生まれた瞬間から私


「はぁっぴぃぃ…ばぁすでぇい、つぅぅぅぅぅゆぅぅぅぅっ!!!」

『・・・・・』

「気をしっかり持てナキ!兄者の前だぞ!」

『………はっ!あまりの衝撃に思わず』

「言葉にならぬほど嬉しいか、ナキよ!」

『そして社長が意外と前向きでさらに驚いてます』



出社した瞬間だった。バカでかいクラッカーの音に流石の私も怯んでいると、パーティーグッズを身につけた社長が登場したから更に驚愕だ

その後ろから浅井先輩や明智部長、濃姫さんや蘭丸くん…松永副社長まで居るよ



『…って、え、誕生日?』

「今日はナキの誕生日じゃなかったか?」

『いや、そうですけど、え、もしかして誕生日パーティーですか?』

「ふふふ、もちろんですよ。ナキさんを祝いたいと社長が仰ったのです」

「………」

『ま、まじっすか』



驚く私を見る社長は渾身のどや顔。サプライズが成功して嬉しいらしい、いや、ありがとうございます

しかし、社員の誕生日会にしては飾りつけが豪華すぎるんじゃないですか



『まるで結婚式のごとき会場ですね』

「お望みならば今すぐウェディングドレスを用意しますよ?」

『ハゲ散らかしてください明智部長。つか、私なんかに経費を使うなんて…』

「やれやれ、人の厚意にケチをつけるのはやめないか?せっかくの祝い事も君が楽しまねば意味がないと思うが」

『松永副社ちょ―…』

「ナキさんに近寄らないでください。貴方を雇う方がより経費の無駄遣いです」

『そして副社長相手の時だけ真面目にならないでください部長』

「ナキ〜っ!!!」

『うごっ』



楽しませたいなら誕生日会で喧嘩しないでください管理職。そう思っていると突然、背中にドーンッと衝撃が走った

蘭丸くんか、今日も唐突タックルかい



「蘭丸が真っ先にプレゼントやるぞ!ナキのために選んだんだっ」

『プレゼント?』

「じゃーんっ!!!」



どうだーっと蘭丸くんが差し出してきたのは、小さな石のついたストラップだった

星をイメージしたのか僅かに光るそれ。可愛くて綺麗、蘭丸くんのセンスの良さにまず驚いた



『綺麗…』

「そうだろっ!?なんか金平糖みたいだしっ」

『まさかのそっちか。でもありがとう、すごく嬉しい』

「私からはこれだ」

『うわっ』



次に浅井先輩から渡されたのは両手で抱えるほど大きな袋

動くたびにガザガザと音がする。中にまた袋があるらしい、これは―…



『お菓子の詰め合わせですか?』

「ああ、息子たちと共に食え」

『ありがとうございます、流石です浅井先輩。無難すぎる誕生日プレゼント』

「…貶しているのか?」

『褒めてます、ありがとうございます』

「では私からはこれを贈ろう」

『ん?』



続いてサラリと隣に寄り添ってきた松永副社長が、一枚の紙を私に手渡してくる

まさかの現金かと思ったけど、それはただのメモ用紙。簡単な地図と時間だけが書かれていた




「知り合いの店を貸しきったんだ。時間になればそこへ来たまえ」

『おぉう…まさかの食事の誘いですか副社長。しかも貸し切りとか』

「夜景だけではない、夜の町に蔓延る人もゴミのように見下ろせる最上階のレストランだよ」

『ばるす』

「ふふふ、残念でしたね副社長。ナキさんを誘いたいならお子さんも連れて行けるファミレスにすべきです!」

『そして明智部長が正解を言うのが腹立たしいです』

「…貴様はこんな時にも素直になれんのか」



黙ってください浅井先輩。明智部長にデレの片鱗を見せたが最後、調子のって面倒なんで

でも…確かに、子供たちも一緒に連れて行ってくれるのなら。誘いに乗るくらいいいかもしれない



「そんな私からはこれを差し上げます」

『…何すかコレ』

「イエス・ノー枕です」

「何てものを贈るんだっ!!?」



浅井先輩が蘭丸くんの目を両手で塞ぐ

子供の前で堂々と渡さないでください、濃姫さんの視線が冷たいですよ



『…どうせなら二個くださいよ』

「ダブルベッド用ですかっ!!?」

『引き剥がして縫い合わせて両面ノーにします』

「では私は両面イエスですね、もちろんいつでもイエスですよ!」

『まじで一回土に還ってください』

「ナキ、落ち着けその顔はやめろ」



私だって自分の誕生日に顔を歪めたくなんかないのに。けど日常と言われたらそれまでだ

枕を部長の顔面に叩きつける私に最後…近づいてきたのは織田社長と濃姫さん。その手には何も持っていない




「さぁ、ナキ。欲しい物を言うてみよ…」

「何でも言ってちょうだい、私たちはそれをナキに贈るわ」

『やっぱりそうきますか!』



さぁ、言いなさいと迫る夫婦。クラッカー音がした瞬間から何となく察していたんだ

どうして二人はいつも、私をこうやって甘やかすのだろうか。チラリと横目で見た先では…隠したつもりで実は見えてる大きなケーキがあったり



『………はぁ、』




もし、社長がその権力と財力でプレゼントをくれると言うのなら…




『…織田社長』

「決まったか…?」

『松永副社長や明智部長に負けず、ずっと元気に社長を続けてください』

「…む?」

『濃姫さんはお美しいままで、ずっと私のお姉ちゃんみたいな人で居てください』

「ナキ…?」

『いやぁ…私、織田貿易以外で働く気は全くないので』



私みたいな性格の人間をずっと雇い続けてくれて、家族みたいに大事にしてくれて

そんな社長とあの副社長。あんな部長とこんな先輩だからきっと成り立ってるんだな、と



『だから、定年までずっと私を雇ってください。頼みますよ社長』

「……………」

『……………』

「……ぐぅう…!」

『へ?…って、社長っ!?なに泣いてるんすかっ!!?』

「ナキが泣かせるんじゃないの…!ぅう―…!」

『え、ちょ、濃姫さんまで!だって本当にそれがお願いで…!』

「ぬ゛ぅあ゛ぁぁぁあ゛ぁっ!!!」

『大号泣っ!!?』





「…やれやれ、他の社員には見せられない醜態だ」

「いいですね社長…ナキさんに涙を拭ってもらえて」

「しかし…」




『……社長』

「…………」

『毎年、誕生日会は必要ないと言ってるじゃないですか』




入社してから何度目かの、








『堅物男子ー、これあげる』

「あ?こりゃ…枕か?」

「ナキ、これ何の絵だ?」

『これは絵じゃなくてアルファベットって文字だよ梵。英語なの』

「えいご?」

『うん、イエスとノー。ハイとイイエって意味』

「何がいえすで、何がのぉなんだ?」

『夜のにゃんにゃん』

「ぶはっ!!!?」

「にゃんにゃんって何だ?猫か?」

『片倉くんに教えてもらいなさい』







2013年○月○日.
ハッピーバースデー^^
まさかの誕生日のお話です。皆様お誕生日おめでとうございます!


←prevbacknext→
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -