We Copy !!



「おはようございます秀吉さま!雪子様!」

『お、おはよう』

「…また来たか。何度も言うが、俺は秀吉ではない」

「はい!承知しております秀吉さま!」

「・・・・・」

『あ、あは』



兄さんは会社に、私は大学に行こうと家から出た瞬間だった

元気一杯な挨拶とキラキラな瞳で私たちを迎えたのは、学ランをキッチリ着こなした男の子




「相変わらずだな…三成」

「はっ!お褒め頂き光栄です秀吉さま!」

『うん、褒めてないと思うよ三成』




石田三成。私の兄…いや、秀吉さんのために殉じた彼の生まれ変わった姿

一度は戦で別れ過去の人となった彼だけど、再び生まれ私たちに会いに来てくれたんだ



『あは、今日も途中まで一緒に行こっか』

「ほ、本来ならば大学までお送りしたいのですが…くっ…秀吉さまからの許可が頂けないとなると…!」

「誰が許可など出すか、そして俺は秀吉ではない」

「しかし!必ずや秀吉さまに雪子様と共にある許可を頂いてみせます!」

「……はぁ、好きにしろ」

『ふふっ、』




兄さんに転生前の記憶はない

もちろん三成を覚えてはいない。彼はそれでも、また生きて主に会えただけで十分らしい


素敵な笑顔で、私たちを迎えてくれるから







「おはようございますっ!!!!」

『きゃあっ!!?』

「うぉおっ!!?す、すまぬ!」

「貴様ぁっ!!その馬鹿デカイ声で雪子様を脅かすなっ!!」

「アンタも十分デカイ声だと思うよ。おはよう、雪子」

『あ…おはようございます佐助さん!』



次に三成以上の挨拶で現れたのは少しだけ崩した学ランと、赤い鉢巻きの男の子。そしてヘアバンドで髪を掻き上げた彼

真田くんと、佐助さん。戦国武将・真田幸村と猿飛佐助、その人だった



「…また来たか猿飛」

「あはー、やだなお兄様。そんなに睨まないでよ」

「雪子に気安く近寄るな猿が!貴様の隠さない下心が気に入らぬ…!」

「秀吉さま!どうか私に猿を退けろと命令を!雪子様の視界から排除する許可を!」

「いやいや俺様ってば雪子と同じ学部だから!下手すりゃ一日中一緒なんだよねーっ」

「朝っぱらから鼻の下を伸ばした間抜け面をさらすでない」

「いでっ!!?」

『あ……』



続いてガスッという鈍い音と共に佐助さんの鳩尾に鋭い一撃が決まる

不意打ちだと踞る彼に対しフンッと鼻で笑ったのは、大学生なのにしっかりネクタイまで締めた…!




『元就さん!』

「ふんっ…」

「…元就か」

「…………」

『っ―……!』



兄さんが彼の名を呼べば、鋭い目が動きスッと見上げる

シン…静まった道で兄さんと元就さんの視線が絡まりしばしの沈黙、そして…




…………ペコッ



「おはようございます、吉郎さん」

「ああ、おはよう。一緒になるとは偶然だな」

「遠目で雪子さんと猿飛が見えましたので。挨拶がてら止めねばと思いまして」

「それはありがたい。雪子の大学の先輩にお前が居れば、一先ず寄り付く虫の駆除はできよう」

「もちろん…ああ、そろそろ行かなければ時間が」

「おお、そうだな。では雪子、気をつけて。元就、雪子を頼んだぞ」

「では失礼します」

『い、行ってらっしゃい…』



時計を見た兄さんは、電車に乗り遅れないよう少し小走りで行ってしまった

その背が見えなくなるまで綺麗なお辞儀を崩さなかった元就さん


・・・・・。



「さて…ん?何ぞ貴様ら、その間抜けな面は」

「いやいやいやいや!俺様たちの反応が当然だからねっ!?」

「貴様ぁ…!秀吉さまの御前でそのような猫を被りおって!」

「ふ…普段の毛利殿ではござらぬ…」

「貴様らは下心を隠さぬ故。直接では攻め落とせぬ、外堀から埋めるは戦の基本よ」

『城攻め感覚で攻略しようとしないでください!』

「…では、将を討つならば先に馬を射よと…」

『兄さんは馬じゃありませんっ!!』



「お前らが言うから説明してやってんだぞ」と言いたげに顔をしかめる元就さん。いやいや例えがおかしいんですよ

私が知らない間に彼は兄さんと親しくなっていて…そりゃそうだ。私が“今の”彼らを知ったのはついこの前なんだから



「ふん…貴様らがあの兄に阻まれている間、我が着実に事を進めてくれようぞ」

「ぐっ…最大の壁をすり抜けたな毛利の旦那!」

「貴様に雪子様をやるわけにはいかん!秀吉さまに代わり私が阻止する!」

「じゃあその間にオレが雪子を頂こうじゃねぇか、なぁ?」

『ぎゃあっ!!?』



背後から伸びた腕がギュッと抱きつくとほぼ同時に、三成の持ってた竹刀と元就さんチョップが向けられた―…!

…が、それを私を抱き締めたまま華麗に避ける声の主。しかしまた同時に、従者の鉄拳が頭に落ちた



「政宗様っ!!あれほど雪子に易々抱きつくなと言ったではありませんか!」

「Shit!!朝の挨拶じゃねぇか!」

「貴様ぁあぁあぁっ!!!雪子様から離れろっ!!」

「HA!羨ましいか石田!アンタは兄貴に散々敬遠されてるからな!」

『兄さんに一番敵視されてる貴方が言わないでください政宗さん!』



そして離れてください。そう言えば渋々ながらも腕から解放してくれた

同じ大学…の後輩に当たる政宗さん。そして三成、真田くんの高校で教師をする片倉さん。彼らもまた、転生した武将たち



「まったく…いいですか政宗様!いくらスキンシップであったとしても雪子は女性であり…」

「あ゛ー、小十郎、解ってるからテメェらもさっさと行け。遅れるぞ」

「…はぁ、仕方ありません。おい真田!石田!行くぞっ」

「なっ…放せ片倉!私はまだ雪子様を送らねばならん!」

「そう言って遅刻常習犯じゃねぇか!成績は良いんだから勿体ねぇだろっ!!」

「守ってこその校則でござる!」

「テメェは補習の常連だろ真田っ!!」

「なんとっ!!?」

『あ、はは…』



片倉さんに首根っこを掴まれ、グイグイと引き摺られていく三成と真田くん

じゃあねと手を振れば二人とも大きく振り返してくれる…あ、地面に投げ捨てられた



「おー…今日も熱血教師だね片倉の旦那」

「HA!テメェが真田の躾をしっかりしねぇから小十郎が張り切るんだろうか」

「ちょ、今世じゃ別に旦那の部下じゃないんだけど俺様!」

『そう言う割にはいつも一緒に居るじゃないですか』

「そりゃ…巡り巡ったからって、今さら変わるような関係じゃないしね」

『……あは、ですね』



じゃあ、私たちも行きましょうか








「雪子っ!!!」

『あ…元親!』

「今から大学か?」

『うん、元親は仕事?』

「おお、ちょうど現場に行くとこでな。おい伊達、今日は雪子にちょっかい出してねぇよな?」

「…………おう」

「何しやがったテメェッ!!!」

『あ、はは』



明後日を向く政宗さんを問い詰めるのは…元親。今日も勤め先の作業着姿で鉢合わせ

機械関係の工場で働く彼は天職だ、と笑って語る。服の汚れ具合がまた彼らしい



「今日も今日とて兄気取りか貴様」

「あ゛ぁ?気取りじゃなく兄貴代理だ。テメェこそいつも通り暑苦しい格好しやがって」

「貴様こそ今日とて汗臭いわオイル臭いわ…近くに寄るでない」

「何だとっ!!?」

『はいはい、働く勲章なんだからカッカしないで元親』



いくら生まれ変わったって元就さんと元親はずっとこれだ。でも遠慮なしの悪口も、揚げ足の取り合いも、彼らがちゃんとケジメをつけたが故にできること


彼らを側で見てた私だから、昔と今のほんの少しの違いが嬉しくなる




ブッブーッ



「あれ?あの車って…」

『あ…おはよう、小太郎くん!』

「…………(笑)」



突然のクラクションに振り向けば、黒塗りの外車がすぐ側に停まっていた

そして開いた窓からチラッと見えた(笑)の文字。あっと駆け寄れば、それはやはり黒いスーツ姿の小太郎くん!



『早いね今日も。今からあの人のお迎え?』

「………(コクッ)」

「おい風魔、ついでだ。オレらも大学まで送ってけよ」

「…………(怒)、」

『お、怒らないで小太郎くん!政宗さん!小太郎くんもお仕事中なんですからっ』

「社長秘書なんて大層なご身分だねー、まぁあんな野郎の下になんて俺様ごめんだけど」

『佐助さんもわざわざ喧嘩売らないでください…!』

「…………」

『あ…』



時計を見た小太郎くんが、すまん!と言いたげに片手を挙げる

そうだよね、迎えが遅れるわけにはいかない…もう少し話したいけど、それはまた後日



『じゃあ、小太郎くん………松永さんによろしくねっ』

「…………(笑)」



最後に軽くクラクションを鳴らした小太郎くんは、颯爽と去って行ってしまった

それを見送る私と…忌々しげな顔をする他の三人



「…解せぬ。何故、あの男も今世に居るのだ」

「まったくだ」

『そう言わないでください。皆さんだけが転生したわけじゃないんです』



そう、我が家にやって来た武将たちだけじゃない

秀吉さ…兄さんやタケちゃん、そして松永さん。私が出会っただけでなく、大きな関わりを持った人たちと今世で再会を果たしている


そしてそれは、彼も例外じゃなく―…





「雪子っ!!」

『あ……』

「よお!今日も無駄に爽やか決め込んでるじゃねぇか」

「はは!冗談はよしてくれ独眼竜…おはよう」

『……うん、おはようっ』




三成や真田くんと同じ制服

政宗さんが言うように爽やかな笑顔、それを隠すことなく上げられた前髪

じっと見つめる私の視線に彼は、少しだけ困ったように笑った



「…さて、俺様たちは先に行っちゃおっか。ほら行くよお二人さんっ」

「なっ…何をする!放さぬか猿めっ!!」

「Why!!?雪子はどうすんだ!引っ張るんじゃねぇよっ!!」

「暴れないの!じゃあ雪子、ちょっと話しておいで」

『…ありがとうございます、佐助さんっ』



暴れる二人を連れ、佐助さんは大学の方へと歩き出す

でも私も直ぐに追いますから。少しだけ、眩しい彼に挨拶を



「…はは、すまん。独眼竜や毛利の邪魔をしてしまったか」

『大丈夫、家康くんが邪魔したわけじゃないよ。それに家康くんと話すために貰った時間だから』

「…そうか」




徳川家康、


今よりもずっとずっと昔。そして少しだけ未来。私と彼は夢の中で出会った

同じ未来を描いて結局は違う道を選ぶ。かつての私は、彼の伸ばした手を取ることができなかった



「ん?三成たちは先に行ってしまったか」

『片倉さんに連行されてね。あは、家康くんも急いだら?生徒会長さんが遅刻はまずいよ』

「ははっ!それもそうだ。ワシが生徒の見本とならねばなっ」

『…………』




また皆の見本となるような、皆を導く存在になろうとしている家康くん

やっぱり彼も彼なんだ。巡り巡ったとしても変わらない、彼もその一人に違いはなくて




『家康くん、』

「ん?」

『…ふふっ、行ってらっしゃい』

「っ―……ああ!雪子も今日一日、頑張ってくれ!」

『うんっ』




貴方たちが、貴方が築いたこの未来は「さよなら」を言わずにすむんだから


さぁ、今日がやって来る






20131021.
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大谷さんが足りないとか言わないでください!次に居ますっ!!


mae tugi
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