We Copy !!



「行ってくるぞ」




あの日…そう言った広い背中が帰ってくることは二度となかった

小さい頃からずっと一緒だった大好きな兄。あの日は彼を私から奪い、写真と記憶の中の思い出へと変えてしまう




『行ってらっしゃい、兄さん』




今度こそ…兄さんを、奪われてなるものか








『…というわけで!ついにこの日が来たよみんなっ!!』

「お任せください雪子様!この三成、必ずや不幸な運命から秀吉さまを救ってみせましょうっ!!」

『頼りにしてるよ三成!いざ!鳴かぬなら、鳴かせてみせますホトトギスっ!!』

「黙らぬか貴様ら!話が進まぬではないか!」



オーッと気合いを入れる私と三成に対し、苛々とホワイトボードを叩く元就さん

まぁ落ち着いてと宥める佐助さんと、初っぱなに騒いで既にお灸を据えられてる真田くん

そして隅の方で座る政宗さんと元親を加えた私たちは、大学の使われていない部屋を借りての作戦会議中だ


何の作戦か、それはもちろん―…




「…本日の夜。雪子の兄である吉郎…もとい豊臣秀吉に不運が起こる。これは間違いないな、雪子」

『はい…今日は、兄さんの命日です』




私が皆と出会い時を遡る前。私の兄は交通事故で亡くなった

それがまさに今日なんだ。カツンと元就さんが指した先には今日起こるはずの出来事が書かれている



「雪子は真っ直ぐ帰宅…お兄さんは残業で遅くなって近道した路地裏で、か。犯人が解れば早いんだけど、ひき逃げな未解決事件。大本は断てないわけだね」

「つまり、某らが交通事故から吉郎殿を救わねばならぬということでござるな!」

「もしくは…事故そのものから豊臣秀吉を遠ざけちまえばいい」

「簡単に言うな独眼竜…できぬからこうやって集まっているのではないか」

「Ah?」




カツン、再び元就さんがホワイトボードを叩いた。そう、ただ単純に兄さんを事故現場から遠ざければいいだけじゃない

私と元就さんは、それをよく知っている




「我と雪子は昔、歴史を動かそうとした」

「っ―……」

『私も元就さんも別行動でしたが、関ヶ原の結末を知っていて、それを変えようとしました』

「…………」




…結局、それは叶わない


西軍を勝たせようとした元就さん、西軍を早々に降伏させようとした私。それぞれが関ヶ原の戦いを変えようと動いていた

けど歴史は関ヶ原そのものを消すことで、結末を、守ったんだ。私たちが知る歴史通り東軍の勝利。私はもとの時代に戻り、三成たちは―…




『きっと兄さんの事故も私たちが変えようと動いたところで、それを塗り替えてしまうと思います』

「端から負けると解ってる勝負ってことか?」

『…かもしれません』




でも、今度は違う、




『今度は私だけじゃありません!ここにいる皆と他の皆、全員で挑めば二度も同じ轍は踏みませんよ!』

「もちろんでございます!次こそはこの命を懸け、秀吉さまをお守り致しますっ!!」

「某も次こそは負けませぬぞぉおぁあぁっ!!!」

「まぁ今度は独眼竜や鬼の旦那もお味方様だからねー、心強いったらないよ」

「ニヤニヤ笑うんじゃねぇぞ猿飛…だが任せろ雪子!今度こそ、俺らは全員お前らの味方だ」

「…ってことだ。さっさと話を進めてくれよ、作戦隊長」

「ふん……単純ぞ。とにかく雪子の兄を無事に家に送り届け1日を終えるのみよ」



作戦隊長もとい元就さんが言う通り、とにかく兄さんを職場から家まで無事に送り届けてしまえばいい

歴史が戦を貫いたように兄さんの事故もまた、交通事故を起こすはず。それを回避するためならまさに手段を選ばずだ




『あんな思いは…もうしたくありませんから』

「雪子…」

『絶対に、兄さんを救ってみせますっ』




そして今度こそ、お帰りって言うんだ









「…って、雪子にあんな顔されちゃ頑張るしかないよねーっ」

「バカ言ってんじゃねぇぞ猿、アンタは雪子の兄貴じゃねぇなら豊臣秀吉は救えねぇってか?」

「そうは言ってないだろ?雪子に泣きそうな顔されちゃヤル気も出るってことだよ」

「否定はしねぇが言い方が問題だろ猿」

「否定しないアンタに言われたくないね独眼竜」

「テメェら!喧嘩する暇があるなら吉郎を引き止める作戦考えやがれっ」

「いてっ!!?」

「っ―…殴るんじゃねぇよ長曾我部!」



物陰に隠れ、ここを通るであろう雪子のお兄さんを待ちわびる俺たち

俺たちは陽動班。まぁつまり、吉郎さんを事故が起こる道から遠ざけようって作戦の班なんだ



「とりあえず事故現場から遠ざけて、帰り道を一緒に歩く。そうすりゃ何かあっても助けられるだろうぜ」

「はっきり言って人選ミスだよねーっ」

「は?」

「いやいやなんで俺様と鬼の旦那、おまけに独眼竜が同じ班なのさ!」




全員、吉郎さんに敵視されてるじゃん!そう言えば二人は顔をしかめるけど、否定はしないから嫌われてる自覚はあるんだね

可愛い妹を狙う狼判定を受けてる俺たち。もし吉郎さんに声を掛けたとして、果たして作戦通りに動いてくれるかどうか



「お気に入りな毛利の旦那や同窓な片倉の旦那ならまだしも俺様たちだよ?スルーされるに決まってんじゃん」

「バカか猿、んなこと言ってちゃオレら何もできねぇじゃねぇか」

「嫌われてるなりに使い道はあるだろうよ、むしろつきまとえば早足で帰るかもしれねぇし」

「嫌気がさしてタクシー使うかもな」

「お、その手もあるな!」

「めちゃくちゃポジティブだねお二人さん…まぁ、俺様たちが動かなくても、足止め班がいるしね」










「暗よ、今晩は飲みに行くか」

「…………」

「どうした?」

「いや…お前さんが小生を飲みに誘うなんざ、何か裏があるに違いないと思ってな」

「ヒッ…心外よなぁ。ぬし程の男ならば、他人の不運まで己のものとしてしまうと思っただけよ」

「やっぱり企んでるじゃねぇかっ!!」

「む……おお、吉郎!」

「ん?」




残り僅かな書類に追われる暗に対し、既に帰り支度を終えたわれ。そしてその前に現れた吉郎

今宵はこの男を守り通さねばならぬ。他人の不幸を退けようなど、昔と大分変わってしまったようだ




「どうだ、われらと飲みに行かぬか?帰りは暗の車がある、家まで送ろう」

「小生は足かっ!?いや、こっちはまだ仕事が…!」

「……黒田も行くのか?」

「そう嫌な顔をするな」

「何故じゃっ!!?」

「まぁ…悪いな。今日は疲れているからなるべく早く帰りたい、何より雪子が待っている」

「…………」




前者は建前、後者が真の理由であろう。最近は残業も多く、妹と過ごす時間も無かったはず

このまま帰れば永遠に…いや、この男はそれを知らぬのよ



「今日くらいはよかろう…ああ、では妹君も呼ぶか?」

「雪子も来るのかっ!?なら小生も行く!ちょっと待て直ぐに終わらせて車を出すっ」

「黙れ暗。今、雪子に確認を…」

「……吉継、」

「…………」

「何故…お前が雪子のアドレスを知っている?」

「ヒッ……あ、ああ、すまぬ、言われてみれば知らなんだ、ヒヒッ、うっかりよ、ウッカリ!」

「…ならばいい、お前たちも程々にしておけ。じゃあお疲れさま」






「…刑部、なんで雪子のアドレス知らないとか嘘ついたんだ?」

「…では暗よ。ぬしは仇を見るような目をした吉郎に、可愛い妹君とメル友などと言えるか?」

「メル友なんて久々に聞いたぞっ!?そ、そりゃ…そんな自分の首を絞めること言えるはずないが」

「そうであろ?はぁ…われでは無理であったか」



すまぬなぁ、次に任せるか

会社を出ていく吉郎を二階から眺めつつ、足止め班は失敗だと、電話帳から雪子の名を探した









『そうですか…いえ、やっぱり初めの予定通り兄さんを別の道に誘導します、はい、じゃあ後で…兄さん、会社から出たって』

「くっ―…!やはり官兵衛を利用するのは不味かったかっ」

「あの男を加えては作戦が上手くいくわけがなかろう。甘い男よ、大谷」

「刑部ではない!全ては官兵衛の責任だっ!!」

『黒田さん何かごめんなさい!っ……そろそろ、私たちも行きましょうか』



大谷さんからの連絡を受け、家で待っていた私と三成、元就さんも他と合流しようと動きだした

次は政宗さんたちか…事故現場では片倉さんと小太郎くん、真田くんが待ち構えてくれてる。兄さんは怪しむけど、皆で帰るのも手だ



『いざ、事故を防ごうなんて考えると難しいものですね…でも、皆が居てくれたら心強いです!』

「…………」

『前は歴史なんて大規模だったし、何より元就さんがラスボ…ん?元就さん、どうかしましたか?』

「いや…」

「さっさと行くぞ毛利っ!!秀吉さまを救わねばならんっ」

『そうです!鳴かせましょうよホトトギス!』

「貴様の言いたいことが解らぬが…何か、この事故で引っかかる」

『え?』

「…いや、そもそもの話ぞ。“前回の”我らが雪子のもとへ落ちた原因が、貴様と豊臣秀吉であるのなら…」





兄さんが、秀吉さんであるのなら―…







「今世の吉郎をあやめたのは―…」




プルルルルッ!!!!!




『うわっ!!?て、え、電話っ…!』

「っ、片倉か風魔でしょうかっ!!?秀吉さまが現場にっ…!」

『あ、元親だ。もしもし、雪子だけど…』

「おう、雪子!どうだ?吉郎は大谷が引き止めたか?」

『ううん、大谷さんは失敗しちゃったって…あれ?そっちには行ってないの?』

「は?いや…こっちにはまだ来てねぇぞ、吉郎」

『…え?』




…大谷さんから電話を貰ってしばらく経つけど、元親たちはまだ兄さんを見てないらしい

彼らが張り込んでるのは会社からの帰り道。すぐ近くだし他の道を選ぶことはないはずだ



「どうした?」

『も、元親たちの所に…兄さん、まだ行ってないらしいです』

「秀吉さまを見失ったのですかっ!!?」

『う、うん、でも他は家から反対方向だし、行くはずないんだけど…』

「……早速、変わったか」

『っ―……!』

「片倉に電話する。吉郎は本来とは違う方向へ向かった、そちらへ行かねば…」

『あ…!三成っ大谷さんに兄さんが会社を出た時間や方向聞いて!』

「御意っ!!」

『元親!兄さん、そっち行かないかもしれない!』

「猿飛と伊達が行った!一応、俺はこっちで待っとくぜっ」

『う、うんっ、お願い!』




元就さんが冷静に指示を出し、三成が電話の向こうの大谷さんに怒鳴る

確実に変わりだした運命。でもそれは同じ結末にするためのものなのか、それとも―…




『っ、とにかく行きましょう元就さん!三成!』

「はいっ!」

「…ああ」




急いで兄さんを探そうと駆け出した私たち


あの日の…花火のにおいはしなかった






20140104.
兄さん事故編、続きます


mae tugi
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -