You Copy?



「行ってくるぞ」



そう言った広い背中が帰ってくることは二度となかった。小さい頃からずっと一緒だった大好きな兄は、写真の中の思い出へと変わる










『あ…懐かしい、海水浴の写真だ』


人とは単純な頭でできているらしい。大好きな兄が事故で亡くなって数ヶ月…この月日は彼を思い出へと変えてくれる

葬式後一週間は両親に世話をされなくちゃ生きられないほど魂が抜けていた。その後二週間、私は独りの家で兄の背中を探した。そしてまた一週間…立ち直るには充分すぎる時間だった

あっという間に保険金や葬式の話も進み…県外に暮らす両親は、兄の保険金を全て私に管理させようとする。いや、しがない女子大生には使い道なんかないよ



『でも兄さんの部屋なんて久しぶりに入ったけど…くそ、整理してるなぁ』



ちなみに今は遺品整理の真っ最中…とは言っても、兄はきっちりした性格だったから片付けなんてほとんどない。思い出のアルバムを広げて感傷に浸る…くそ、我が兄ながらいい筋肉だ



『あー…そろそろ買い物に行かなきゃ…コンビニでいいか、別に』



社会人だった兄と大学生の私。お互い学校や会社が終われば真っ直ぐ帰ってきたけれど、やはり勝手がきくのは学生の私の方。食事はいつも私が担当していた

…独りの今はコンビニですましているけれど



『…独りで食べたって美味しくない』



両親は私を自分達のもとへ連れ帰ろうとした。しかし今年で大学を卒業する私。就職が決まるまでは現状維持で話はまとまった



『独りで暮らすには…広い家』



私独りで一戸建てなんて贅沢な。ペットでも飼えば…いや、躾とか大変だし散歩の時間もない



『…………』





− 人が、恋しい






バッシャンッ!!!!!



「うぉぉっ!!!?」

『!!!?』



跳ねる水音と知らない叫び声に悲鳴すら忘れて飛び上がった

な、なな何事っ!!?水音!!?風呂場から!!?泥棒っ!!!?



『兄さんっ!!!…は、いないんだ、ちょ、え、待っ…!!』



テンパる私を追い込むように風呂場からは直も水音が聞こえる。まずい、非常にまずい、殺されるんじゃないか私



『け、警察っ!!そうだ、ポリスマンっ』



私は急いで携帯を取り出し警察に電話をかける。震えるな私の指先

“1”…“1”…




「どこだここはっ!!!貴様の仕業かっ!!!!」

「俺じゃねぇよっ!!!俺だって混乱して…っ!!!」

「ええい黙れ!!焼け焦げよっ!!!」

『!?!?!?』



や…




『焼くなぁぁぁぁぁっ!!!!!!』

「っ!!!?」
「っ!!!?」

『……あ゛』



“焼く”という物騒な単語のせいで、思わず風呂場のドアを開いてしまった…ああ、今、会いに行きます兄さん。死を覚悟した私の目に飛び込んできたのは




紫と緑のお兄さん。そして…




『え…』



振り向き様に加えられた華麗なる裏拳だった











『う゛…っ…ぁ…』

「おい、アンタっ!!大丈夫かっ!!?」

『…………』



頭がガンガン痛い。目の前が真っ白い。喉が引きっている。じわじわと口のなかに鉄の味も広がっているし

ああ、本気で兄さんが迎えに来たのかもしれない。ごめんね兄さん、大学ちゃんと卒業できなか…





『…………う?』

「っ!!!?」

『…………』

「起きっ…!!大丈夫かっ!!?俺が見えるかっ!!!?」

『っ……ぇ…』



見えたのは兄さんでもお花畑でもなく、大きな眼帯?を付けたお兄さんだった

綺麗な青い瞳と銀髪、私を心配そうに覗き込む彼を私は知らない。ただ、この声はさっき風呂場で…



『っ!!!?ゃ…た…っ!!!』

「う、動くな、まだっ!!!」

『〜〜っ!!!』



逃げようとすれば肩を掴まれ再び押さえつけられた。よく見れば私の布団…寝かせてくれたのはいいが、私は彼に殴り飛ばされたのだ



『っ…ゃ…!うぅっ…!』

「落ち着け、さっきは悪かったっ!!アンタが突然入ってきたからつい…!!」

「ふん…女に手をあげるとは貴様、本物の鬼まで堕ちたか」

「テメェは黙ってろっ!!!」

『っ…………』



眼帯のお兄さんの後ろには、同じく風呂場にいた緑のお兄さん。彼はとても長い帽子と大きな輪っかを持っていた

…いやいや、待ってよ




『…ど、な…た…?』




彼らからは、何故か潮の香りがした





mae tugi

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