吸血鬼赤毛
2017/07/13 07:55




※突っ込みどころありますが無視して下さい



とある世界には、人間とは別の生き物がいると信じられていました。子供のころに夢に見て、誰もそれに会うことなく大人になりそして忘れられていきました。それでも、その生き物はいたのでした。金髪の青年はその噂を聞いては笑いました。



「腹へった…」
「自業自得だ」
「自分だけ飲んできやがって!アッシュの馬鹿野郎!」

寝起きの目を擦りながら血の匂いを纏う弟に八つ当たりするルークは、人間の月日で十年ぶりに体を起こした。戦争が起きていてから活動しにくかったため、嫌になって引きこもっていたのだ。久しぶりに見上げる月は満月からかけていた。

「甘い匂い…女の子でしょ?ずりぃの」
「ナタリアだ。お前でも言えばくれるだろう」
「あーナタリアかぁ…ナタリアのも確かに美味しいけど、俺アッシュのが欲しいな」
「言ってろ」
「え、ひどい。俺寝起きだよ?くれてもいいじゃんか」
「後が面倒だからだ!とっとと起きろ」
「へーいへい」

一通り今の情勢や皆の様子を知らせてもらい、流石に寝過ぎたなぁともう一度ルークは思う。戦争をしていた両国は今も緊張状態らしく、ダアトの導師が苦労をしているとかなんとか。今はまだ若い導師が大詠師に舵を握られており、これがまた混乱を起こしていた。もやもやとした世界にルークは顔をしかめ、戦争真っ只中だった前とどちらがましかと比べても答えは出なかった。

「そういえば。なんだっけ、フェンデの賢い男の子、今いくつなんだろう。人間は歳を取るのが早すぎてわかんねぇ」
「…今年27じゃなかったか。俺も直接は会ってないが」
「じゃあもう大きくなったんだろうなぁ…」

頭をかいて眠る前の記憶を掘り出しても、小さくは変わっていたが大きいものは何もかわっていなかった。ぐうと腹がなり、アッシュが何か食うかと声をかけたが、起きたてにこってりした固形物は辛い。やはり、と思いもう一度駄々を捏ねた。

「…やっぱりアッシュの血欲しいんだけど」
「他を当たるんだな」
「今の状態で日の光の下に出たら俺耐えられる気がしない、むしろ絶える気しかしない。無理」
「嫌だ」
「えぇーそこをなんとかぁ!寝てた分働くし悪戯もしないからぁ」
「当たり前だ」
「きびしい……あ、俺のも飲んでいいからさ」
「俺はさっきナタリアのを飲んできたと言っただろう」
「ソウデシタ…」

がくりと項垂れて棺桶に逆戻りする。冷たい棺桶は自分の体温と馴染んで心地が良かった。吸血鬼が血圧で悩むなど面白可笑しいが、今まさに低血圧なルークは動く気力を無くし、また数年眠るのもありかなぁなどと考えていた。が、現実はそう上手くいかなかった。アッシュがルークの襟首を掴み棺桶から引き摺りだし床に叩きつけたのだ。これには普段温厚なルークも、寝起きなだけに頭に来た。

「ってぇな!」
「てめぇが悪い」
「アッシュが血くれないからだろ。他に誰が近くにいるってんだ。ここ数年でよりケチになったんだな、アッシュ」
「なんだと?」
「何度でも言ってやる、アッシュのケチ。ツンデレオカメインコ。トサカ頭」
「いい度胸してんじゃねぇか…」

ゴゴゴゴとアッシュの背後から聞こえてきそうな状態だが、あくまで兄は自分なのだ。そう心の内で繰り返して睨み返すと、時間の無駄だと思ったのかアッシュは盛大に舌打ちし、着けていた手袋をするりと抜いた。

「おい屑。飲んだ後やらないと誓え」
「まじ?やった!誓います誓います。そんな元気ないし。てかそっか、成程」
「何がだ」
「こっちの話。やった、いただきます」
「……っ、後でてめぇも寄越せ」
「わふぁってりゅ」

言うより早くアッシュの首筋に噛みついたルークは溢れ出る甘い甘い王家の血にとろけて、久しぶりと言うこともあり思いきりがっついた。
元々吸血行為には吸われる側に性的快感をもたらす。アッシュはナタリアに吸われた後の連続の快感を嫌ったのだった。現にアッシュはルークの服を強く掴み端から見ても解るほどに震えていた。ルークが舌を這わすと体をより震わし辛そうな声が漏れた。相手がナタリアだった分我慢してきたのが今更ながら祟っていた。

(にしても本当アッシュのは甘いなぁ…やっぱり若いし何より兄弟ってのがあれなのかな)

呆けた頭で思ってもまとまらない。甘ったるい匂いに鼻腔までもがやられどこもかしこも血に夢中だった。だから背をバシバシと叩かれても、しばらくは気がつかなかった。

「は、れ?何アッシュ」
「おま、ふざけんな…てめぇの寄越しやがれ」
「ああそっか……アッシュ大丈夫?」
「変な触り方したら殺す」
「うわぁ勘弁、どーぞ」
「くそったれが…」

歯を抜くとアッシュの傷口は塞がって、代わりに顔の赤いアッシュの出来上がり。大分ムラムラしているみたいだが、アッシュの理性は簡単には飛びはしない。さらけ出した首筋に今度はアッシュが噛みついて、その微かな痛みにルークは体を強張らせた。吸血される側はいつまで経っても慣れない。血を抜かれている感覚、それをしているのがアッシュだということ、また勢いからわかるアッシュががっついていると言うことがルークの体に快感をもたらした。

「っ…は、ん…」

熱が集まってくる感覚に自然と体が震え、手の行き場所を探してアッシュの服にすがり付く。それに気付いたアッシュに抱き締め返されて温かさに思わず笑みがこぼれた。吸血鬼のくせに温かいなんて。くすくすと笑っていると飲みづらいと拳骨をくらい、仕方なく大人しくしているとしばらくしてアッシュが歯を抜いた。血の足りていなかった状態が長かったルークの体は血の抜けた口をいつまでも開けていた。むずがゆさが残り引っ掻くと血が爪を染める。

「…フン。まあまあだな」
「アッシュのは寝起きには最高だったよ」
「黙れ…干からびそうな奴の血を飲まされる身にもなれ」
「はぁーい」

だんだんと意識がはっきりとし、いくらか元気になったルークはにこにこと笑い羽根を広げた。久しぶりに広げるとパキパキと骨の鳴る音がして痛みが走ったが、それも僅かなものだった。やっと本調子か、と呟くアッシュに笑顔で返して頬にひとつキスをした。

「…おい、半分手伝え」
「えー、早速書類とにらめっこかよ」
「我儘言うな」

投げられたペンを渋々と受け取り束ねられた書類に目を通す。あちらの世界から人間を連れてくる行為に対しての会議で執筆されたものだった。他の束を取っても、大体は人間との間の話が多かった。やれ子供が迷い込んだら、恋慕を抱いたら、ターゲット以外に見つかったら、などなど。何年かに一度は取り決め直されるのであった。それもこれも自分達吸血鬼には吸血したものを吸血鬼にしてしまうというこれまた厄介な特性があるからであり、人間側はなんの苦労もしていないのだろうと思うと人間のお偉い人達の仕事はさぞ少ないのだろうとルークは思った。



「うあーだるい…腕が…」
「この程度でへばってんじゃねーよ」
「だって!10年ぶり!なまったっておかしくねぇよ俺の筋肉…」
「そんなんだからはったりだと言われるんだろう」
「うぐぐ…」

ガリガリと多少粘ってはみたものの、ペン先が筆圧から割れていき、ついに大量のインクを紙の上にこぼした。べっとりと黒くなった紙に嫌気がさして、ペンを放り投げる。アッシュに怒鳴られるのも無視して先程開いた羽をさら広げ、飛べる事を確認してアッシュに捨て台詞を残して暗闇の空へ体を向けた。アッシュが怒り殴りにくる前に窓から上空に逃げ、残っている書類を置いて出れない彼にあっかんべぇをした。相当の青筋が浮かんでいたから帰ったらさぞおっかなく叱られることだろう、想像して思わず身震いをした。


***

「アッシュってばマジで鬼畜ー、しばらく帰りたくねえ……」

ふらふらとさ迷うように飛び回るルークはとても不自然だったが、ファブレの坊っちゃんの放浪は仲間達には見慣れた光景だったため、やっと起きたのか、程度の声かけしかなかった。ナタリア並みに口煩いセシルを見かけた時は思わず旋回したが。
暇でどこかへ行こうと思ったが、生憎太陽が顔を出してきてまだ血の足りない身体がチリチリと焼けたため一旦止め、日が沈むまで待ち動物を殺して血を啜った。いくらうようよ人間がいるとしても噂立つと父上とアッシュからのきつい仕置きが待っていると何年もの経験からわかっていた。

「動物って肉はそこそこ旨いのに血はこんななんだ……」

普段主食にするには憚られる味に眉をひそめつつ血の気が戻ってきたことを確認して日向で羽根を仕舞い地面に足をつく。



セシルはセシル将軍の方です。ガイではありません
20140728




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