いくつでも母ちゃんは強い


『あ、部長、先輩。もう引っ越し作業ほとんど終わってますよ』

「半日も経っていないぞっ!!?」

「ずいぶん手際のいい業者でしたね」

『ですねー』



新居へ荷物を運び終わった頃、手伝いに来てくれた浅井先輩と明智部長

先輩はジャージ姿で手伝う気満々な様子だけどすみません、ほとんど終わってます


重い家財も片倉くんと宗兵衛くんが運んでくれたからなぁ



『もちろん私も担ぎました。数多の学生バイトと会社での雑用をこなした私も男に負けてられませんから』

「逞しいな貴様っ!!しかし…手伝いが必要ないとなれば、私たちが来た意味もないな」

『すみません、わざわざ来てもらったのに』

「いや…終わったのならかまわない…が、ところで、だ」

『はい』

「もしや…そ、その子が…」

『あ、はい、マイジュニアです』

「弁丸でござる!」



はい、こんにちは。私の足に掻きついたままの弁丸くんを二人に紹介する

部長が来る以上、子供を見せなきゃ帰ってくれないだろうし。どうせいつかばれる、見せても減らない



「ふふふ、可愛いですね弁丸くん。お母さんに似ましたか、お兄さんに抱っこされてくれます?」

「ひぃぃっ!!?」

『こらこら部長ー、弁丸くんの半径10メートル以内に近寄らないでください』

「お、思ったより大きな子だな…しかし名はいい。弁丸…真田信繁の幼名と同じか」

『真田…何ですか?』

「信繁、真田幸村と言った方が分かるか、関ヶ原の際には…」



おお、始まったよ浅井先輩の歴史うんちく

弁丸くんもきょとんとしてる、全部君のことだよ〜



『まぁ、真田幸村なら私でも解りますよ。有名ですし六文銭とか十勇士』

「ああ。だが真田十勇士は後に創られた物語であって、猿飛佐助らは空想にすぎ…ぐはっ!!!?」

『先輩ぃぃぃっ!!?』

「おやおや」



目の前から吹き飛んだ先輩がザーッと道路を滑っていく。おいおい、大丈夫ですか

そして彼が消えた目の前に、ストンと降り立つ影がひとつ…




「誰が空想だよ!勝手なこと言っちゃってさ!」

『君も勝手になにやってんだ短気忍者』

「だって、こいつが―…!」

「な、な…なんだその子供はっ!!貴様の子かっ!?」

『え、いや、親戚の子ですよ。さすがにこのサイズの息子はいませんってば』



未だに先輩を睨む佐助くんだが、何しちゃってんだよ目上だよ一応は

さすがに我が子ですとは紹介できないし、親戚です、中学生です、よろしくと言っておいた



『預かってるんですよ、弁丸くんの世話をお願いしてて』

「中学生…ですか。思春期の男子が年上のお姉さんと一つ屋根のしたとは…!」

「ねぇ、こいつも蹴り飛ばしていい?」

『オッケー』

「許可するなっ!!まったく…さすが親戚、乱暴なところは似ている」

『ありがとうございまーす』

「「褒めてないっ!!……あ゛」」

『あはー、ハモった』



なんだかんだで仲良くなれそうな二人。この年から佐助くんに苦労人の相が見えるよ



「…………」

『ん…どうしたの弁丸くん、部長をじっと見て』

「ふふふ、やっと私に抱っこされてくれますか?」

『え、ダメだよ、明智菌が移ると変態発言しか口に出せなくなる』

「ぶちょーどのは、びょうきでござるかっ!!?」

「ええ、ナキさんと弁丸くんが私に抱きついてくれることで、この不治の病も取り払うことができるのですが…」

「誰かツッコミをっ!!!」

「どっちの言葉も信じちゃダメですからね弁丸さまっ!!!」



やっぱり仲良しだ、息ぴったり

それにしても何で弁丸くんは部長のことを見て…あ



『部長、さっきから何を隠してるんですか?』

「おや?ばれてしまいましたか…お子さんにお菓子を、と思い買ってきたんですよ」

「菓子でござる!」

「ふふふ、弁丸くんは鼻が利くようですね。アナタのために買ってきたので、お好きにどうぞ」



パァッと笑顔になった弁丸くんが駆けていく。部長が取り出した袋は有名なケーキ屋のもの

そう言えば、子供たちにお菓子をあげると言ってくれてたような



『すみません、ありがとうございます。浅井先輩も』

「ああ…私が言ったことだしな、引っ越し祝いだ気にす…」

「かんしゃいたすっ!!」

「…貴様の子は古めかしいな、いろいろと」

『誰に似ちゃったんですかねー、よかったね弁丸くん』



大きな袋を抱えた彼は目をキラッキラに輝かせて私を見上げてる。ああ、食べてもいいかってことだね

見えないはずの尻尾を振る弁丸くんを撫でて言う、ちゃんと手を洗いなさい



『あと、みんなで分けるから一緒にね』

「うむっ!さすけっ」

「はいはい、じゃあ中に入りましょうねー…失礼します」

「最後まで私を睨むのかっ!?」

「ふふ、反抗期ですから仕方ありませんよ」

「次会ったらアンタも蹴り飛ばすからねっ!!?」

「受けてたちましょう。ナキさんと同棲とかうらやましすぎるんですよ」

「本音出たなっ!!?」



さすけーと服を引っ張る弁丸くんに促され、しぶしぶ家の中へ入る佐助くん

あの子もね、もう少し気が長くなればいいのに



『すみません、生意気言って』

「…あれくらいの年は皆そうだ、気にするな」

『悪い子じゃないので。まぁ、下手すると一番手のかかる子かも』

「…どうやら、私の心配は杞憂だったようだな」

『はい?』

「いや、お前が子育てと聞いたときにはどうなるかと思ったが板についているぞ」



立派に母親をしている、そう言って笑った浅井先輩。褒め…られた?

確かに結婚すら想像できない私が子供を養うだなんて。彼らはきっと、とても心配してくれていたんだ



『…大丈夫です、なんとかなります。いや、なんとかしてみせます』

「私たちだけではない、兄者含め会社の皆がお前の味方だ」

『心強すぎますね』

「それだけではありません、なんなら今から役所に婚姻届を…!」

「ナキっ!!竹千代が箱を返して中身が…!」

『あ、片倉くん。竹千代くんが…って、まさか食器っ!!?』

「「…………」」

『あ、部長!先輩!明日はちゃんと出勤します。それじゃっ…ちゃんと子供たち見ててって言ったじゃない堅物男子!』

「その呼び方やめろって言っただろっ!!だいたい、竹千代の担当は俺じゃなく宗兵衛で…!」

『あー、言い訳カッコ悪い。大人気ないぞ』

「ぐっ…!」








「い…い、今のは…まさか、ナキの…」

「・・・・・」

「ぶ、部長…?」

「ふ、ふふふ…!あんな若造が恋人ですか、あれではナキさんも弁丸くんも、幸せにはできませんねっ!」

「…………」




…余裕に構えていた部長だが、実物を見るとかなり動揺したらしい





20130224.
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