開催します


“借り物競争に参加する方はテント前に集合してください、繰り返します…”



『ん…?』



放送が運動場に流れる。借り物競争、か



『刑部さん、出ませんか?これを逃すと残りはちびっこのリレーだけですし』

「いや…われは遠慮する。最後尾を歩くだけゆえ」

『借り物競争なので当たりクジを引けば余裕ですよ、ほら、せっかくですからっ』

「む…」

「兄者も行ってはいかがか、ビデオは私が引き受けましょう」

「む…」





「ヒッ…社長殿もか」

「ふん、刑部と言ったか…やるからには貴様にも負けぬわ」

「ヒヒヒッ!手加減を願うが、われも負けるわけにはいかぬでなぁ」

「ぎょうぶ!負けるなっ」

「兄者の勇姿は私が責任をもって撮るっ!!」

『おっと、とんでもない組み合わせだったよどうしよう』



刑部さんを参加させたのはいいけれど、まさか織田社長まで出てくるとは

大丈夫だろうか…ま、いっか。参加することに意味があるんだよねっ!!



「これは何をするんだ?」

『あの箱の中に紙があって、そこに書かれてる物を借りてくるの』

「だから借り物競争か…だいたい何が書いてあるんだ?」

『うーん…タオルとか眼鏡とか?たまに人も書いてるよ。簡単なのがいいよねー』




よーい……どんっ!!



合図と共に参加者が箱に走り寄る。刑部さんは杖でゆっくり向かうから、やっぱりクジは最後尾だ

残り物には福がある!当たりクジこい、当たりクジこい…!



「やれ、やはりわれは最後か…ん?社長殿もずいぶんゆるりとしておるなぁ」

「余裕と言わぬかうつけめ…最後であろうと勝利者は我よ」

「ヒッ…それはすまなんだ。さて、と」

「何を持ってくれば…」

「・・・・・」

「・・・・・」




『あれ、刑部さん、固まっちゃってますね…刑部さーん!さすがに急いでくださーい!』

「上総介様も顔色が悪いわ…何を引いたのかしら」

「っ……!」

「っ〜〜!」



バッ!!!

刑部さんと社長が同時にこっちを向いた



「ナキっ!!!」
「濃っ!!!」

『へ?』
「え?」




……………。



『…よ、呼ばれてますよ濃姫さん、織田社長に』

「ナキこそ呼ばれてるわよ、刑部さんに」

『…い、行きますか』

「そ、そうね」



二人に呼ばれた私たちは急いでトラックへと走っていく。何だ何だ、私たちが持ってる物が借り物でしたか




「上様、濃の持ち物が必要なのでしょ―…」

「来いっ!!!」

「きゃあっ!!?」

『おぉー…』



濃姫さんが側についた瞬間、その腕を掴んだ織田社長。そしてそのままズンズンと歩いて行ってしまう

濃姫さん、耳まで真っ赤だ。あれ、織田社長もちょっと…



「ナキよ、すまぬが腕を貸してはくれぬか」

『千切れませんよっ!!?』

「…………」

『いや、冗談ですって。こうですか?』

「ああ、すまぬ」



私の方は刑部さんの腕に自分のそれを絡め、支えるようにゆっくりと歩いていく

周りの視線が集まるよ、ちょ、めちゃくちゃ恥ずかしいんですが



『仕方ないか…刑部さん、速くないですか?大丈夫です?』

「ああ、構わぬ…ずいぶんと奇妙なクジを引いた」

『え…あ、借り物って私ですか?何て書いてあったんです?』

「人妻」

『張り倒しますよ』

「ヒヒヒッ!冗談よ、ジョウダン、つねるでない」

『刑部さんジョークは冗談に聞こえないから腹が立ちます』



運動会であってもやはり彼は相変わらずか。ため息をつきつつゴールを見れば、織田社長たちが一等賞をもらっていた

そして他の人も次々と私たちを追い抜いていく。それでも焦ることなくゆっくりと、私と刑部さんは進んでいった




『クジには何て書いてあったんですか?』

「ぬしは知らずともよかろう」

『えー、借り物としては知る権利があると思いますよ?』

「当たり障りもない物よ…恐らく、われと社長殿は同じ物を引いた」

『それ、ますます気になるじゃないですか』

「秘密よ、ヒミツ。ヒヒヒッ!!」

『…………』

「…秘密にさせて欲しい」

『そこまで言うなら…聞きませんよ。知ったら私も何か、後悔する気がしますし』

「ヒッ…後悔はさせぬと思うが?」

『ん?』

「いや、何も」




すぐ隣から聞こえた笑い声は、何時もより短かった気がする








「…で、ここまでが先日の運動会の映像よ」

「・・・・・」

「待ってください帰蝶、何なんです、最後のアレは何なんですか」

「あ、あれは上様が何も言わず私の腕を…」

「帰蝶と社長のノロケに興味はありません、私が聞きたいのはナキさんと刑部さんが仲睦まじく腕を絡めて…ぐはっ!!?」

「・・・・・」



明智部長が濃姫様に蹴飛ばされた。冷静さを欠いた部長、仕方ない、まさか最後にナキのあんな姿を見るとは

そしてこちらにも―…



「最後の撮影は卿かね?ずいぶんと愉快なカメラワークだったよ」

「きょ、恐縮です副社長…」

「絡めた腕のアップは厭味か、偶然か、答えによっては卿の人生を左右するが?」

「・・・・・」




運動会の上映会。何故この大切な日にナキと社長は筋肉痛で休みなのだ…!

嘆き狂う明智部長を踏みつける濃姫様。あちらは彼女に任せるとして、だ


私は何故…運命の別れ道に立たされている






20130505.
春の地区運動会

本編に登場したフルメンバーでお送りしました^^
やっぱり長めな番外編は、連載問わず刑部がオチをかっさらうようです←


←prevbacknext→
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -