泣く子も黙る織田貿易


『いわく付でもいいんで広くて格安な物件知りませんか?』

「いきなり酷い条件を突き出してくるな貴様」

『いろいろあるんですよ』



会社にて。いつもと変わらないデスクワークをしながら、浅井先輩と話すのは物件の相談

ついに居候が10人になったのだ。今のマンションでは狭すぎる、しかも元気な子供が1、2、3…



『家賃とか考えると不安ですけどね』

「その前に、いわく付の方を不安に思え!」

「ナキさん、その話でしたらすぐにでも私たちのマイホームを…!」

『部長より幽霊の方が安全だと思いません?』

「・・・・」



我が家の子供たちは幽霊くらい平気だろう…あ、弥三郎くんは無理だ

とにもかくにも。防音とかも考えて物件を選ばなければ




「…………む」

『ん?どうしました、明智部長?』

「社長が来ますね、近いです」

「兄者がっ!!?」

『つか、なんで解るんすか明智部長気持ち悪いです』

「フフフ、社長とナキさんのことなら何でも。しかし…気に入らない気配もしますが」

『気に入らない?』



珍しく顔をしかめた明智部長と、社長の訪問に慌てだす浅井先輩

…まぁ、彼の奥さんは社長の妹さんだからね。しかし部長が拒絶を見せる人と言えば一人しか…




ドカッ!!!



「っ!!!?」

『あ、こんにちは社長…と濃姫さんもご一緒でしたか』

「久しぶりね、ナキ。元気そうでよかったわ」



いきなりドアが蹴り開けられたと思ったら、その向こうに仁王立ちする魔王の姿

その隣にはビシッとスーツを着こなす美人が寄り添う


…我が社の社長と奥方さま



「あ、兄者…いや、社長!何か急用がありましたか!?」

『社長直々に、なんて。何か問題がありました?』

「ナキ…!」

『え、まさかの私っ!!?』



ズカズカと歩いてくる社長を前に、私は必死に自分の失態を探す

いやまさか、この会社を敵に回すようなことはしてないはず。命が惜しい



「…………」

『…と、とりあえず、すみません…私、何かしちゃいましたか?』

「貴様……子が居るそうだな」

『…………へ?』

「…、……を…」

『…………』

「出産祝いをやり損ねたではないかぁぁぁあぁぁっ!!!」

『それっ!!!?』



吼えるように織田社長が叫んだのは、まさかの出産祝いをあげられなかった嘆き!

驚く私の肩を掴んだのは濃姫さん、彼女も顔をしかめていて



「女の子?男の子?ベビーカーや服も買わなきゃいけないじゃない、ハイハイは卒業したの?」

『いや、ベビーカーすら卒業してます』

「ヨチヨチ歩きの記念日も見逃してしまったのっ!!?」

「次はランドセルかっ!!?」




なにこの夫婦

浅井先輩も義兄夫婦の騒ぎように引いていた。身内が引くならよっぽどです


…けど、嬉しいものは嬉しい。一般社員な私のことも気にかけてくれてるなんて



『それにしても、どこで情報が漏れちゃったんですかね』

「卿は我が社の花形…その祝い事となれば、社をあげて行う必要がある。当然だと思うがね」

『あ、副社長』



ランドセルの手配をし始めた社長夫婦を尻目に、さっと肩が誰かに引き寄せられた

見上げるとあらやだ素敵なオジサマ。我が社の松永副社長です



『もしかして副社長が社長にチクったんですか?どこで知ったんです、私の個人情報』

「女性がその口調とはいささか気になるが…卿の口の悪さは今に始まったことではないからな」

『質問に答えてくださいよ。まさか…明智部長経由です?』

「私がナキさんの事を彼に話すわけないでしょう?」

『む?』

「…………」



グイッと背後から私を引っ張り、副社長から引き剥がしたのは明智部長。私たちの間に立つことで、彼の視界から私を外す

…言わずもがな、部長が唯一拒絶する人間が副社長である



「ほぉ…まさか卿が彼女の相手かね。これは酷い冗談だ」

「お話しする筋合いはありません。貴方には関係ありませんから…彼女に近づかないでください」

『ちょ、怖い怖い。ふざけてない部長怖いです』

「怯えているようだが?」

「フフフ、照れですよ」

『浅井先ぱぁぁぁいっ!!!ヘルプですーっ!!!』

「私を巻き込むなっ!!!」

「ナキ!これはどうかしら」



副社長と部長を突き飛ばし、濃姫さんが見せてきたのはランドセルのカタログ

持ってきてたんですか、いや、もらっても困ります



『えー…あー…ら、ランドセルも間に合ってると言うかなんと言うか』

「そう…残念だわ」

「ではナキ、貴様…出産祝いに何が欲しい、申してみよ」

『欲しいもの…』



社長が何でも、と言ってくれた。けど服や布団は間に合ってる

オモチャも部屋がいっぱいになるし……あ






『家が欲しいです』

「少しは遠慮しろっ!!!」

「マンションか?」

「一戸建てならちょうど空き家があったはずよ」

『まじですかっ!!』



織田社長が視線を向ければ、テキパキと物件探しを始めた濃姫さん

いやいや冗談ですってば。出産祝いに一戸建てとか。出産経験してないし



「あら、会社の近くにあるわ。二階建てよ」

「…早速手配しろ」

「はい、上様。じゃあナキ、早ければ明日にでも移るわよ」

『早っ!!!』

「では、帰るか……む」

『社長、まだ何か?』

「次は…引っ越し祝いか」

『丁重にお断りしますっ!!!』





夢のマイホームですか?






20130213.
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