You Copy?
『みんなーっ、机の上を片付けて。夕飯の準備しまーす』
「ほら大将っ!机拭くから離れてっ」
「う、うむっ」
新品のお好み焼きプレートを抱えて私が現れたら、みんなバッと夕食モードに入る。もちろんプレートは三成が受け取った
『この鉄板の上で焼くの。先に油を入れるからね』
「生地はどこに置く?」
『あ、プレートの横にお願いします』
私の後ろからやって来た政宗さんは、作ったばかりの生地を持っている
それを覗き込む武将たち。政宗さんの苦笑なんか気にしていない
『コレに麺や卵を入れるの。お腹も膨れるし野菜やお肉も入るからね。まず手本を見せます』
私はプレートの上に豚肉を敷き、焼きそばの麺を適当に乗せる。そして政宗さんと作った生地を流した
『麺がつなぎになるんですよ。これなら崩れにくいし』
「なるほどな…」
『片倉さんも後でやってみてくださいね。じゃあ次は卵です』
真ん中に卵を割り、蓋をして焼けるのを待つ。しばらくすれば、よりいい匂いがしてきた
『ここからがお好み焼きの醍醐味だよ…ひっくり返しますっ!!!』
「おお、雪子殿は本気のようでござるっ!すさまじい気合い!」
みんなが見守るなか、私はヘラを持ちお好み焼きに引っかけ、いざ、慎重にかつ手早く…ひっくり返した!
表面には美味しそうな焦げ目が付いている
『これにソースや鰹節、マヨネーズ、青のりを好みでかけてくださいっ』
「へぇ、旨そうじゃねぇか。俺もやってみるか!」
「長曾我部殿!某もっ!」
「大将はダメ!絶対、天井まで飛ばしちゃうからっ」
「三成も止めておけ。真田同様、食べ物を粗末にするだけよ」
「!?!?!?」
真田君たちが争っている間に、政宗さんと片倉さんが焼き始めた。うん、さすが料理主従。手元はぎこちないながらもお好み焼きらしく焼いている
それに安心しつつ、私は焼き上げたお好み焼きを持って…離れて傍観する元就さんに近づいた
『これどうぞ、元就さん』
「…何のつもりぞ」
『いや、みんなワイワイ作るから…あの間に元就さんは割って入らないかな、と』
プレートに群がる彼らと調理。しかも見られながらなんて彼は絶対に嫌だろう。その性格を見越してだ
その証拠に、お箸とお好み焼きを素直に受け取っている
「ふん…仕方ない、我が毒味してやるわ」
『毒味て…不味くないですよ。広島風、私も好きです』
「…ひろ、しまふう…?」
『この焼き方は広島って県が発祥なんですよ…ああ、ちょうど元就さんの国ですね』
「っ…………」
安芸国。今の広島を拠点に彼は中国を制覇したはず。時代は違えど故郷の味。お気に召すだろうか
ドキドキと彼を見つめる…が、まったく口にする気配がない。どうして…好き嫌いがあるのだろうか?
『元就さん…?』
「…………」
『…………』
「…………」
『………あ』
お好み焼きを睨みながら何か考える元就さん。そうか、そうですね
『心配ですね…元就さんの国』
「…………ふんっ」
『大丈夫ですよ、ここに来られたのなら帰る方法もあります。だから…』
「貴様の言葉なんぞ気休めにもならぬわ。我が兵は我が居らねば何もできぬ駒ぞ」
『…………』
「奴等に中国が、我が国が、守れるわけなかろう…長曾我部らは呑気なものよな」
いつになく饒舌な彼の矛先は、お好み焼きに四苦八苦する武将たちに向けられた。やはりぐちゃぐちゃになっている真田君のお好み焼き…伊達さんのは綺麗だ
いつの間にか馴染んだ彼らに、元就さんは納得できないらしい
「腐っても国の主が国をあけ、かような地で呆けておる」
『仕方ないですよ、焦っても何も起こりませんから…それに皆さん、心の中では…』
「……………」
いつ帰れるのか解らない。彼の言うように、私の「大丈夫」に根拠はない。しかも元就さんは…他人と仲良くなんて、無理なんだろう
孤独な人だ
『でもほら、元気だしてください。寂しくないようにできるだけ一緒にいますから』
「っ!!!貴様は我を愚弄するか…!!誰が寂しいなどと…!!」
『あはは、ごめんなさい。でも私は…元就さんの気休めにはなりたいです』
「っ…………」
『テレビもあります、本もあります。他にも必要な物があれば言ってください』
「貴様は…」
『?』
私は独りが寂しかった。話し相手もいない空間で、ただ同じことを繰り返して
兄さんを失った寂しさや怒りをぶつける相手も見つからない。いろんな感情を弄んでいた私の前に、現れたのが貴方たち
「…阿呆め。貴様の間抜けな顔は腹が立つ」
『うわ、なんか酷いです元就さん』
「黙れ、我の前に立でないわ、目障りよ、貴様なんぞ、我には…っ」
『…………』
「…………」
『…………』
「…………き、さ…」
『ん…?』
「…貴様の知る安芸…ひろしま、とは…」
『牡蠣の美味しい所です。宮島は観光の名所ですね、とても綺麗ですよ』
「安泰か」
『はい、今の広島は、日ノ本は…とても平和です』
「…そうか」
私の返事は気休めになってくれたらしい。少し間をおいて、お好み焼きを口にした彼は一言…悪くないって
『よかった…おかわりもできますよ、多めに作りましたから』
「……ふんっ」
黙々と食べ進める彼。口許についた青のりを取ってあげたら、すぐさま脳天チョップが落ちてきた
ああ、よかった。いつもの元就さんだ
mae tugi