地獄に堕ちろ





 「俺は、高橋。お前の悩み
 を聞きに来た」



 高橋とのファーストコンタ
 クトは、この一言から始ま
 った。場所は確か、大学構
 内のベンチだった。


 「は?悩み?」

 この時の私は最強に機嫌が
 悪く正直、構ってられなか
 った。しかも、こんな変な
 男。


 「まぁ、いいから。とりあ
 えず座れよ」


 ――私は既に座っている。


 「お前、名前は。名乗られ
 たら名乗り返すのが礼儀だ
 ろうが」


 勝手に名乗っておいて?そ
 んな礼儀あったら、ニュー
 スを読んでいるアナウンサ
 ーににも毎回、その礼儀と
 やらを振りかざさなければ
 ならないだろうが。


 「‥島田」

 正直に言おう。
 面倒から早く解放されたか
 ったのだ。私は、この男が
 飽きてどこかに行くだろう
 とタカをくくった。が、飽
 きるどころか興味深いと言
 わんばかりに、私の隣に丁
 寧に座った。




 「島田。お前は一昨日、地
 獄に突き落とされた。そう
 だな?」

 そもそもコイツは本当に誰
 なんだ?こんな変人、私の
 知り合いにはいない。


 「どうなんだ」


 答えない私に苛立ったのか、
 表情と声色からは何も読み
 とれないが、とりあえず答
 えた。


 「‥まぁ」

 実際、地獄に堕るほどの出
 来事があったのだから、し
 かたない。



 「そうか。やはり堕ちた、
 か。」


 そう言って高橋は、黙り込
 んだ。なんなんだ、一体。
 仕方なく私も黙り込み、一
 昨日の出来事を思い出した。
 あれは本当に最悪だった。
 その一言に尽きる。バイト
 で疲れていたのに、いきな
 り話があるから来て欲しい
 と彼に言われ、仕方なく近
 くのファミレスに行くと、
 知らない女と彼が座ってい
 た。





 「‥島田。お前、どうだっ
 た?」


 高橋の声で我にかえった。


 「なにが?」
 「地獄」




 ‥コイツはもしかして、本
 当に地獄に堕ちたと思って
 いるのか‥?比喩を知らな
 いのか?


 そんなわけないか、と冷静
 でないのは自分だと気づき、
 大きく息を吐き出した。
 落ち着け、私。


 そんな私にお構いなしに、
 高橋は足を組みながら続け
 た。



 「徹夜で考えてみたんだが、
 やっぱり“地獄”を知らな
 い俺にはわからない。お前
 だけ知っているなんて、あ
 りえないだろ?世界は平等、
 だろ?」





 一体全体、どうなっている
 んだろう。そもそも、私の
 名前も知らないクセに、地
 獄に堕ちたことを知ってい
 るのも妙だし、友達かのよ
 うに話し出すこともおかし
 い。いや、百歩譲って今ま
 でのおかしなこの現実を帳
 消しにして、兎に角コイツ、


 獄に堕ちろ









曖昧Honey様提出
《徹夜で考えてみたんだけど》

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