緊急事態

「…ここだ。」

兄貴の本丸までの道は平らなところが多くて進みやすかった。兄貴は今俺の背中で寝ている。

よかった、起こしてないな。

「兄貴の部屋はどこだ。」

「あぁ。案内する。」

玄関の扉を開けてもらい中へ入った。

「荷物はここに置いてくれ。」

「すまんな、へし切長谷部。」

「いえ俺は全然大丈夫です。」

靴を立ったまま脱ぎ廊下を歩いた。



「おかえりなさ……え、えと、誰ですか…?」

この子は俺に怯えているようだった。

「君の主の弟だよ。」

「あ…ごめんなさい…」

涙目になって俯いてしまった。確か君は五虎退。

「いや、いいんだ。俺こそごめんな。」

山姥切国広の後を追った。兄貴の部屋に入ると山姥切国広が布団を出した。

「よいしょ…っと…」

起こさないようにゆっくりと布団に寝かせる。兄貴が着ているシャツはぐっしょり濡れていた。

「タオル…着替えは…」

俺がタンスの中を漁っている時へし切長谷部は自主的に手伝ってくれた。



「これで一通りは終わったな。」

兄貴の身体を拭き服を取り替え熱もあったから冷たいタオルを額に乗せた。兄貴はぐっすりと寝ている。

「悪ぃ、本当。へし切長谷部まで巻き込んでしまって…」

「そ、そんな!俺は自分がやりたくてやっただけで…!」

手をぶんぶん振りながら弁解していた。

「…ふ、そうか。なんか、変わった。へし切長谷部。」

無意識に微笑んだ。

「は、え、あの…」

へし切長谷部は顔を真っ赤にしている。

「ん…」

「…!」

起きたかと思った。危ねぇ…寝返りを打っただけか。

ホッと一息つくと疲れが押し寄せてきた。

「…主?眠いのでしたら、どうぞ。俺の膝をお使いください。」

膝枕?

「大丈夫だ。兄貴が起きたら…うぉっ?!」

へし切長谷部に引っ張られた。

「すみません、主。で、ですが…少しは休憩してもよろしいのですよ…」

「……。」

見上げれば、まだ頬を紅くしているへし切長谷部が緊張したように俺に話していた。多分何を言っても聞いてくれない。

「…脚痛くなったら降ろしていいから。眠かったらへし切長谷部も寝てくれよ。」

「はい…!」

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