ルークinTOW2 続き
2017/07/12 21:31






「にしてもこの船でかいんだな…」

感嘆の声と共に息を吐き出すルーク。タルタロスも確かに大きな軍艦であったが、乗っていたのは兵ばかりだった。この船に乗る人々はさまざまで、みな戦闘能力に長ける一般人だ。その違いがルークの船内探険を楽しませた。ティアと同じくらいの胸の女が集まって話していたり、とても顔の整った口説き屋がいたり、子供同士で騒がしくしていたり。見ていて飽きない。それに、少しだが旅の仲間も見かけたので他人ばかりでないことに少し安心した。(正しくは世界が違うため他人なのだが、面識があると言うだけでお互いにも難なく話せるからだ。)

「アッシュってどこにいるんだろ」

近くの部屋は一通り覗いた筈だが。ルークはもっと奥の部屋にいるのだろうかとひとり首を傾げる。まだここの自分にも会っていないが、ここのアッシュの方が気になってしょうがない。大切な大切なオリジナルなのだから。

「うーん…アッシュ、アッシュー」

聞いていたならば屑が!とでも飛んで来そうなのだが、そんな様子はない。確かにアッシュはその辺に出歩いたりするタイプではないけれど、どこかにいるとわかっているのでつい探してしまう。

「あ、ルーク…さん。アッシュなら甲板じゃないかな」
「甲板!?」
「いつも甲板いるよ〜。あいつツンデレだからさ、御国の部屋はイヤみたい」
「ありがとうアーチェ!」

御国の部屋とはつまりグランなんたらの国の人の部屋だよな、と思いつつ出口らしきところへダッシュ。これを開けてもまだ船の中だったら驚くと思う。その前に自動ドアで思いきりぶつかりそうになった。

「アッシュっ…う?」

自動ドアが開いて駆けると確かにアッシュはそこにいた。いたのだが、それ以上に船の外に出たにも関わらず青い海は見えずに白いものがちらほらと漂っている。背景は爽やかな水色だ。これではまるでアルビオールで飛んでいるような…。

「…なんだ馬鹿面」

アッシュがあまりにも抜けた顔をしているルークに声をかける。数秒停止したのち、ルークは思わず妙なポーズをとった。

「アッシュ!アッシュだ!この船空飛んでるな!?なんだこれ!」
「うるせぇよ屑が!」
「うわあアッシュだ!相変わらずだけど屑っていうなよ」
「なっ…」

邸内でいつも交わす会話のようだと、つい自分の世界のアッシュと同じ返し方をしたら向こうは不意をつかれたのか口をぱくぱくとさせていた。
きゃっきゃとはしゃぐルークを見て、アッシュはようやく先程落ちてきた馬鹿兄似の人物だと気付き口を閉じる。いつもつっかかっては叱られた仔犬のような態度を取るルークと話していたためにオールドラントのルークの強気具合に驚きあまり絶句していたのだった。

「アーッシュっ」
「っ!?」

ふとアッシュが意識を戻すと、急に抱きつかれた。もちろん兄似の他人に、だ。人と接しない人生を送っていたアッシュはとてもぞわぞわとして、思いきり前に振りかぶって剣を抜いて転げた赤毛に向けた。腰を打ったのか暢気に「いてぇ…」なんて呻いている。

「な、何をしやがる!!」
「ハグ?」
「は…」

そういうことを聞いているんじゃない、とアッシュは怒鳴りたくなった。いや、実際に怒鳴ってみせたが、ルークにはあまり効果はないようだ。

「まぁまぁ硬いこと言うなよ」
「ひっつくな!」
「だって、アッシュがいると思うと嬉しくって」
「だからってベタベタしてんじゃねえよ!はな、せ…!」

立ち上がってもう一度手を回してくるルークの手をアッシュがべしべしと払っていても、ルークの先回りが効いてのちに抱き締められる。先程は軽く抱きついてきただけだったのに比べ今回は離さないとばかりに腕を締め付けてきて、荒々しくもがくもルークを払いきれなかった。なにか圧倒的な力の差を感じる。

「離れろ気持ち悪ぃんだよこンの野郎…!」
「も、もしかして俺の方が経験値が上…」
「メタなんだよ!!」

じたじたと暴れるアッシュを丸め込みながらルークは言った。レベルはどっこいなのだが、身長は変わらずともルークは既に成人していて筋肉量もろもろが増えていた。その事に気付かないルークは力で有利なのをいいことにすっかりアッシュを押さえ込んだ。

「クソっこんな屑に!」
「また屑って言ったな。レプリカの俺が嫌なのは解るけどさ、も少し心開いてくれたっていいじゃん」
「うるせ…、レプリカ?」
「え?」
「……」
「…………え、まじで…」

軽く顔を青くしてルークはアッシュから離れる。アッシュがレプリカと言う単語を知らないと言うことは。

「もしかして俺、お前のレプリカじゃないのか…?」
「…さっきからレプリカレプリカと、なんの話だ」
「えっじゃあ俺とアッシュの関係って!?まさかおにいちゃ…」
「気色悪いことを言うな…」

げんなりとしたアッシュに言われる。今なら抱きついてもなにもされなさそうということよりもこの世界ではアッシュが自分の被検者でないことがルークの心を掴んで離さない。アッシュがお兄ちゃんと言う言葉を遮ったと言うことは、残りは弟か親子か。それとも赤の他人だろうか。赤の他人以外は嬉しいが、聞くのが怖い。

「じゃ、じゃあ弟…」
「…………」
「あ゛ーよかった…」
「俺は肯定してねぇ」
「でも沈黙は肯定だろ?どこのアッシュも一緒だな」
「……チッ」
「眉間寄ってるぜ?」
「うるせぇ!!」

そっと胸を撫で下ろして力を抜くと、思わず顔が緩んだ。そうしてだんだんと嬉しくて表情がゆるくなったルークは相変わらず馬鹿面だと思われていた。

「まあ、よろしく?」
「誰がよろしくされるか」
「えー」

再び調子を取り戻したルークに抱きつかれて、アッシュは思いきり眉をひそめて抵抗する。ルークは還ってから(ルークの感覚的には)優しめになったアッシュといた記憶が新しいため、旅の途中のアッシュに似たここのアッシュが懐かしくてもはや一回りしてかわいく見えて、多少の抵抗なんて猫パンチのようにしか思えず懲りずにいた。しかも弟、つまり自分が兄の立場にいると思うと甘やかさずにはいられなかったのだ。こんなにひねくれているのだって、この世界でもきっと悲しい人生を送って来たのだろうと考えて。

「お前だって、きっと俺がついてるからな」
「いつもうざったいくらいだ!!」
「あー、やっぱり?」

もはや苦笑いが出てくるが、そうでないと自分でないとルークは思っていた。あの髪の長いころですらアッシュの事は悪くだが印象に残っていたのだから、ここにいるらしい髪の切った自分ならアッシュを気にかけていないはずがないと。そう思いながらアッシュをはかいじめにしていると、独特なモーター音の後に自分と全く同じ質をした声が聴こえて、アッシュを懐に入れたまま声の方へ振り返った。


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「あれ!?俺じゃない俺が既にアッシュと!」
「あー、確かに俺だ……」

異世界の自分と会ったと言うのにまるで緊張感の感じられない状況のせいか、お互いにそこまで驚くことはなかった。むしろアッシュが心の中で余りの同じ具合に改めて驚いていたのだが二人のルークは知るよしもない。

「あ、えっと、初めまして?ルークです」
「あぁ、初めまして、でいいのか?俺もルークです」
「ぶふっ、知ってる…!なんか変な感じだな」
「俺もだよ。自己紹介はガイから言われたんだろ?」
「そうそう!とりあえずしとけって」
「だよなぁ」

同じ顔で同じ人物が頷きながら顔を合わせているのを間近で見せられたアッシュはドッペルゲンガーでも見ている気分だった。ただでさえ自分とルークは同じ顔をしていると言われ続けていたのにさらに同じ顔の奴が現れるとは。少しげんなりしていたところ、異世界からのルークの力が緩みそろりと腕から抜けると狙ったかのようにいつものルークが飛び付いてきて、アッシュは不様にも甲板に転がった。上から転んだルークも額を打ったらしく、アッシュをホールドしたまま踞っていた。

「二人とも大丈夫か?」
「いってぇーっ」
「お前のせいだぞ屑!退け!」
「だって、ルークさんはお前に抱きついても何もしなかったじゃん。俺だって…」
「あいつが馬鹿力なだけで俺が大人しくしてた訳じゃねぇ!」
「でっ」

アッシュの上から振り落とされたルークは直接甲板に転がり、仰向けになって止まった。額を赤くしながらも唇を尖らせて不満げな姿はまさに自分と同じだと異世界のルークは思った。

「ほら」
「うぅ…サンキュ」
「どういたしまして」

ルークがルークを引き起こしている間にアッシュは二人の間をすり抜けて船の中へ逃げてしまったが、話相手ができた今二人の対象はお互いになっていた。アッシュは後で追いかけよう、そう言い合って。異世界のルークにとっては一昔の自分を見ているようで、グラニデのルークにとっては何故か少し成長した自分の姿に思えた。


「そうだ、話が合いすぎてて忘れてた。お前年いくつなんだ?」
「ん?俺?17だけど…ルークさんは違うのか?」
「うわぁ…一番やばかった年じゃぬぇーか…。俺は今年二十歳を迎えたばっかだ」
「二十歳…!ガイと一個差じゃねーか!うわぁ…!」
「残念ながら、こっちでもガイは四つ上なんだ。だからガイは25かな…あ、誕生日そろそろだな」
「なんだ…、残念だな。ガイの誕生日っていつだっけ?あんまり覚えてなくってさぁ」
「5月41日、今月だな」
「よ、41日…?5月って31日までだから、つまり6月10日ってことか?」
「31日?」

外で立ち話は流石にと言うことになり船内に入って空いてる席で話していると、二人して首を傾げる事が起きた。あまりにも仲間の話が弾むためつい同じだと思っていた年号が合わずにお互いに疑問を招いたのだ。オールドラントの歴は基本一月58日で構成され、グラニデでは一月30日か31日であった。グラニデの歴で言うと41日は存在せず勤勉なルークは頭を傾げた。逆にオールドラントでは41日はまだ中間辺りであるということしか頭に入っておらず、オールドラントの暦がたまたま58日に設定されていると言うことを知識の少ないルークは知らなかった。もっと言うと、何故オールドラント歴は58日なのか知らなかったため他の歴があるなんて思いもしなかったのである。

「うーん?何でだ?ガイ捕まえて訊こうぜ」
「そうしよう…」
「あ、やっぱジェイドが近いからジェイドにしよう」
「ジェイドに?絶対嫌味言われるじゃん…」
「そうか?」

そんなことないって、と言いながら異世界のルークを引っ張りルークは科学部屋に向かった。ルークは昔から王族として叩き込まれた知識が一般以上にはあったため仮にも部下であるはずのジェイドに知識面で嫌味を言われた事は無かったが、異世界からのルークは勉強をサボり一般常識も知らずそれはもうボロクソに言われた記憶しかないから、そういった知識質問をしに行くことは好んではやらなかった。
どちらにせよ、軽く冗談に思えない冗談を言ったり相手をからかったりするのは変わらないジェイドの変わった趣味だった。

「二人で考えても答えが出ない、と…」
「そうなんだよ!41日て何時だっつーの」
「いや、41日は41日…何時って言われてもなぁ」
「それはつまりそちらのルークの世界の暦がこの世界と違うのでは?私達が現在使用しているのはグレゴリオ暦ですが我が国でも他の暦を使用している時代もありましたからね」
「暦がちがう…そっか、あれだ、一年が長いんだな!」
「恐らくそういうことでしょうね」
「暦……?えっと、つまり?」
「多分日付の決め方が違うってことだと思うけど…」
「えっ、…日付って決めた人がいるのか?」
「大昔の人が数えるために決めたんだぜ」
「へぇ…」

知らなかったと呟く異世界のルークを見て、何故初歩的なことも知らないのだろうかとルークは今度は一人で首を傾げた。同じ王族の筈なのに教育量が違うのだろうか。

「ルーク」
「ん?」
「ああ、いえ、異世界から来た方のルーク」
「なんだ?」
「貴方の世界では暦が違うと言ってましたね。一月何日まであるのですか?」
「えっと、12月までは毎月58日で、13月は60日までだったと思う」
「ふむ…13月ですか。こちらの歴を二倍した感じですね。そういえば、何故暦の話になったのですか」
「ガイの誕生日が何時かって話からだよ。ルークさんが5月41日っていうからさ」
「5月41日ならこちらの歴に換算して大体6月の前半でしょうか。ガイの誕生日もその辺だったと思いますし間違ってはいないと思いますよ」
「ほら!」
「えぇー…なんか想像つかねぇなぁ」

正しい日付はガイに直接聞いてみては、と言われた二人はジェイドを後にしてガイを探しに船内を練り歩いていた。同じ身長同じような服装の二人が歩いているのはギルドメンバー全員に話がわたっていたにも関わらず大層驚かれた。

「なんか、アッシュより似てる双子になったみてぇ」
「そりゃ同じだしな!」
「そうだなぁ」

普段同じ顔のアッシュとつんけんしているのに今は同じ顔でにこにこと上機嫌なルーク達は船員から見て微笑ましい。クレスやロイドが後で特訓しようと誘いに来たり、キールは興味津々に二人を見合わせ、クレアやパニールは小腹を空かせた二人におやつをつくり。ルークの普段の幼さから異世界のルークまでも船員は可愛がった。随分と甘やかされる環境に母親を連想しルークはひとり笑った。


「ガーイっ」
「お、ルーク。こっちも。揃ってどうしたんだ?」
「なあ、ガイの誕生日って何時だ?俺知らなかったなぁと思ってさ…」
「なんだ、祝ってくれるのか?ルークにしちゃ気が利くな」
「うっ、うるせー…そうだけど」

よくいると二人が向かったのは機関室だった。案の定ガイはそこで船の一部であろう金属部が稼動している様を見ていた。異世界のルークはやはり音機関が好きなのかと内心面倒臭くなったが、ルークは慣れているのかとくに言及せずに話しかける。率直に問うと少しルークをからかったものの、あっさり「6月10日だよ。そういえばもうすぐだな」と言った。



20140512 / 0710




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