You Copy?



『わ、わたし、かね、めのも…の、ないっ…です…!!』

「いや、だから俺らは物取りとか人拐いじゃなくてな…」



風呂場で裏拳事件から一時間。私たちはこんなやり取りを続けていた。外はもう真っ暗だ

頬は腫れ口の中も切った私は上手く喋れず、恐怖もあいまって会話はまともにできない状況。眼帯のお兄さんから逃げるように、緑のお兄さんの背中に隠れていた



「つか、毛利の側に居る方が危ないってぇのっ!!こっち来いっ!!!」

「野蛮な貴様よりも我を選んだのだ、なかなかに賢いぞ女」

「てめっ…!!!」

『っ…………』



彼がまた睨みを強めたから私はお兄さんにしがみついた。それに一方は舌打ちし、もう一方は鼻を鳴らす

緑のお兄さんは…私が自分を頼ったから、多少なりの優越感を感じているらしい。いや、どっちも不法侵入ですよ


『…え、と…毛利、さん?』

「気安く我の名を呼ぶな」

『ひっ…!?』

「毛利っ!!!俺は長曾我部元親ってんだ、アンタは?」

『……木下…雪子…』

「雪子だなっ」



ニカッと笑って私の名前を呼んでくれた長曾我部さん。見た目はワル…というか不思議な格好だけれど、なかなか気さくそうな人だ

ただジクリと痛む頬が警戒を解いてくれない。だって恐いんだもの



「雪子、悪いんだがここが何処か教えてくんねぇか?」

『え…』

「俺の見たことねぇ置物ばっかでな…早く帰らねぇとな」

『…あ、いや、だって…長曾我部さんたちが、風呂場から現れたんじゃ…』

「風呂…?」



私の前の毛利さんが振り向く。うわぁ、めっちゃ睨んでるじゃないですか、また泣きますよ私

しかしまぁ…食い違いがすごい。まず服。鎧のような甲冑のような彼らの姿は奇怪である。そして見たことない置物?一般的な家財道具しかないですよ



『それに二人とも…その格好じゃ、ここを出た瞬間に捕まっちゃいます』

「は?」
「は?」

『……え?』



…いや、待ってよ、様子がおかしい。なんだこの食い違い、なんだこの人たち

奇抜なファッションを見比べていると、とてもこの世…いや、この時代のものとは思えな…い…あれ?



『…長曾我部…元親さん?』

「お、おお」

『じゃあ…毛利…輝元さん?』

「っ…我は毛利元就ぞっ!!!」

『え−…』



長曾我部元親と毛利元就ってめっちゃ有名な戦国武将じゃないですか四国と中国の。それと同姓同名…いや、違う



『ご、ご本人様…?』

「当たり前よ!本物の長曾我部元親だってぇの」

『う、そだぁ…だって、今は、平成じゃないっすか』

「…は?」
「…は?」

『えぇ−…』







『つまり…戦国時代の武将さんなんですね』

「んで…ここはへいせーって時代なんだな…?」

「世迷い言を…!」

「毛利っ!!!雪子は嘘言っちゃいねぇよ!部屋の中見てみろっ!!」

「…………」



長曾我部さんの言葉に彼は黙ってしまう。当然だ。電化製品なんて知らないはずだろうし、逆に別の時代と言われた方が納得できるはず

つまり…タイムスリップ




「神隠しみたいなもんか…俺らが飛ばされちまったようだな」

「ふん…何故、貴様と我なのだ…解せぬっ」

『あ、とりあえず時代を越えたのは理解してくれたみたいですね』



助かった。私はまだよく理解してないけれど、暴れられるよりは幾分かマシだ。それに…泥棒じゃなくて助かったのも事実



『…でも帰る方法、分からないんですよね?』

「まぁな。弱った…野郎共が探してるだろうなぁ」

「…我が不在の安芸は…どうなる…」

『…………』



二人には残してきたものがある。人であり国であり…知らない場所で生きるには、彼らは足りないものだらけだ


それは知識であり…住む場所



『あ、でも不運ばかりじゃないですね』

「あ?」

『落ちてきたのが私の家でよかったですね!とりあえず部屋はありますから』

「…………は?」

「いや、ちょ、待て雪子っ」

『え?』



慌てた風に私を呼ぶ長曾我部さん。毛利さんも驚いた顔をしている…いや、そんな顔しても幸運ですって



『ちょうど私、一人暮らしなので。兄の部屋が開いてるし、客間も…』

「貴様…我らを置くつもりか?」

『え?置かれちゃまずいですか?』

「いや、普通はまずいだろ」



長曾我部さんのツッコミにヘラっと笑いかえしたら、頬がズキリと痛んだ。それを見て申し訳なさそうにする長曾我部さん



『平気です。小さい頃、兄さんと喧嘩した時の方が痛かったし』

「や、しかし…」

『お二人が帰るまでですよ、大丈夫、きっと帰れますって』

「…………」



渋い顔をした長曾我部さんはチラリと横目で毛利さんを窺う。彼はとうに涼しい表情に戻っていて、スッと私を見下ろした



「……雪子」

『は、はいっ(え、名前?)』

「当然…部屋は別であろうな?」

『あ、もちろん』

「毛利っ!!!」

「黙れ長曾我部。嫌なら貴様は行く宛もなくさ迷えばよかろう」

「〜っ!!!世話になるぜ雪子っ!!アンタとコイツを同じ屋根の下に住ませちゃおけねぇっ!!!」

『は、はぁ』

「それに…怪我させちまったぶんは責任とらなきゃなっ」



やっぱりニカッと笑う長曾我部さんと、不機嫌に眉を潜める毛利さん。まぁ二人とも、私の家にやっかいになってくれるらしい

けれど…



『兄さん…緊急事態とはいえ、見ず知らずの男性を家に住まわせる私を許してください…!!』

「安心しな!毛利からは俺が守ってやるからよっ」

「貴様の側ではまた傷物にされるのがオチよ」

「テメェ……!!!」

『え、ちょ、ストップっ!!!け、喧嘩の前にさっ…』

「ん?」

『ば、晩御飯買いに行きましょっ』





mae tugi

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