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最愛の兄さんが居なくなり私は一人ぼっちになった。そんな私に寂しい思いをさせなかったのは私の家にやって来た戦国武将たち
彼らと一緒に居たくて私はこっちの時代を選んだはずなのに―…
彼のもとへたどり着いた私は、また一人ぼっちだった
『〜〜っ!!!』
深く深く息を吸う。ヒリヒリと喉の奥が痛くて、それでも叫ぶために力を込めた
たくさんの人と別れながら、たどり着いた銀糸の人
『三成っ!!!』
「っ!!!?」
私の声と姿を見つけた彼がバッと此方を振り向いた
見ない間にまた痩せたんじゃなかろうか。そんな白く儚い彼の目がみるみるうちに見開かれていく
瞬きの瞬間、その姿は目の前に現れていた
「雪子様っ!!!」
『三成っ…!』
「っ―…何故…ここに…!いや、それよりもお怪我を!痛むところはっ!?」
『〜〜っ!!!』
私がここに居ることに驚く三成だけど、それはすぐに心配へと変わっていた
怪我は大丈夫なのか、痛みはないのか。そう問う三成の方が…痛そうな顔をしている
『私は、大丈夫…会えてよかった…!』
「〜〜っ…!私は雪子様が御無事ならば…!」
『っ―…え、ちょ、三成っ』
震える声でそう告げた次の瞬間、三成が正面からぎゅうっと抱きついてきた
思わぬ彼の行動に慌てる私。今までの私の知る三成とは思えない行動で
だけど―…
『……三成?』
「っ……御無事で、良かった…私は、ただ…貴女様が…!」
『…………ありがと』
すがる彼の背中をそっと撫でる。肩に押し付けられた顔は見えないけど…泣いているかもしれない
だってそうだ。彼にとって“秀吉さんの妹”である私は、目に見える唯一の主との繋がりなのだから。それを失うのはとても怖いのだろう
『三成…ここに来る前に皆に会ったの、大谷さんにも会った』
「っ―……!」
『皆が私をここに連れてきてくれたの。でも大谷さんは、一緒に、来てくれなかった…』
「刑部は…何と…?」
『…私を連れてここから逃げて。戦で…三成まで居なくならないで』
「…………」
私の言葉にピクリと三成の身体が震えた。まさか私からそんなことを聞くなんて
軍を捨て、豊臣を捨て、世を捨てて欲しい。聞かなくても解る三成の答えは…
「…逃げる必要など御座いません」
『…………』
「どうか…雪子様は此方でお待ちください。必ず私が裏切り者らを斬滅し、勝鬨をお贈りします」
『三成、あのね、この戦は…!』
「ご心配には及びません、ならば今すぐにでも家康の首をこちらへ」
『三成…!』
「再び豊臣の天下となった日ノ本ならば、貴女様が身を隠す必要などないのです。秀吉さまの妹君である雪子様が―…」
『っ、違うっ!!違うのっ!!!』
「っ―……!」
『わ、たしは…違う…の…』
私に敵意を向ける貴方が怖かったから、大谷さんの嘘に乗っただけだった
今は貴方を逃がすために嘘を貫こうと思ってる。でも大谷さん、ごめんなさい
三成を戦に縛り付けてる原因の一つが“秀吉さんの妹のため”ならば、私は…
『聞いて、三成…私は…』
例え、三成が私を嫌いになっても
『〜〜っ、私は、秀吉さんの妹じゃ―…!』
「お止めくださいっ!!!」
『っ!!!?』
「それ以上は…お止めください…貴女様は、秀吉さまの妹君です…!」
『三成…?』
「〜〜っ!!!!」
ぐっと、三成が私を抱き締める力を強めた
少し苦しい。痛い。でも三成の方がきっと痛がってる。震える彼と今の言葉に、私は全てに気がついた…そうか、三成は…
『いつから、気づいてたの?』
「…私が気づくべきことなど何もありません」
『三成、嘘はつかないで』
「嘘など何も…私は秀吉さまの命に従い、貴女様と共にある。それだけです」
『…三成』
「…貴女様は、秀吉さまの妹君…御自分の命に従えと、私に、そう…仰ってください…!」
『え…』
「秀吉さまの命で私は雪子様の元へと落ち、そして妹君である雪子様をお側でお守りすることが私の使命だと…!」
そうでなければ―…
「雪子様のお側に…私などが居られるわけがない…!」
『っ!!!』
「貴女様が秀吉さまの妹君でなければ、私が、私などがお側に居られる理由が無いのです!私のような男が…貴女様と…!」
『っ―…!三成!理由なんて探さなくていい!』
「っ…雪子様…」
『私だって…皆が、私を独りにしないから…』
兄さんが居なくなった私の所に皆は現れた
皆は私を寂しくさせない。独りぼっちにしない。だから私は“お返し”として皆を家に置いていたんだ
だけど、今は違う、
『私はずっと皆と…三成と居たい…!もし他の人が私を寂しくさせなくたって、貴方たちじゃないなら私はそんな人いらない!』
「それ…は…」
『私を…残していかないで三成…!』
今度は私が三成にすがった。さよならを言うために、私はここに来たわけじゃない
戦を止めて。降伏をして。命を選んで。そう、私は、三成に―…
「…それが…雪子様の、命なのですか?」
『命令じゃない、お願いなの…!』
「…………」
『…………』
「…共にあっても良いと、許可を頂けたのですね」
『っ―……!』
「貴女様の明日に私も居ると、約束していましたから」
『三成…!』
彼の言葉にハッと顔を上げる。少しだけ、穏やかにも見えた表情
覚えてくれてたんだ、そう思って私も微笑めば―…
「そう言って頂けるだけで、私も十分です」
『え……』
「私も雪子様の明日に居たい…ですが…」
今は秀吉さまと共に、貴女様の昨日に居ましょう
そう呟いた三成は私から身体を離した。そして今一度腕を回し私を抱き上げ、そのまま何処かへ歩いていく
『っ、三成!待って!昨日ってどういう意味っ!?』
「…………」
『降ろして三成っ!?嫌!三成までさよならを言うなんて―…!』
「別れを言うわけではありません」
『っ―……!』
「ですが…雪子様だけでなく、真田や長曾我部…毛利、伊達と交わした約束があるのです」
『やくそく…』
「はい、」
私をそっと降ろした三成が顔を覗き込んできた
そういえば越後で政宗さんと再会した時、彼もそんなことを言っていた気がする…あの時ははぐらかされてしまったけれど
「彼方から戻る前に、皆で約束をしました」
『…………』
「毛利は彼方で過ごした私情を持ち込むなと。戦で顔を合わせた際に遠慮はするなと」
『元就さんが、そんなこと…』
「真田は誰が天下を取ったとしても、雪子様が平和に暮らせる世を創れと。長曾我部は雪子様を泣かせることだけは許さないと」
『…………』
「私は…雪子様を傷つける者は許さない、そう、約束を出しました」
『その…最後が…』
「伊達の示した約束です」
「次に会った時、因縁全てをその場で終わらせろ」
「…どういう意味でござるか、政宗殿」
「阿呆か真田、そのままの意味ではないか。我と似たようなものよ」
「アンタのと一緒にまとめるんじゃねぇよ」
私の手の上に重ねていた伊達が鼻で笑う。説明しろと睨めば奴は再び皆の顔を見渡した
「オレたちは互いに何かしらの因縁がある…知ってるもの、知らねぇもの、これから起こるもの全てを引っ括めてな」
「……………」
「それを何一つ雪子は知らねぇ。だがそんなアイツの所だからこそオレたちは暮らしてこれたんだ」
しかし…戦で顔を合わせたならば、どう足掻いてもそれが表に出る
例えそれが雪子様を悲しませ、傷つけるものであったとしても―…
「だからこそ次に会った戦で全てにケリをつけろ。オレらのケジメだ」
「…その先はどうなる?」
「Ah?そんなの決まってるだろうが石田。その次に逢った時はこの場の全員、恨みっこ無しで―…」
正々堂々、雪子を奪い合おうじゃねぇか
「私は必ず、貴女様の元へ参じます。他の誰よりも先に」
『みつ、なり…!』
「この世の誰よりも何よりも…雪子様をお慕いしているのは私です、そう、証明致しましょう」
だからどうか―…
「雪子様のずっと昨日に…私が居たことを、お忘れにならないでください…」
『あ―……』
ドン、と三成の手で突き飛ばされた身体。段々とそれは傾いていき浮遊感が私を襲う
遠ざかっていく三成を見つめながら考えた、この下には、何があった?
『大阪城を…囲む…!』
池、
そして彼らは私の家へ風呂場を介してやって来た。戻る時には雨に打たれ…ならば―…!
『三成っ!!!』
「…………」
飛沫と大きな音を立て、水面に打ち付けられた身体に痛みが走るがその刹那。確かに私に真っ黒な闇が絡み付いていた
水の中へと沈む私…苦しく吐いた息も、流れた涙も全てが飲み込まれていった
まだ帰るわけにはいかない、私は何一つ変えることができていない…のに…
『〜〜っ……』
私の方こそ、貴方の側に居られるわけがなかったのだろうか
水面に手を伸ばしてみたけれど、やはり誰も掴みとってはくれない。私ばかりがすがり取っていたのか、それとも、これも全てが夢だった?
(約束…を…私は…)
遠退く意識の中で私は何度も彼を責めた、自分を責めた
嘘つき…嘘つき。私も彼も嘘をつき、そして約束を破ったんだ
『……………』
ただ…真っ黒な夢の中で、大きな手が私を引き戻した気がした
20131006.
嘘が本当ならよかったのに
mae tugi