
『…あの、平成は武器を持ち歩けないんですよ。犯罪者になっちゃいます』
「おいおい、あんた独りで暮らしてんだろ?賊に襲われたらどうすんだ」
『ポリスマンに電話します』
「ぽ、りすまん?」
『あー…とにかく大丈夫です。安心して丸腰になってください』
「ふん…まぁ賊ごとき、我が焼き焦がしてみせようぞ」
『(や、焼くっ!!?)』
やっぱ物騒な彼らを置いて、私は居間まで引き返す…しかしまだ信じられない。戦国武将が我が家にやって来た?嘘でしょ
『勢いで住ませることになったし…!あぁ、兄さん、お許しくださいっ!!!』
ほんと、まずい。見ず知らずの男を住ませるとか…でも困ってたし放り出せるわけないし
寂しかったし
『…二人が帰るまでの間、一緒にいてもらえたら…』
長曾我部さんの背中は広かった。まるで兄さんのように
毛利さんに隠してもらった。背中にしがみつくなんて何年ぶりだろう
『私…』
「おい雪子っ」
『あっ…はいっ!』
考え込んでいる私を呼ぶ長曾我部さんの声。振り向けばそこには黒のTシャツに紺のジャージ…まぁ、とりあえず、地味にまとまった彼がいた
あ、やば、眼帯はそのままだ。医療用とかあったかな
「悪いが他の着物はねぇか?」
『え…あ、もっと派手な方がいいですか?』
「いや、俺じゃなく、だな…」
『?』
チラリと背後に視線を移していくから、私も彼の後ろを確かめる。そこにいるのは同じくTシャツを着た毛利さん…だが…
『あー…大きい、ですね』
「だろ?」
「・・・・・」
長曾我部さんにはピッタリだったTシャツも、毛利さんには大きすぎたらしい
ブカブカとしたそれは、肩に留まらずズルリと落ちていく。それを掴んで止めている彼はひどくご立腹だ
『……ブカブカTシャツ萌え…』
「?」
『…予想以上に毛利さんが美人で戸惑ってます。あと可愛いです写メダメですか』
「散れ」
『いたっ!!!?』
兜を退けたから彼の顔がよく見えて、そしてとても美人だった。ドキッとしたじゃないですか。記念に一枚どうですか
しかし写メの件で意味は解らずとも下心は察したらしい。毛利さんの華麗なチョップが私の脳天に落ちてきた
『っぅ…あ、そうだ。ほっぺにシップくらい貼っとかなきゃ』
「しっぷ?」
『怪我したときの処置に必要で…あと眼帯を…あった!』
とりあえず救急箱からシップと、初めて使う医療用の眼帯を取り出す。そしてそれを長曾我部さんの手へ
『その眼帯は目立つのでこっちに代えてくださいっ』
「え…」
『?』
「あ…いや、俺は…この…」
『(…そう言えば…)』
長曾我部元親。彼の片目は確か史実で…
『毛利さん、私のTシャツなら入ると思います。私の部屋へ行きますよ』
「っ!!!気安く我の手を掴むでないっ!!!」
「あ…」
『私たち“別の部屋に”行くので長曾我部さん!付け替えといてくださいね』
「……おうっ」
「ええい引っ張るでないわっ!!!」
『あ、似合ってますよ長曾我部さん!あとでワックスで前髪決めましょうね』
「わっくす?まぁ、後で説明してくれや」
『毛利さんもサイズ大丈夫ですね、複雑ですが』
「ふんっ…」
着替えを済ませた私たちは予定通り、コンビニに晩御飯を買いにいく…が、しかし失敗した。私は彼らに外の様子を説明してなかったんだ
「・・・・・」
「・・・・・」
『えぇ−…』
兄さんのサンダルを履かせ家から一歩踏み出した瞬間、タイミングよく目の前を高速で車が横切ったのだ。狙っただろドライバー
その速さに対応できなかったのであろう二人は、ピタリと固まり動かなくなってしまった。おいおい
『あー…あんな高速の鉄の塊“KURUMA”が存在します。ぶつかったら死んじゃうんで気をつけてください』
「…伊達の馬より速かったぜ」
「大谷の御輿よりもぞ」
『?』
とりあえず気をとり直して右手で長曾我部さん、左手で毛利さんの手を掴み歩いていく。いざ、コンビニへ
「っ…は、離さぬかっ!!我は独りで…!」
『車がたくさんあるんです』
「…………」
「ははっ毛利!はじめのうちは仕方ねぇよ」
「黙れっ!!!」
『あははー』
mae tugi