缶切りでこじ開けた
※大人夢主と高校生夢主が混在しています
『はぁあ…ほんとのほんとに高校時代の私だ。まさか自分の黒歴史と向き合うことになるとは』
『人生、何が起こるか分かりませんね』
『君が言うな…!』
『いひゃいれす』
昔の私がやってきた
会いたくもない自分の黒歴史に頭を抱える私に対し、昔の私は我が家のようにくつろいでいる。いや、我が家なんだけどね
そして、そんな私たちの間に座るのは…ついさっき日光浴から戻った松寿くん。今の私と昔の私を見比べ一瞬戸惑った彼だが、今は当然のように間に収まっている
「両手にナキぞ」
『うん、ご満足頂けて何よりです松寿くん…』
『おや、これはまた大きな子ですね。この仏頂面は私とパパの悪いところを引いたのでしょうか』
「だから俺は旦那じゃねぇよ…!」
「我はそなたの子ではない、そなたの伴侶となる男ぞ」
『はいはい、そうですか。それは頑張って頂きたいですねよしよし』
「……………」
「しょ、松寿がすっごく複雑そうな顔してるんだけど…」
「チビナキに頭を撫でられたのはよいが、明らかに子供扱いされておるからなぁ」
『子供の言うことは可愛いものです。将来、麗しいお姉さん方の誘惑に負けず思って頂けると嬉しいですね』
「ほう、今の言葉を忘れるでないぞナキ」
『やめろ昔の私、松寿くんは煽るとそのまま乗っかってくる子だから』
『年下は守備範囲から大きく外れてますがね』
「・・・・・」
『おぉふ…!』
我ながら逐一一言が多いと思う。今もその悪い癖は治ってないけれど、昔の私は一層質が悪い
今思い返しても酷いもので…だから記憶の奥底へ鍵かけてしまってるのにさ
『もうやだ…こんな自分見たくない…!』
『…未来の自分をずいぶん憔悴させてしまったようです』
「大丈夫だよっ!!そりゃ昔のナキちゃんも楽しそうな子だけど、やっぱり今のナキちゃんとは違ってるからさっ」
『慰めはやめてよマセガキ…分かってるから、この、生意気なとこ今でも鏡を見るみたいで…』
「そうかな?少なくとも俺が知ってる今のナキちゃんは、すっごく優しくて可愛い子だと思ってるよ」
『宗兵衛くん…』
『おや、さすがですね前田くん。その優しい言葉、きっと今の私はキュンキュンときめいてま…』
『だから黙って禿げ散れ黒歴史ぃいぃい…!』
『いひゃいれす』
再び黒歴史の頬を抓りあげるけど、本人はしれっと宗兵衛くんを指差し「あんな人、好感もてませんか?」て
そりゃまぁそうだけど本人の前でしれっと言うなって話だよね…!
『はぁ…昔の自分に説教とか嫌だけど、その性格、なんとかしなきゃダメだよ』
『まさかのガチ目な説教ですね。性格がよろしくないのは自覚済みかと』
「おお、自覚がある分は昔のナキがましではないか?」
『黙らっしゃい刑部さん…!』
「ヒヒヒッ、まぁナキは敵もつくるが味方もつくる…その性分、ぬしも不安になる時があろう」
『……………』
『………あれ、』
刑部さんの言葉に初めて昔の私が固まった。それは皆が予想外で、刑部さんも少し困ったように私を見る
それから少しして、昔の私が小さく話し出した
『では…』
『ん?なに?』
『…いえ、何でもありません。確かに今の私は敵ばかりつくっています。ですが…』
『……………』
『未来の私は、味方もたくさんいそうで少しだけ安心しました』
「あっ…!」
「ナキどのっ!!!」
梵と弁丸くんが大きな声を出したその時、松寿くんと絡めていたはずの昔の私の腕がだんだん透けていくのが見えた
慌て出す子どもたち、ただ本人はのんきにそこを見つめている
どうやら彼女は、元の世界に戻るらしい
『…あっという間でしたね。帰れないと困りますがこれほど呆気ないとは』
『まったくだよ…黒歴史掘り返すだけ掘り返してさ』
『それは失礼しました。では最後に、未来の私に質問してもよろしいですか?』
『はいはいなんなりと。言っとくけど小十郎くんは旦那じゃないからね』
『承知してます。聞きたいのは一つ…貴女は、理想の大人になれましたか?』
『っ………』
『私は、少しでもあの人に近づけましたか?』
みるみる透けていく身体なんか気にしないで、私を真っ直ぐ見上げてくる彼女
立派な大人に…そうだね、君はそれを目指して闇雲にもがいていた
『…どうだろ、多分、まだ途中なんじゃないかな』
『そうですか…それは残念です』
『でも、まったく近づいてないわけじゃない。少なくとも私は、ここ最近ぐっと近づけたような気がする』
だって…
『あはー、こんなに大事な家族が増えたからねっ』
『っ………』
「…ナキが笑った」
『え、まじでか松寿くん』
「うん、笑ったぞっ!!」
「笑ったでござるーっ!!」
松寿くんの言葉につられて梵と弁丸くんが抱きついてくる。それを受け止めて彼女に視線を戻せば、身体のほとんどが消えていた
そして、その表情はさっきまでと違って戸惑いでいっぱいだ
『今の…』
『ん?』
『いえ…そうですね。どうやら私の未来はそう真っ暗じゃないようです』
『うんうん、だから君ももう少し素直になって…』
『では最後に。未来の私にも一つ、教えて差し上げます』
『へ?』
『貴女が黒歴史と呼び、記憶から消し去った私ですが…存外、悪くない青春を送っていると思いますよ』
『っ…………』
『それでは、今度こそ本当にさようならです』
そう言い残した彼女は呆気なく、風が吹くようにふっと消えてしまった
私が消えた。その事実に梵と弁丸くんが掻きついてくるけど…心配ないよ、私はここにいるから
そして静まった居間で、私はまた小さく笑ってしまう
「…どうした、ナキ」
『ううん…最後の最後で、私の方が叱られちゃったと思ってさ』
「ほう、ではぬしの黒歴史とやらを思い出したか?」
『いや、ぜんぜん全く思い出せませんよ。でも今はそれでいいかな、て』
そのうち、何の前触れもなく浮かびそうですから
「ん…どうした小石、ずいぶん機嫌がいいじゃないか」
『雑賀さん…いえ、自分の将来に希望が見えたので気持ちが楽になりました』
「将来…ふふっ、気になるな。小石の将来はどんな生活だ?」
『可愛い子どもとクセのある同居人に囲まれて…笑ってました』
20150329.
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