We Copy !!
ポツリ、ポツリ…雨が私たちに降り注ぐ
あの日と同じ雨雲がまた、悪夢を繰り返そうと空を覆い始めた
傘に落ちる雨粒の音
暗い夜道、その一歩を踏みしめて歩く
「遅く…なったな」
甘えん坊で寂しがりやな妹は…雪子は、今日も待ち続けているのだろうか?
雪子自慢の手料理と共に。玄関を開けた瞬間に見るであろう笑顔を思い出す。それに口角の上がる俺は末期か
最近は不思議な夢まで見始めた。真っ暗な世界で大事な妹が泣いている、悲しんでいる、手を伸ばしている
…自分を見上げて
「…最近、構っていないツケか?次の休みはいつだったか」
成治や前田の手を借りて、雪子を喜ばせてみせようか。片倉や大谷も誘ってみるか
そうすればきっと、あんな夢も見ないはずだ
そう思うとやはり一歩に力が入る。早く、雪子の元へ帰り―……
「ん……?」
何故か一瞬だけ動きを止めてしまった次の瞬間、すぐ近くで聞こえたブレーキ音
背後から迫る眩しい光に目を閉じ―…
「秀吉殿っ!!!」
「っ!!!!?」
クラクションを鳴らした車が、何事も無かったように隣を通り過ぎた
手から滑り落ちた傘は風にカラリと転がる。そしてもう片方の手は…目の前の男の腕を、掴んでいた
「……家康?」
「…………」
ワシを驚いたように見下ろす秀吉殿。ワシはといえば、その手を放すこともできずただ彼を見つめていた
何故、彼は会社を出て家と反対方向へ向かったのか。それを追うことができたワシは…単身、張り込んでいたわけだが
「どうした家康?何故お前がここにいる」
「っ…はは、いやぁ…雪子たちに仲間外れにされてしまって」
「は?」
「雪子や三成が…ワシに、気を遣ったのかもしれない」
今日が何の日か…真田と三成、そして片倉先生が学校で話していたからその概ねは知っている
初めは驚いたさ。何せワシは今世の秀吉殿…雪子の兄上が、事故で亡くなっていたなんて知らなかった
そして気がつけば、ワシは彼を追っていたんだ
「…………」
「どうした?」
「…後悔だけは、してはならないと思っている。こんなワシを信じ、ついて来てくれた者たちが居た」
「っ―……」
「そして…忘れてはならないと、解っている」
きっとワシは…三成たちと共に雪子のもとへ落ち、同じ時を過ごしていたとしても、あの約束はしていなかっただろう
もしかすると、ワシが選ばれなかったのは意図的だったかもしれない
「ワシ…は…」
「落ち着け家康、何の話だ。お前は俺を誰かと勘違いしている」
「っ―……!」
「三成といい、お前といい…俺は吉郎であって、秀吉ではない」
「………いや、」
「…………」
「…秀吉殿、今の貴方はあの時の貴方か」
それでも、あの頃の貴方ではないのか
この皆で暮らす今世は、貴方の望みで合っているのか
貴方は……
「…合っているも何も、今の俺が俺だ」
「っ………」
「他に、俺はいない」
「……そうか、」
そんなこと、貴方を引き止めた時点でとっくに解っていたさ
「っ、ああ、すまない!妙な話をしてしまった」
「まったくだ…だいたいこんな時間に高校生が何をしている、俺に用があったのか?」
「あ、ああ。さっきの妙な話をしたくて…」
「…で?俺に話をしてみてどうだ?」
「は、はは…モヤッとしたものが増えてしまった」
「何だそれはっ」
「いや、それはそれでいいんだ!ワシがウジウジと悩み続けるなら、それでもいい…そうであったとしても、雪子とワシの関係は、変わらないと思うから」
「っ―……」
「相も変わらず雪子は…笑ってワシを、受け入れてくれると思う」
時間はかかる。かけていくつもりだ。皆が決着をつけ終わった後の二度目ならば、ワシは決着をつけるための二度目
ただ、それだけなんだろう
「待つのは慣れっこだ。そして貴方は…別のカタチの二度目であって欲しい」
「…………」
「ははっ、喋りすぎてしまったな、すまない。そうだ、帰りは途中まで共に…」
「お前は…」
「ん?」
「…やはり、甘さを捨てきれぬ男よ」
「え―……」
ハッと顔を上げた先でワシを見下ろすその人。細められた目はずいぶん昔に対峙したそれ
今、確かに、まさか、秀吉殿は…!驚くワシへ大きな掌がゆっくりと迫る、そして、
ゴツンッ!!!!
「うおっ!!?っ、て、え?は?」
「雪子、雪子と何度も気安く呼ぶな…!まさかお前も雪子を狙っているくちか!」
「………は?」
「いいか!俺を倒せる男でなければ雪子はやらん!三成の牽制役になると思ったが…くっ、同類かっ」
「っ…は…ははっ、痛いじゃないか吉郎殿!頭を殴るなんて酷いぞっ」
「黙れ石頭!今、俺はお前も敵であると認識した!」
「ふ、ふふふ!噂通りのシスコンだ、て、いたたたっ!!?」
『兄さんっ!!!!』
「あ―……」
「っ……雪子?」
雨に打たれながら吉郎殿に頭を殴られるワシ、その背後から聞こえた声と足音に振り向けば…こちらに駆け寄る雪子と三成、毛利、そして伊達と猿飛がいた
ワシにも気づいた皆が驚いた顔をする。そんな彼らに、そっと、苦笑を向けた
『い、家康くんっ!?』
「家康…!まさか、貴様が秀吉さまを…」
「…いや、ワシは吉郎殿と立ち話をしていただけだ、なぁ吉郎殿っ」
「ああ…そうだ雪子!何故、お前がここにいるっ」
『こっちの台詞だよ!なんで家と反対方向へ行ったのっ!?』
「む……」
家康くんに傘を傾けつつ兄さんに詰め寄った。ちょっとだけ気圧された兄さんだけど、ああ、と呟いて事情を説明してくれる
何でも…営業先に行った際、忘れ物をしてしまったらしい。会社を出る前にその連絡があって、それを取りに相手先に…そう、ですか
「はぁ…見失ったと思って焦ったよ俺様」
「Hey猿!だから言ったじゃねぇか、焦る必要ねぇってよ」
「真っ先に飛び出したアンタが言うなよ独眼竜!」
「秀吉さまっ!!ご無事で何よりです!帰りの道中、この三成がお供致します!」
「いらん」
「ではその許可をっ!!!」
「雪子!何故こいつらと一緒なんだっ!?」
『ふ、深いわけがあるんだよ!でも兄さんは気にしないで!』
「…吉郎さん、もう遅いのですから明日にしてはいかがでしょうか?」
「ううん…だが、なぁ…」
お前らは下がってろ、と三人を押し退けた元就さんが兄さんの説得を始めた
渋る兄さん…まぁ、元就さんに任せておけば大丈夫だろう。とにもかくにも無事に兄さんを見つけることができたわけで
『ふぅ…ありがとう家康くん、兄さんを引き止めてくれて』
「ははっ、だから何の話だ?ワシはちょっとランニングしてただけさ」
『片倉さんから聞いたよ、今日、学校を早退したって』
「う゛……」
『…ありがとう』
「……こちらこそだ」
「雪子!帰るぞ、忘れ物は明日にしておく」
『あ、はーい!行こう家康くん、』
「ああっ」
兄さんに呼ばれそちらに駆け寄る。このまま皆で家まで帰って、元親や真田くんたちと合流する
そして何事もなく1日を終えることができれば…それで解決、なんだよね
20140105.
まだ続く
mae tugi