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夕暮れ。
アスファルトに長い影を作り並んで歩く美柑と柑葉。
植木達と別れてからというものの、頻りにだんまりを決め込む柑葉に声をかけられず美柑はその横顔を見つめては俯きため息を繰り返す。
かつて柑葉とこんなにギクシャクした事がなかった為彼女はどう対応してイイのかわからなかった。
でも、普通…良識のある人間がここでとるべき行動は一つしかない訳で…。





「ごめんなさい。」



ふと足を止めて頭をさげた。
それは柑葉が美柑に敬意を示す時の様に。
いつもと反対の立場にある現在の自分達に今度は柑葉がため息を吐き初めてその目を美柑へと向けた。



「お嬢様、僕がなんで怒っているかわかっていますか?」
「えっと…。言い付け守らなかったから?」
「それもありますが…心配したんですよ。僕は貴方の安全が第一なんです。やはり……貴方をこのバトルに巻き込んだのは間違えだったかもしれない…。」



柑葉の言葉に美柑は強く拳を握り下唇を噛み締める。
そんな事言わないで…
ふと、美柑の口がそう動いたように見え柑葉は目を凝らした。



「柑葉くん…。私、さっきね…針を忘れたのに気付いた時、気が動転しちゃって、避けられたはずの攻撃を見送って…結果、庇ってもらって桜くんに怪我負わせちゃって…泣いて…実感した。私…凄く弱い。」
「そ、そんな事……美柑さんは少し実戦不足だから予期せぬ事態に対応しきれなかっただけであって……、」
「柑葉くんは優しいね。私の肩をもってくれるなんて…でも、実戦ではそれが命取りになる…小林先生の言う通り私の考えは甘かったのかもしれない…。」
「美柑……さん。」
「私…強くなりたい…、もっと……精神的にも、身体的にも……。優勝して…手に入れたいの………"空白の才"を…。」



だから…バトルに参加させた事を間違えだなんて…言わないで。
口に出さなくとも俯いていた顔を上げた彼女の瞳がそう訴えていて…柑葉は良心の呵責に耐え切れず目を伏せた。



ああ…キミは今も昔も変わらずただひたすらに過去の記憶を追い求めている。
僕の事なんて…今なんて全く見えていなくって…彼女の目に映るのは過去…過去…過去…過去。今も昔も。
そんなもの…今が楽しければもうイイだろう…?
僕はキミに笑っていて欲しい…ただそれだけなのに…キミがひたむきになればなる程胸が締め付けられる…。

柑葉の心はどうしようもない罪悪感で満たされそれ以上何も言うことは出来なかった。





「おや、美柑さんに柑葉くんじゃないですか。」



妙な空気が漂う中、どこからともなく響いた和やかな声はそれを断ち切り美柑は勿論柑葉の表情も僅かに晴れた。



「あ、ワンコさーん!」
「…なんだ犬丸か。」
「ワンコさん、さっきはありがとうございました。」
「さっきは…?」
「「(ギクッ)」」



柑葉の訝るような視線に美柑は墓穴を掘ってしまったと慌てて別の話題に持ち込もうと頭をフル回転させる。



「そういえばワンコさんがエントリーさせる中学生ってもう決まってるんですか?」
「え、ええ…まぁ…。」
「気になるなーどんな人?」
「僕が担当している中学生は"佐野清一郎"。美柑さんより2つ年上で…」
「犬丸。」



さりげなく話をすり替える事に成功したかのように見えたが、美柑の胸中を容易に悟った柑葉が待ったをかける。
根掘り葉掘りと聞き出された挙句、角を立てた無機質な目で責め続けられる未来が見えてしまった美柑は「いっけない、見たい番組あるんだった!そ、それじゃっ!」と適当な理由を残し光の速さで逃げるようにこの場を去った。
取り残された二人のうち一方はぽかんと立ち尽くし、もう一方は呆れた様につぶやいた。


「まったく…キミだな…彼女を外へ連れ出したのは。」
「あ…すまないね。まずかったかい?」
「まぁ、彼女に怪我がなかったからよしとしよう。」



彼自身、気付いているのかいないのかは別として、柑葉は実の所犬丸には甘い。
その温厚な性格の為か、はたまた同じ友人である小林と比べると遥かに常識人である為か長い付き合いではあるが犬丸に怒鳴り散らした事は過去に一度もないだろう。
犬丸も犬丸で、小生意気な面もちらほらと見せる柑葉だが年下ながらもそのしっかりした意思、自分にはない積極的で自信に満ちた行動や言動は高く評価しており彼もまた柑葉の事を慕っている。



「それと、キミが担当している"佐野清一郎"だったか?」
「ええ。」
「以前少し見させてもらったがハッキリ言って彼女にコンタクトさせないでほしい。」
「また突然…どうして?何か悪い予感でも…。」
「いや…あくまで僕の推測だが……彼女、きっと彼の事を気に入ると思う。」
「気に入るって…佐野くんが美柑さんの好みのタイプだとでも言うのかい?」
「そうは言ってない…。」




とは言ったものの、きっと彼女は佐野とやらと接触してしまうのであろう。
それも、余り好ましくない状況で。
最近やたらと的中する自分の悪い予感に柑葉はただただ辟易するしかなかった。










な り ま す
(ここに誓う。私は必ず強くなる!)










13話 end...
大した伏線も無い癖にチンタラ進むこの連載…。


 


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