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久しぶりに賑やかな夕食。たくさん作ったお好み焼きの生地は、きれいさっぱり無くなってしまった。片付けは猿飛さんが手伝ってくれたし、あとはゆっくりすごすだけ
やはりテレビに群がる武将たちを残し、私はベランダに出た
『ふぅ…』
まだ少しヒンヤリとした夜風。今日は疲れた…明日からはもっと大変なんだろう
…猿飛さんに洗濯機の使い方、教えようかな
「なんだ、ここに居たのか」
『あ…元親』
「一言言っとけよ。消えたと思って心配しただろ」
『ふふっ、ごめん』
フラリと現れた元親が、私の隣に並んで空を見上げる。星は…少なくなっただろう。夜でも明かりが広がっているから
「…化粧は落としたのか?」
『もちろん。あ、すっぴんが別人とか言わないでよ』
「俺としては化粧してた方が別人だったからな。やっと雪子に戻った」
『そ、う…?』
「おう、そっちの方が俺は好きだ」
『っ−…!!』
あ、あー…えっと…元親の言葉に、私は分かりやすく他所を向いた。バクバク言ってる、心臓が
さらりととんでもないことを言う彼に、なんて返事を返すべきか分からず…そのうち元親の方が、私に話しかけてくれた
「…大谷の包帯、巻くの手伝ったって?」
『え…う、うんっ』
「石田が嬉しそうに話してた。毛利はブツブツ文句言ってたがな」
『三成が…そっか…』
「怖くなかったのか?」
『っ…………』
「他人と…人と違う身体に、恐怖はなかったのか?アンタは…」
『怖いなんてない、大谷さんは病気なの。彼のせいでもない…彼自身に…変わりはない』
元親の怖くないのか、って質問。もちろん私は聖女じゃないから驚きはする。けど拒むなんてしない。むしろだからこそ…何かしてあげたいんだ
私の返事に彼は「そうか…」と呟いただけ。そのまま二人、静かに星を眺めていた
しばらくして…
『も、元親の目って綺麗だよね』
「あ?」
『青…すごく澄んでる。私、初めて見たよ』
彼の顔を覗き込んで言えば、元親は意味が解らないと言う顔をして…ヘラりと苦笑した
「そんなこと言う奴、初めてだな。俺の目をまともに見る女も珍しい」
『えぇ−…元親さんって百戦錬磨っぽいから、いろんな女の子を口説き落としてたんじゃないですかー』
「喋り方、気持ち悪ぃ」
『痛い!暴力反対っ』
「今のは暴力じゃねぇよ。躾だ躾っ」
体罰にありがちな言い訳を述べたあと、元親は少し悲しそうに笑った。それが気になって私はそっと、彼の目元に手を伸ばす
『本当に綺麗よ…本気で口説かれたら落ちるくらい』
「兄貴しか眼中にないくせに、よく言うな…」
『バレたか』
「ったく…だが、アンタは“こっち”も知ってるんだろ?」
『っ………』
元親は私の手首を掴み自分の左目…眼帯の上をなぞらせた。互いの目を見つめ合い沈黙
…そっか、医療用の眼帯に付け替える時、私がわざと部屋を出たから気づいたんだ
『…伝承、だから。根拠はない』
「…………」
『元親…』
「…見てみるか?」
『え…』
パッと私から手を離した元親は、次に両手を眼帯にかけた。驚く私を気にすることなくずらされたソレ。そこから現れたのは…
真っ赤な瞳だった
『…………』
「…ははっ、鬼の目…ってやつだ。驚くだろ、誰でもな」
『元親…』
「言うなよ、それ以上は。もう聞きあきてるからな」
アンタの口からは聞きたくない。そう言ってまた笑う元親
じゃあ何故、私に瞳を見せたの?何故、見せてくれたの?何故…笑えてないの?悲しいの?
『元親…』
「…………」
『ねぇ、元親っ』
「っ…………」
今度は、私が手をとる番
『綺麗よ』
「なっ−…!!」
『とても綺麗、私…初めて見たよ、赤い目も』
月明かりでも分かる赤。驚いた彼が目を見開いたから、さっきよりもよく見える
鬼の瞳もやっぱり澄んでいた
「っ……血の色、だぞ。鬼の色だ、怖いだろ?」
『私の血も赤だよ。元就さんや三成も…大谷さんや政宗さんだってみんな赤』
「っ………」
『たとえ元親が鬼でも、元親の血は赤じゃない。私たちと変わらないわ』
珍しいのかもしれない。けど私たちは皆見た目が違っていて、同じところの方が少ない。なら瞳の色だって違うじゃない
その違いに対する驚きよりも、元親が秘密を話してくれた。その嬉しさの方が何倍も大きいんだ
『…ふふっ、綺麗だよ元親っ』
「あー…っくそ、綺麗って言うんじゃねぇよ…俺はこの目が…」
『…………』
「いや…もう、いいさ。アンタは鬼を気に入ったんだ。俺は何も言わねぇよ」
『そう?…ねぇ、元親』
「次は何だ?」
『…話してくれてありがとう』
「…………おう」
眼帯で遮られた左目に、再びそっと触れてみた。鬼の青い瞳は細められて…私の頭をくしゃりと撫でる
(ちょっと、なにイチャイチャしてるのお二人さん)
(げ、猿飛…!!)
(鬼の旦那…そろそろ寝る時間だってさ。部屋いくよ)
(あ、もう遅いね。おやすみなさい、二人とも)
(雪子、おやすみ)
(おやすみ、姫さんっ)
(邪魔すんな猿…!!)
(あはー、俺様も大将も、そこそこ姫さん気に入ってんだよねー)
(…………)
(…………)
mae tugi