We Copy !!
『三成、三成。聞いてよあのね!この前、兄さんと買い物行った時にねっ』
「秀吉さまと…はっ!!私でよければお話をうかがいま…!」
『お店の人に恋人って間違われちゃったの!そんな感じに見えちゃうのかな』
「…………は?」
『そしたら兄さんも否定せずに、私の方見て笑って…きゃーっ!!!』
「は、はい…」
『でも兄さんの隣に並ぶならもっと大人っぽい方がいいのかな、今からでも頑張ったら身長伸びるかな、ねぇ三成はどう思う、あ、そうだ昨日もね…』
「……………」
「私は…雪子様の何なのだろうか…」
「へ?なにそれ、ものすごく今更な質問じゃない?」
「黙れ猿。貴様には聞いていない」
「酷いっ!!」
休日の図書館。今日は遅刻常習犯な石田の旦那、そして追試常連なうちの大将に課せられた課題消化のため俺様が助っ人として駆り出されていた
暇だからとついてきた長曾我部の旦那も一緒。朝から元気のない石田の旦那が話すのは、やっぱり我らがお姫様のことだ
「いや、この中じゃ俺様が一番まともな返事を返してやれると思うんだけどね」
「ぁあ?なんだと猿飛、俺らを馬鹿にしてんのか?」
「なめるな佐助っ!!某とてその程度の回答ならば容易くっ…!!」
「はいはい図書館では静かにね。じゃあ石田の旦那に答えてあげなよ」
「む…雪子殿にとって石田殿は、兄上を語ることのできる同志っ!!共に吉郎殿を敬愛する仲間でござるっ」
「いやいや、仲間っつうか手の掛かる弟って感じだろ。懐いてくる犬が可愛いみたいな感覚な」
「ぐっ…やはり、やはり私は雪子様にとってはその程度の…!」
「ほらー、正解じゃなかった」
机に突っ伏した石田の旦那を後目に、ああだこうだと言い合う大将たち…うん、なんとなく悩みが分かった
ちゃんと異性として見てもらえてないんだよねーっと言えば旦那の肩が跳ねる。図星か
「正解が欲しいなら大谷の旦那に聞けばいいだろ?今でもアンタの保護者してるしさ」
「刑部は私の望む回答をわざわざ選ぶ…そうではなく、率直な答えが欲しい」
「うわ、面倒くさい」
「大谷も大変だな」
「黙れっ!!」
「ならば石田殿は、雪子殿にとってどのような存在になりたいのだろうか?」
「う゛……!」
おっと、ここにきて大将がグッサリ刺さる質問を切り出した
ビクッと震えて固まる石田の旦那に首を傾げるが…察してあげてよそこは
「わ、私は…」
「む…はっきり言ってくだされ石田殿!某も佐助も、長曾我部殿も共に約束を果たした仲間ではござらぬかっ」
「ぐっ……!」
「だからこそ石田の旦那もごにょごにょ言ってんの」
「…と言うと?」
「俺もアンタも石田も…家康含めた他の連中だって、一つ前を綺麗さっぱり清算してんだ」
「そうそう俺様たち、良き仲間であり負けられない敵ってね!もし石田の旦那が望む関係に、この中の誰かがなったら…」
そんなの、想像したくもない
頬杖をついて見つめる俺様と、引きつった苦笑を送る長曾我部の旦那。それに気づいた大将も流石に分かったらしい
そりゃそうだ。俺様たちは皆、あの瞬間に約束したんだから
「そうだね俺様は…前みたいに雪子が何かあった時、真っ先に相談してくれる存在になりたいかな」
「あ?なんだと猿飛、一番頼りにしてたのは俺だろ!俺は代理じゃねぇ、アイツを一番笑顔にできる男になりてぇなっ」
「わ、私はっ…秀吉さまに認めて頂ける男となり、雪子様と明日を描ける存在に…!」
「無謀でござる!」
「!?!?!?」
「ちょ、一刀両断してやるなよ大将。でも確かに、お兄さんに認めて貰うってのが一番大変だよね」
俺様たちがどんなに思い描いたって、そんなお花畑を迎えるまでに越えなきゃいけないデッカい山
雪子のお兄さんに認めてもらうには、一生だけじゃ足りない気がするくらいだ
「認められねぇんなら奪っちまえばいいだろ?それが男だっ」
「はいはい、そんな海賊的思考いらないから。奪う方が無茶だってば」
「やはり雪子様にとって、秀吉さまという存在が絶対…私など…」
「天辺のお兄さんより下は横並びだろうけどさ…雪子はみんな大好きだから困ったよね」
「ああ、だからあの野郎、真っ先に吉郎に媚び売ったのか」
「あの野郎?」
「毛利だ、毛利っ」
「ああ…」
瞬間、この場の皆が顔をしかめる。思うところは一緒らしい
毛利の旦那は今世でも気持ち悪いくらいの策士で、再び再会するまでにお兄さんへ近づいて…まるで城を攻略するように外堀を埋めてきた
今じゃあ吉郎さん一番のお気に入り。俺様たちが蹴散らされる中、虎視眈々と雪子を狙ってるから厄介だ
「ぐっ…毛利め…!秀吉さまの前で猫を被りよって!」
「うむっ!!男たるもの真摯に向き合い拳で奪い合えばよいっ!!細かい駆け引きなど某分からぬっ!!」
「はい、後半が本音だよねー。まぁ大将や石田の旦那に恋の駆け引きは確かに無理だ、うん」
「何だと…!」
「いやいや無理だろ。まぁアンタらや家康はそれがいいぜ、十人十色ってやつだ」
「そうそう、みんながみんな毛利の旦那や独眼竜みたいだと…頭痛くなってきた」
「全員が風魔みたいでも困るけどな…片倉や大谷もあれで策士だしよぉ」
「あーあ、ほんと手強い敵だらけだこと」
困るよねっと笑う俺様や長曾我部の旦那だけど、駆け引き分からない組な大将や石田の旦那は眉間のシワを深くするばかり
本当にそれでいいんだよ。多分、今のアンタらが雪子にとって、そうあって欲しい姿だからさ
「だが…私は…」
「石田殿?」
「いつかは…雪子様の隣へ立つことができる男と、なるのだろうか」
今はその背を眺めるばかりで、あの方が通る道を辿り、一歩遅れて明日を迎える
それがいつか隣へと並び、共に今日と明日を跨ぐことができたなら…
「…某はもう、できているつもりであったが」
「っ…………」
「今世は雪子殿と同じ時間に生きている…それはもう、並んでいると同じでござるっ」
あとはどう距離をつめるか
それは実際の距離かもしれない。心の距離かもしれない。
ああ、そうか
「雪子様と秀吉さまが恋仲に間違えられたのは…その距離が、触れるほどに近いから」
再び出逢えたお二人を、その間を邪魔する者など誰もいない
私はそれが、羨ましかった
20150427.
牽制しあう仲間たち
mae tugi