「ねぇ、この機械ってなにするやつなの?」
証明写真を撮ろうと、機械の前で立っていた時だった。
俺の腰くらいしかない背丈で、純粋そうに聞いてきたガキに俺は珍しく心が動いた。
期待に応えなくては、と。
「これはなぁ。写真撮る機械なんだけど、撮った写真が透けて写る優れた機械なんだ」
俺は近年稀に見る、得意顔で言ってやった。
「う、うそ…」
つぶらな瞳が期待に揺れた。
「まじなんだなぁ、それが。ちょっと見とけよ」
そう言って中に入り、カーテンをシャっと閉めた。小銭を素早く機械に飲み込ませ、上半身の服を脱ぎ捨て、冷静に自分とむきあった。
機械が優雅にシャッターを鳴らした。
手早く服を着て、外で待っていた少年が、期待を込めた瞳で見ていた。
「写真出てきたぞ」
そう言うと少年は素早く写真を手に撮った。
「ほ、ほんとだ!お兄さん、裸だよ!凄いね!」
「だろ、だろ?…これは俺たちだけの秘密にしといてくれ。みんなが知るとこのき機械に殺到しちまうからさ」
「うん!お兄さんとぼくだけの秘密だね」
そう言って少年は、キラキラ瞳を一層輝かせ、去って行った。
子供の期待に応えられた達成感に大きくなってルンルン気分で家に帰った。
これが、明日までに提出する学生証の写真であることを思い出したのは、朝起きてからだった。
撮り直したいけど、今日までだしな。それにああいう写真機って地味に高いんだよな。
なんて考えていると面倒になってそのまま提出した。
どうせ事務の人が止めるだろ。
そうなれば撮りに行かなくてはいけない理由ができるし、面倒だからと一蹴できない。逃げ道がなければ動かないところが俺の欠点だが、もう18年も付き合えば慣れる。人間の最大の武器は習慣と信頼だと何かの本で言っていたことだし。
そう思い提出すると、なんと事務の人は俺の半裸写真を一瞥すると、表情も変えず
「はい、わかりました」
と言うだけで特におとがめなしだった。
この学校はクソか、と思いつつもこれから一年あの半裸と付き合うのかと思うともう細かいことは気にならない性格になりそうだ。その代わり、俺のキャンパスライフは終わったなと思った。
学生の証