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腹が減っては戦ができぬ。

そのとおりだと思う。
腹がすいていては力が出ないばかりか、農民たちだって手を貸してはくれないだろう。一揆ばかり起こされたのではたまったものではない。


「まずは近いところから、だな」


城内の経理をきちんとしよう。おかしな金の出どころがあったとしたら謀反の可能性だって考えられる。
上手くいったら次に検地をしよう。それから年貢のことも考えなければならない。あまり農民に贅沢を覚えさせると働かなくなるだろうから緩和というものも考え物だが、本来なら働いたら働いただけ評価をしなくてはいけない。とはいえこれもやりすぎると元寇の二の舞になりかねないから考え物だ。

さて、その命を誰に与えるべきか。

もっとも信頼のおけるものが良いが、半兵衛は軍師だ。経理に回すわけにはいかない。
佐吉はまだ若い。もう少し大きくなったら任せてもいいかもしれない。あの子は真面目だからきっちりやってくれるだろう。


「太閤、悩むのか?」


「ん、ああ、紀之介か。少しな」


茶を持ってきてくれたのは小姓の一人である紀之介。
白目と黒目の色が反転しているために気味が悪いと言われることもあるが、聡明で冷静な良い子だ。
この子はなぜか私を太閤と呼ぶ。確かにのちのちはそうなるのかもしれないが、気が早すぎるだろう。まだ力のない私にそのような呼び方をすると、外に敵を作りかねない、と説得したのだが失敗に終わっている。


「人手がな、足りないんだ」


「引き入れればよかろ」


「どこから」


どこからでも、と返されてしまった。
そうそう信頼できる人間がそこらに転がっているわけがないだろう。
まったく偉そうな小姓だが、そこがかわいらしい。なにより主君にすら臆さないのだからこいつは将来は大物になる。


「…なんぞ、あまり見いるな。…我は佐吉のように端麗ではないゆえなァ」


つい見つめていると、紀之介はそれがうっとおしいとでもいうかのように顔をそむけた、


「私の可愛い紀之介を悪く言うなら、怒るぞ?」


引き寄せて頭を撫でれば、彼はますます嫌そうな顔をする。
ここまで嫌悪をあらわにされると、是が非でも懐柔してみたくなる。


「我は可愛くなど、ない」


「紀之介」


少し強めの口調で名を呼び手を伸ばせば、紀之介は身体をこわばらせた。
伸ばした手を彼の頬に充てると、彼は驚いたように私を見た。


「どうした、叩かれるとでも思ったか」


呆れたような困ったような表情に、ますます愛おしく思う。

しかし、そろそろ紀之介をからかうのをやめないと本当に彼の機嫌を損ねそうだ。手を放せば紀之介は息を吐いた。


「…さて、どうしたものか」


紀之介でいい気分転換ができた。しかし悩みが片付いたわけではない。
今もなお私を睨む紀之介のほかにも年頃の小姓はいる。しかし彼らは机に向かう仕事は合わないだろうと思う。根っからの武闘派なのだ。

ならば、紀之介か。
だがしかしこの紀之介、いずれは大谷吉継と名乗り刑部少輔に就く男だ。何より経理向きの才ではない。


「…やはりどこからか引き入れるか」


城下を栄えさせるためにも家臣が必要になる。
紀之介の言うとおりにするのが一番よさそうだ。









まつりごと
(自国の栄えさせるのは民のためか自らの安寧のためか)









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