目指すは日本一の甘味男


『梵ー、買い物行こう。引越し蕎麦だよ引越し蕎麦、ご近所さんに挨拶用』

「や、やっぱりオレも行くのか?お前だけで行っ…!」

「…梵天丸様」

「い、いい行けばいいんだろっ!!?」

『・・・・』



どんだけ片倉くんが怖いんだ梵よ。あれ、梵の方が立場って上じゃないの

…昔の身分とかよく分からないけど



『…日本史頑張っとけばよかった』

「なにブツブツ言ってんだ、行かないのか?さっさとしろ」

『はいはい』










「・・・・・」

『ほらほら、行かないの?さっさとしなさい』

「あ、ああ」



商店街のアーケード

見るものすべてが初めてだから、彼らも例外なく戸惑っている様子

建物も、人も、車も何もかも知らないんだ。大きな体で車にビビる片倉くんを見ても笑っちゃいけない!



『ほら、梵も顔あげて。怖くないからさ』

「………」

『梵…?』

「…梵天丸様」

「っ―…!」



私の服を掴んで俯いたまま歩く梵。怖いのかな、と思ったけどちょっと様子がおかしい

人とすれ違う度にグッと手に力が入り、どこかで笑い声がすると体が跳ねる。そんな彼に片倉くんは何か気付いたようで



「…お顔を上げてください」

「い…いやだ」

「隠れていても始まりませんし、恥じるものでもありま―…!」

「イヤだ!」

「梵天丸様!」

『待て待てストップ、ウェイト、落ち着け二人とも』



片倉くんも梵も声を大きくするから、周りの人が何事かと歩みを止める

そんな視線から逃げるように梵が腰に抱きついてきた。そう、顔を隠して、だ




『…眼帯、見られたくない?』

「っ……う、ん」

『そっか、無理に連れ出してごめんね?梵は家で留守番…』

「ナキ!甘やかす必要はねぇ。梵天丸様、貴方はいつか伊達家を継ぎ…!」

『街中で説教始めるな堅物男子!…まぁ、ずっと引きこもりもダメだけどさ』

「…………」



厳しいけど正しいんだろう、片倉くんの言い分は。ただいかんせん子供には酷な教育だ

梵は自分の目を見る周りが気になるのだろう。笑い声は自分へのものじゃないか、そう不安になる


……………



『…よし、ちょっと休憩しよっか。あそこの公園』

「休憩?おい、急いで買い物すませて帰らなきゃ…」

『先に梵と行ってて。私はちょっと買ってくるものあるから』

「お、おいっ!!?」








『お待たせしました。はい、どうぞ』

「何だ、これ」

『アイス』



少しして合流した私が差し出したのは、近くで買ったバニラアイス

コーンを受け取って感じた冷気に驚いてる二人。こう食べるんだよ、と私は自分の分を一口



『甘いお菓子…甘味?美味しいから食べてみて』

「い、いや、俺はあまり…」

『無理なら梵にあげて。梵、どう?』

「……うまい」

『そっか、早く食べなきゃ溶けるよ』



ベンチに腰掛けて三人でまったり。広い公園だから遠くでボールを蹴る子供の姿が

片倉くんも恐る恐るだけどアイスを口にしていく。男は度胸だぞ、少年。梵はもう半分食べてた早いな



「…ん?ナキの、オレたちのと違うのか?」

『あ、うん。納豆アイス』

「っ!!?な、納豆ってあの納豆か…!?」

『あの納豆以外の納豆を私は知らないよ片倉くん…うん、美味しい』

「・・・・」



あ、ありえねぇ…!

片倉くんの心情はこの一言だろう。確かに納豆をアイスに、なんて現代人が血迷ったとしか思えない

…それに対して隣の梵は、じっと納豆アイスを見つめている



「………」

『…一口食べてみる?』

「え…いいのかっ!!?」

「お止めください梵天丸様!きっと美味くはありません!」

『それ作った人に失礼でしょ。はい、どうぞ』

「………んぐ」




差し出したアイスにかぶりつく梵。一口がでかい、そしてモグモグ可愛いぞ



『どう?』

「・・・・う゛ぇ」

『あはー、だよね、思った通りの反応だ』

「だったら食わすんじゃねぇっ!!梵天丸様、大丈夫ですかっ!!?」

『初心者はバニラアイスが一番。ところで梵、さっきはどう思った?』

「へ?」

『片倉くんと自分はバニラアイスで、私だけ違うのだった。うらやましい、とか欲しいなーって思わなかった?』

「っ……!」



いくらゲテモノだったとしても、特別なソレがうらやましい

誰でも少しくらいは思うんじゃない?少なくとも梵はさっき、そう思った




『特別だと目を引くんだよ。片倉くんみたいに気味悪がったり、梵みたいに興味を持ったり』

「そ、それ、オレのこと、言ってんのか…!?」

「おい、ナキっ!!」

『そう思う?だったら梵にも、興味を持ったり好いたりしてくれる人がいるんじゃない?』

「っ!!?」

『そんな近寄ってくる人達にどう印象を与えるかは、梵自身がどうするかだよ』



ちなみに納豆アイスも好き嫌いが分かれます

そう言って私が一口食べると隣の梵は俯いてしまった。片倉くんも何か言いたげで…でも口を閉じる



「でも…」

『ん?』

「……お前や、弁丸みたいに…オレに、ふつうに話してくるやつの方が、少ない」

『……うん、はじめはね』

「それに、ここは未来なんだろ?だからナキは、オレのこと知ってた」

『うん、』

「…オレの目のこと…知らないやつは、初めて知ったやつは…やっぱり、気味が悪い、か?」

「梵天丸様!そんな弱気で―…!!」

『黙ってなさい堅物男子!』

「っ!!?」



やっぱり説教臭い彼の頭を叩き必死な表情の梵と向き合う

少しだけ涙の膜が張ってる綺麗な目、真っ直ぐで、返事を欲しがってる



『…偉そうに言える女じゃないけどね、私』

「…………」

『それは、自分のこと知って欲しいってこと?』

「っ……!」

『自分を見て欲しい?なら私は梵自身の中身を見てあげる』

「なか…?」

『そう、そして梵もみんなに自分を知らせなきゃいけないよ』

「っ……!」

『立派な武将にでもなって、天下に名前を轟かせて、みんなが梵を見るようにしちゃえばいい』



笑う人もいるかもしれない、だったら笑われないようなスゴいことすればいい




『目指せ、日本一の納豆アイス!』

「違うだろっ!?納豆あいす目指してどうすんだっ!!」

『例えだよ。注目されることに快感を覚えたらもう怖いものなしさ、なんでもできる』

「梵天丸様に変態みたいなこと言うんじゃねぇっ!!」

『変態違う。それにみんなが独眼竜を知ってたら、わざわざ隠す必要ないし』

「そりゃそうだがっ…だいたい、その独眼竜ってのは何―…!」

「ナキ!オレ、日本一の納豆あいすになるぞっ!!」

「梵天丸様っ!!?」

「みんなにオレを教えてやるっ!!名前を聞けばどんなリッパな男か分かるくらいに!」

「っ―…!」

『うんうん、カッコイイ伊達男になればいいよ。むしろ眼帯?カッコイイじゃんとか思われるくらい』

「おおっ!!」



やってやる!と拳を握る梵を見て、片倉くんは目を丸くしていた

けど直ぐにグッと締まった表情に変わり、幼い主の決意に頭を下げる



「梵天丸様…御一人ではなく、この小十郎も居るとお忘れなきよう」

「こじゅうろう…」

「…………」

『………あ゛』

「あいすが溶けてるぞ」

「っ!!!?」



真面目な雰囲気を壊したのはまさかの片倉くんだった

持っていたアイスが溶けだし、手が汚れてる。タオルあったかな



『っ……ぶっ、あははっ、空気読んでよ堅物男子』

「さっきからその呼び方やめろっ!!あと、早く拭くものよこせっ!!」

『ください、じゃないの?』

「テメェ…!」

「…………」

『ん?どうしたの、梵』

「こじゅうろう、すげぇっ!!ナキを笑わせたっ!!ナキが声出して笑った!」

『…………は?』
「…………は?」

「すげぇっ!!」




妙なところに感動している梵を挟んで、私たちは顔を見合わせる

…で、もう一回笑った。私も梵が笑ってくれたとこ、今初めて見たよ






20130219.
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