ジェイアシュ
2017/01/23 14:04





夕方、ケセドニアにやっと到着し各自解散となった後ジェイドは珍しく外に出ていた。久しぶりに飲みにいこうかと迷いとりあえず外に出ることにしたのだ。買い物をするでもなく、狭い路地にあるバーに向かおうとしていた。くるりと知り合いがいないことを確認するために視界を回すと、途中で人混みの中に真っ赤な赤をみつけた。ルークの明るい赤でなく、染み込んだ血のような赤を。

「珍しいこともあるものですねぇ…」

相変わらず眉を寄せている顔は変わらず、触らぬ蛇に祟りなしと気にしないことにしようとしたが、ちらりと見えた法衣が血に汚れていた。しかも見直せば顔色が悪い。なにかあればあの我儘な王女や子供が騒ぐのは目に見えていたので、確認のため声をかけようと爪先の方向を変えた。近付くにつれ、アッシュが怪我をしているのはあからさまだった。アッシュはしばらくジェイドに気がつかなかったが、後少しというところで目線を上げ、そこで目が合った。そして、思いきり顔をしかめて今まで来ていた反対方向を向かれた。

「やれやれ」

人が多く走ろうとはしないのをいいことにこちらは少し早足で迫る。幸いこちらを振り返らないため、大人気なく身長差を利用し大股でも歩いた。そしてもう一人の赤毛にするように後ろから首根っこを掴み上げた。首を引かれたアッシュはぐえと唸り離せともがいた。

「はいはい、帰りましょうねー」
「ふざけるな!離、せ!」
「それは聞けないお願いです」
「クソッ…切る!」
「この人混みで剣を抜くのですか?六神将は民衆にも御慈悲を与える気はない、と…」
「…うるせェ…」
「これはこれは。失礼いたしました」

おどけて見せると思いきり舌打ちをされた。それを表面上の笑顔で流して首を捕まえたまま宿へと向かう。急に後ろに引っ張られてじたばたとアッシュは暴れたが、周りに迷惑がかかることや自分が無様に転ぶのが嫌だったのかしばらくすると自然と大人しくなった。彼は強いのだから傷の痛みに動けなくなったと考えるのは止した。

「はい、到着です」
「いい加減離しやがれ……」
「ああすみません」

宿のカウンターまで引き摺ってようやく手を離すとアッシュは喉を擦りひとつ唸った。そしてこちらを向くと思いきり睨んで不満を撒き散らした。

「誰が休むと言った。ああ?」
「放っておくとどこかのお姫様や雛頭の子供から苦情が来ますからね、仕方なかったんです」
「巧く回る口だな」
「光栄です」
「誉めてねぇよ!!」

両手を広げてやれやれとポーズを取るとまたも盛大に舌打ちされる。だが引き摺られたのが精神的にダメージが強かったらしく、直ぐ様逃げ出そうと言う気も感じられなかった。

「部屋で詳しく見ます。同行してくれますよね?」
「……」

何も答えそうにないアッシュは強制的に部屋まで連行することにして預けていたキーを受けとる。こちらです、と仰ぐと渋った様子もなくかなり後ろからついてきた。先程のが余程堪えたらしい。腹に軽く添えられた手には気づかないふりをした。

「どうぞ」
「気色悪いことしてんじゃねえよ…」
「まあそう仰らず」
「……」

ドアを開けてアッシュを先に促すと気色悪いと言われた。実は昔「ルーク様」にも同じことをしたことがあったのだが、全く同じ反応に少し笑ってしまった。アッシュは尚更不満そうにかつかつ部屋に入ってベッドに座る。足まで組んでまさにツンデレな女王のようだ。
ドアを閉めてから救急箱とアイテム袋を取り出して先にアッシュが座ったベッドへと向かう。

「とりあえずは傷の手当てですかね」
「ふざけろ。やれるもんならやってみろ」
「貴方がそんな状態で私達の周り役を出来るとは思いません。観念なさい」
「誰が。部屋まで来れば満足だろう?出る」
「……はぁ」
「やる気か?」
「やむを得ませんからね」

立ち上がってドアへ向かう赤毛の腕をつかんで思いきり引く。座ったままのジェイドに引かれてつんのめったものの床を踏み直して振り払う。流石に座ったままで手が届かなくなったジェイドは立ち上がり、行く手を塞いで腹から抱え込むようにする。傷口がひきつったせいか一度動きを止めたアッシュをそのままベッドの上に倒した。下から舌打ちが飛んできて暴れるものだから軽く怪我のある腹に手で力をかけると、うめき声が聞こえてから動きがやんだ。

「くそサディスト…」
「貴方が大人しくしていないからですよ」
「知るか」
「大人しくしていてくださいね〜」

脱がすのも面倒な法衣を捲り、ベルトを外そうとすると観念したのか自分を上から退かし法衣を脱いだ。ベルトも外して前をはだけさせ、下の黒いシャツを捲った。そこにはどす黒く血が染み込んだ包帯があった。長い間包帯を換えてない証拠だ。

「不清潔ですね」
「替わりがなかっただけだ」
「そうですか」

シュルシュルと包帯を解き開いたであろう傷口を見る。研がれた剣で斬られた傷口は治っていない箇所がぱっくりと開き鮮やかな血を溢れさせている。こんな傷でも開くまで顔に出さない精神力は、若いのに素晴らしいと誉められるくらいだった。ふと表情を伺うと少し顔色が悪いくらいで普段とかわりない不機嫌そうな顔だ。

「新しい物を巻きます」
「勝手にしろ」
「その前に回りを拭いてもいいですか」
「……」
「不清潔のまま巻き直すと傷口が化膿します」
「…フン」

ツンと顔を反らして苛ついている姿は本当に我儘な女王のようで。普段と変わらなすぎる態度に思わず苦笑する。 宿のハンドタオルをお湯に浸して温め、露出された腹回りを傷口に触れぬよう拭いた。それでも手触りのよいタオルの繊維は細かく、時折体を強張らせては顔を反らした。痛いなら痛いと言ってしまえばいいのにと同位体の片割れを思い出して思う。自尊心の強い彼には有り得ないことか、とも簡単に思ったが。
拭き終わったタオルが少し血を滲ませているのは無視して、新しい包帯をほどく。ずっとアッシュは言葉を発しなかった。ガーゼを傷口に当てて、上から取れないように巻く。胴を一周したら軽く引っ張り包帯を締めた。巻いては引っ張り、を数回繰り返し脇で端を結ぶ。固結びをして患部が確実に白く覆われた事を確認し、ようやく赤毛を解放する。もう一度顔を見ると思い詰めたような顔がそこにあった。

「どうかしましたか」
「どうもしねぇよ」
「痛みましたか?」
「いや」
「そうですか…」

振り切るように頭を振るものだからこの子はこの子で分かりやすいなとも思い、それは顔に出さなかった。今出したら得意の罵倒が飛んできそうだ。



20140110
この二人が絡むとすごくダウナーだと思う



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