You Copy?
「政宗様、いかがされました」
「…………」
布団にゴロリと横になったオレは、雪子からもらった白い眼帯を眺めていた。部屋に戻る彼女が、そっと俺に渡してきたもの
…医療用らしい。できるなら替えて欲しい、と
「しかし佐助…俺はかように大勢で眠るのは初めてだ!」
「そうだね…俺もなんか落ち着かなくて眠れないかもー」
「テメェは寝る気ないだろ」
「あは、さすが鬼の旦那。鋭いや」
あいつらは落ち着かないのか、ソワソワとしながら布団の上に座っていた。毛利たちは二階に上がっている
…で、コイツらの話とくれば、めっきり雪子のことだ
「お好み焼きって旨かったね、大将もめちゃくちゃ食ってたし」
「うむ、雪子殿は料理も得意であろうか…」
「そりゃ兄貴と二人の時は、アイツが作ったって言うし…上手いだろうよ」
「明日も楽しみじゃない?今度は俺様が手伝ってあげようかなー」
猿がチラリとこちらを見てくるが、オレの代わりに小十郎が威嚇する…やり合うな、と手で制しておいた
「ここは雪子の家だ。ここじゃあいつがrule…暴れんじゃねぇよ」
「……はっ」
「あー…猿飛、テメェも喧嘩売るんじゃねぇよ」
「ごめんごめん」
猿の軽い返事に長曾我部はため息をついた。次に困ったもんだと頬を掻く…が、オレはふと気づく
「長曾我部…お前、眼帯どうした?」
「あ?…ああ、目立つから替えろって雪子に言われてな。昨日からコレだ」
「…目を見せたのか?」
「……ああ、取り替える時は別の部屋だったが…ついさっき、雪子には鬼を見せた」
「っ…………」
「…はは、アイツ…鬼の目が綺麗だとよっ」
長曾我部の返事にオレや小十郎…猿や真田も驚いた顔をする。こいつとも長いが、オレはその眼帯の下を見たことねぇし…何より、噂でしか聞いたことがなかった
それがどうした、今…そっとソレを撫でる長曾我部は妙にはにかんだような、優しい目をしている
「怖がらねぇんだよアイツ。俺が鬼だとしても…血は同じ色なんだとよ」
「変な旦那ー、獣も人も血は赤に決まってるじゃない」
「バァカ、そういう意味じゃ…」
「分かってるって。俺様もさぁ…姫さんに言われてドキッとしたことあるんだよね」
「雪子殿が?」
「うん、なんで見ず知らずの俺らを助けるの?って聞いたらさ…お返ししたいって」
ー…お返し?
そう尋ねるように復唱すれば、猿はヘラリと笑い答える
「凶王は姫さんを守るって言うし、鬼の旦那は兄の代理を宣言したって?」
「おう」
「だからお返ししたいって。兄上が死んだ姫さんは寂しい…だから一緒に居てくれるだけでいいんだって」
「…………」
「見返りなんか求めてないから、与えてもらった分を返す…俺、疑う自分が馬鹿らしくなっちゃってさ」
やっぱり雪子はそんな女らしい。小十郎を見上げれば、少し苦しそうな顔をする。こいつも口では警戒するが、解ってるはずだ。雪子は…
オレは白い眼帯を掲げたまま、そっと上から右目を撫でる。ジクリ、痛んだ気がした
「オレは…綺麗だなんて言われる目は持っちゃいねぇ」
「っ……政宗様、何を−…!!」
「その通りだろ?オレは見せられる物なんか…持ち合わせてねぇんだ」
ただ、それでも…アイツは痛々しいコレを見て、オレの代わりに泣くだろう。自分のことのように痛みを感じるだろう
だから…見せられない。オレの痛みなんかで雪子を泣かせちゃならない
「…アイツの知る伊達政宗も…独眼竜と呼ばれてるらしい」
「っ!!!…未来を…聞いたのですか…!!」
「オレを知ってるか聞いただけだ。“コレ”があったとしても伊達政宗だが…伊達さんじゃあないと言われた」
「…………」
「オレは独眼竜だからオレらしい…妙に納得してな」
オレをここに連れてきた奴がいるなら、オレはそいつを二度とこんなまねできないくらいに叩き潰す
だが、雪子を選んだ事だけは…褒めてやろうと思うんだ
「…帰るその時が来たら小十郎、オレは雪子を連れ帰りたい」
「っ!!!?何を仰いますか!!彼女は我等と…」
「解ってる。だがオレらが消えてみろ、アイツはまた独りじゃねぇか」
「っ………」
「そのまま帰っちまったら、“お返し”できねぇだろ?」
残念だが、元に戻って終いにできるほど薄情な男じゃない。オレはアイツが気に入った。今はそれだけだが…
「おい…それは聞き捨てなんねぇな」
「Ah?」
「奥州に連れ帰るってつもりなら反対だ。雪子は土佐に連れていく」
「なっ−…!!ならば某も!雪子殿に甲斐の城下を案内しとうござるっ!」
「ちょ、大将っ!便乗しちゃダメだってば!」
「勝手を抜かすな貴様らぁぁぁぁっ!!!!!」
「「「「石田(殿)っ!!!?」」」」
いつから聞いていたのか、襖がしなるほど勢いよく開き現れた石田。後ろからフヨフヨと大谷もやって来る
「雪子様は秀吉さまの妹君…大阪城にて家康を斬滅する様をご覧いただくのだ!」
「だから雪子は妹じゃねぇっつってるだろ!!!」
「ぐはっ!!!」
長曾我部の投げた枕が石田の顔面に直撃した
おいおい、不味いんじゃないか…って、真田も便乗して投げんじゃねぇぇぇぇっ!!!
「き、さま…らぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!!!!」
「やれ、凶王三成が降臨しよった。恐ろしいことよな」
「ねぇ枕の投げ合いになったけど止めなくていいわけ?」
「テメェの大将が煽ったんだろ」
「ヒッ…まぁじきに毛利の逆鱗に触れよる。時間の問題よ」
…しばらくして降りてきた毛利にオレらは捕縛され、気づいた雪子が止めるまで正座の説教が続いた
mae tugi