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「俺様が合図したらステージに出てね、あ、緊張してる?大丈夫だってアンタすっごく可愛いから!自信持ちなよ、就子ちゃ…ぐはっ!!!」

「貴様を引きずり回しながらの登場もよい余興となろう…!」

『元就さん!今は殴っちゃダメです、せっかくのネイルが剥がれちゃいますっ』

「あれ、俺様よりネイルの心配?」




舞台袖で出番を待つ就子ちゃ…じゃなく元就さん。運営の佐助さんに苛立ちをぶつけるが、彼の出番はもうすぐそこ

ついにやってきた裏メインステージ、女装コンテスト!明らかに笑いを狙った学生や、優勝を目指すキャンパス内のイケメン勢が出番を待っている




「ま、いくら女装したって男の体格だからね。その点、アンタは女物もよく似合うから今回の優勝候補だ…ぐはっ!!!」

「もう一度言う、貴様を引きずり回しながらの登場もよかろう…!」

『あ、で、出番です元就さん!並んでくださいっ』

「ぐっ…!」




舞台から戻った前田のサインで、出場者たちが登場順に並んでいく

その一番最後が元就さんなんだけど…足が重い。動きません。私も佐助さんもそんな彼の背中を必死に押す、が、踏ん張る元就さん!諦めてください!




『も、元就さん!きっと兄さんたちも待ってますからっ急いでっ』

「お、大谷からメールが入った…」

『大谷さんから?』

「…ステージ中央真ん前で、カメラ目線を、頼むと」

『おぉう…!』

「っ…わ、我は行かぬっ!!このような姿を奴らに晒してたまるかっ!!」

『今さらです元就さんっ!!覚悟を決めてっ!!どーんと優勝してください!』

「逃げたら試合終了だよー毛利の旦那。ほら、棄権になったらお兄様からの評価はがた落ちだし」

「女装も変わりない…!」

『そんなことないです!兄さんは、それで他人を差別なんかしませんっ…私を信じてください!』

「っ…………」




確かに、彼のコンテスト参加は元親の悪ふざけが原因。結局はみんなで嫌がる元就さんを引っ張り出しているんだ

それでもここで棄権したら…それこそ、元就さんの印象を悪くしてしまう。彼のプライドだってあるだろうけど




『それに渋って中途半端に終わるより、本気で優勝した方がカッコいいです元就さん!』

「じょ、女装であるぞ…!これで優勝したとて名誉などっ…」

「ほらでも優勝商品って旅行券だし。換金してもなかなかいいとこいくよ?」

『真っ先に換金の話をしないでください佐助さん』

「旅行券…」




ここにきて元就さんの踏ん張りが治まった。ステージには音楽が流れ、先頭の人が表に向かっていく。ああ、本当に時間がない

もう一度元就さんを説得しようと見上げたその時。綺麗にマニキュアが塗られた手が…私の手首をぐっと掴んだ




『あ、の…?』

「では雪子…我が優勝したとなればその旅行、貴様が付き合うと誓うか?」

『へ?』

「ちょ、なに言ってんの毛利の旦那っ!!そんなの俺様許しませんからね!」

「黙れ猿、答えよ雪子。我との旅に付き合うか?付き合わぬか?」

『え、あっ…つ、付き合いますっ!!』

「…………」

『っ………』

「ふっ…今の言葉、忘れるでないぞ」




そう言ってニヤリと笑った元就さんは、今の女性の姿も相まってとても綺麗で…惚ける私から手を放し、颯爽とステージに歩いていった

そして渋い顔をした佐助さんが合図を出せば、ステージの前田が元就さんの名を読み上げる


彼がお客さんの前に現れたその時が、コンテストの優勝が決まる瞬間だ












「なっ…!し、成治、これは…!」

「ふふ、女装コンテストだね吉郎。見たまえ、元就くんがノリノリで歩いてくるよ!」

「ま、マジでノリノリだな毛利の奴…どこのモデルだありゃっ」

「・・・・・・」




長曾我部が指差した先。オレたちの視線が集まるそこへ、毛利は颯爽と現れた

白のロングスカートに大人しめのカーディガン。それらを控え目に、だが華麗に揺らしながらステージ中央を歩く男に観客は騒然…オレらは蒼白




「わ、ワシはモデル歩きに詳しくないが…あれは練習しなきゃできない歩きじゃないのか?」

「それはもう…わたくしがなっとくできるあゆみとなるまで、ひたすられんしゅうをかさねましたから」

「ああっ…謙信様からの個別レッスンだなんて、なんて妬ましいっ毛利め…!」

「…かすが、本音出てるぜ。しかしなるほど、優勝確実とはよく言ったもんだ」




見てみろ、さっきまで出場者を茶化してた奴らが黙り込んだ。そいつらをステージから見下ろし、ふんっと鼻で笑う毛利…ありゃ明日からCrazyなファンができるな

そんな中、時折腹を抱えて爆笑しながら最前線で写真を撮る大谷も大概だが




「……………」

「ひ、秀吉様、いかがされましたか?」

「よ、吉郎殿!毛利殿は決して女装趣味があるわけではなく学祭を盛り上げるため身を挺し…むぐっ!!?」

「少し静かにしようか幸村くん。いやぁ吉郎、まさか君が可愛がっていた元就くんにこんな一面があるとはね!人は見掛けによらないものだ!」

「っ…やべぇ、竹中が毛利を潰しにかかってきたっ…!」

「いやはや、卿が妹君に近づく許可を与えたというのに…期待を華麗に裏切ってくれる男だよ」

「松永が加勢したっ!!?」




最悪の二人に挟まれた吉郎は、じっとステージを睨んで動かない

オレらも再度そっちへ視線を向ければ…少し、いやかなり緊張したような毛利がこっちを見つめるのが見える


盛り上がる観客に対しオレらへ走る緊張。皆が吉郎の次の言葉を待った

そしてアピールタイムが終わりコンテストの音楽が一旦止む、その時…!








「うむ、さすがは元就だな!」





・・・・・・・。





「…………Ha?」

「よ、吉郎…さすがってのは、どういう意味だ?」

「ん?何を言う小十郎、さっき真田も言いかけただろ?身を挺してステージを盛り上げるとは、さすがは元就だ!」




そう言った吉郎はステージの毛利に向かい、ぐっと太い親指を立てた

声が届いてねぇ毛利は顔をこわばらせつつ手を振り返す。呆気にとられたオレたち、真っ先に抗議したのはもちろん竹中だ




「な、何を言うんだ吉郎!見たまえ、彼のノリ気と完成度を!普段の彼とは思えないっ!!」

「ああ、元就はかなり生真面目で堅物だと思っていたが…ははっ、なかなか茶目っ気もあるではないかっ」

「茶目っ気っ!!?いや、冷静に考えるんだ、君が雪子との仲を認めるに相応しい男とは決して−…!」

「何を焦っている、安心しろ。俺たちが学生の頃、お前が築いた女装コン四連覇は誰も崩せん」

「「「四連覇っ!!!?」」」

「そ、その話は止めてくれっ!!あ、れは、わ、若気の至りというやつでっ…!」




そういや吉郎と竹中、小十郎と大谷はこの大学出身だったな…かつての黒い栄光を曝露され、あの竹中が静かになった

そうすればオレも盛り上がる観客の一員。拍手を送る吉郎に便乗して石田や大谷、小十郎や風魔たちが続いていく


そんな中オレと長曾我部は、黙って顔を見合わせた




「…………はぁ」

「仕方ねぇな、こりゃ」




そして手の中にある投票用紙をビリッと破いてゴミ箱に捨てた

こんなもの、書いてやらなくったって勝敗は見えてんだからな














『あ、いたっ!!元就さん、優勝おめでとうございますっ』

「…………ああ」

『これから皆でご飯に行くらしいですよ。かすがさんと元就さん、二人の優勝を祝してっ』




学祭ステージも無事に終わり、夕日が沈んでいく中。校舎の隅で空を見上げる元就さんを見つけた

もう普段の格好に着替えている彼の手には、たくさんの花束と優勝商品の旅行券。優勝が決まったその瞬間、彼目掛け投げられた花は小太郎くんが準備したらしい




『やっぱり余裕の優勝でしたね!兄さんもすごく褒めてましたっ』

「謀らずもな…まぁ、結果がよければそれでよい」

『だから言ったじゃないですか、心配いらないって』

「調子に乗るな。それよりも雪子、約束は覚えておるか?」

『約束……あっ』




はっと思い出したのは、元就さんがステージに登る直前。彼が口にした約束…





『りょ、旅行…』

「………………」

『お、覚えてます!覚えてますよ、もちろん…えっと、その、これ、ペア旅行券…です、けど…』

「不満か?」

『不満だとかないですっ!!元就さんと一緒、不満なんかありません…』

「そうか…ならばよい」

『え?』

「貴様にやる」




私が答えたその時。元就さんは旅行券の入った袋をそっと私に押し付けた

慌てて受け取ればさっさと歩いていく彼…え、待ってください!




『あの、これは元就さんの優勝商品でっ…!』

「我は早急に仕上げねばならぬ論文がある。貴様と旅行に行ってやる暇などない、ゆえに好きに行け」

『け、けど…』

「言っておくが、ペア旅行であろうと他の男と行くことは許さぬ。兄かくのいちと行け、よいな」

『あ、あの…』

「返事はどうした」

『っ……ふふっ、はい!』

「………………」




先を行く元就さんにパタパタと駆け寄り隣に並ぶ

明日から元就さんがニューヒロインですねと笑えば、問答無用でチョップが落ちてきた





20150113.
捨て駒の捨て駒による捨て駒のための学祭終了


mae tugi
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