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「よし。止まったか?」
「(ど……どーなっとんじゃこりゃあ!!?)」



黒岩の車が迫る中、突如植木の拳から放たれた閃光。
そのあまりの眩さに目を瞑ると数秒後次に目を開いた時には、地面から天に向かって伸びた大樹が黒岩の車を貫いていた。
運転席にいた黒岩も、その木の枝でケガを負っているようで車内に血が飛び散っているのが遠目からでも見えた。
目の前で起こった信じがたい光景に、桜はただただ驚きその大樹と植木の後ろ姿を呆然と眺めている事しか出来なかった。










く な る 理 由





「あ…たしか能力(ちから)で他人を傷つけたら……なんだっけ。」
「才がひとつ消えちゃうのよ!!!」



黒岩の車を見上げ、能力者のルールを思い出し顎に手を当てて考える素振りをしている植木の側頭部にツッコミと言う名の拳を放ったのは森。



「あいてて…。」
「あ、美柑。」
「美柑ちゃん!大丈夫?」



その後もお決まりのコントのようなやり取りを続ける植木と森だったが、桜に投げ飛ばされ先程まで姿が見えなかった美柑を見た途端パタンと言い争いを止め心配そうな顔で駆け寄る。
「へーきへーき、無傷だよ。」と笑う美柑を見てホッと胸をなでおろした二人は再度黒岩の車に目を向けた。



「い……一体…何が…起こっ…、」
「黒岩さ…」
「大丈夫か?」
「うわぁー!!!」
「?……痛!?」



本当にただ親切心で黒岩に近付いた植木だが黒岩の部下達は自分達も白衣を赤く染めるこの大将と同じ目にあわされると思ったのか、運転席の扉が開き車から落ちた大将、黒岩を担ぐと一目散に逃げて行った。
そんな気など知るはずもない植木はただ疑問符を浮かべていると突然後頭部に衝撃が走った。
振り返ると自分の足元には大きな石。
そして少し先に目をやると森の姿…その両手にも石。
瞬間森がその石を投げつけてきたのだと悟る。



「この…バカ植木!!!能力使うなって言ったろ!!!」
「いや、だってゴミ投げたの森じゃん。」
「ああしなきゃアンタらひかれてたでしょ!!」
「…じゃあ、しょうがないじゃん。」
「しょうがなくても使っちゃダメなの!!!」
「言ってることメチャクチャだぞ、それ。」




植木耕助……誰かのために強く……か。




森に飛び蹴りを食らう植木の姿を少し離れた所から見ていた桜。
するとちょんちょんと、シャツが引っ張られる感覚がしそちらに目をやると遠慮がちにシャツの裾を掴み顔をのぞき込む美柑の姿が見えた。
圧倒的な身長差のせいで自然と上目遣いになる美柑に桜は不覚にも少し胸を高鳴らせるもそれを悟られない様ぶっきらぼうに振舞う。



「なんじゃ、ワレっ。」
「桜くんちょっと耳貸して、」



ニコニコと朗らかに笑う美柑の要求に桜はめんどくさく思うもどこか逆らう気にはなれなくて渋々腰を落とす。
すると、耳のすぐ側に美柑が顔を寄せてきた。
僅かに感じる吐息に内心どぎまぎする桜の耳に鈴のような声が直に響いた。



「さっき、庇ってくれてありがとう。私も…今度は守られないよう強くなるから。」



−ちゅっ



「あぁあぁっ!!!美柑ちゃん!!?」
「………。」
「ワ、ワレ…な、ななななな、何して……」
「?お礼だよ。」



軽いリップ音、頬の柔らかい感触。
何をされたかなどそれだけで容易に検討が付いた桜は染められた頬に手を添えて、金魚のように口をパクパクしている。
その瞬間を見ていた植木と森。
森は桜同様に頬を赤らめ信じられないといった顔で美柑を見る。
植木も一瞬驚いた表情を見せた後、眉間に皺を寄せつまらそうな顔になる。



「やれやれ…お嬢様。挨拶などと言って誰彼構わずハグやキスをするのはやめて下さいと言ったじゃないですか…。」



その言葉と共に姿を表した青年。
白と黒の髪を揺らし、臙脂色の瞳でこちらを見つめるその見知り過ぎた顔に美柑は表情を明るくしその名を呼んだ。



「あ、柑葉くん!なんで?だってドイツでは皆普通にしてたよ?」
「ここは日本ですから…ドイツの風習は通じませんよ。」
「ちぇー、日本って難しいねー。」
「ところでお嬢様。どうやって部屋を出たのか…その件は後でゆっくりと……。」
「(ひ、ひぇええーっ!)」



柑葉の言いつけを破って出てきた事などすっかり忘れていた美柑。
寒気がするほど清々しい柑葉の笑みに、初めて彼に対し恐怖を覚えた。
はたから見ると仲睦まじげに話しているように見えそれに気に良くしなかったのか植木は二人の間に割って入り鋭い目で柑葉を睨んだ。



「アンタ……誰?」
「……すまない、申し遅れたな植木耕助クン。僕は柑葉…彼女の使用人だ。」
「美柑ちゃんの使用人!?」
「植木クン…、」



驚く森をよそに柑葉は小さく頷くと、植木に目を向ける。
ワイン色の瞳でこちらを見据え、自分の名を呼ぶその声は機械のように無機質なもので妙に重圧を感じる。



「君の話は美柑お嬢様からよく聞いている。イイ…友達だってね。それと森さんも。」
「……!(いつの間に。)」
「ど、どうも……。」



突然の背後からの声に植木は勢い良く振り返ると先程まで数メートル手前にいたはずの柑葉の姿があった。
まったく目が追いつかなかった…身体に伝う汗がやけに不快に感じられる。
柑葉が放つ異様な空気は植木だけでなく森にも戦慄を走らせた。



「(なんなの、この男…なんかヤバイ…。)あ!と、とりあえず、植木と桜を病院に連れて行かないと。」
「あ…、あいちゃん!わ、私も……、」



歩き出す森の後を付いていこうと足を踏み出す美柑だが、反対に引っ張られる力に邪魔され身体が前に進まない…。
振り返るとあの身の毛もよだつ笑顔をこちらに向ける柑葉が自分のシャツの後ろ襟を掴んでいるのが見えた。
美柑にとってその光景はもはや一種のホラーだ。



「お嬢様、僕達はもう帰りましょうか。」
「えっ?ええー、やだやだ、私も耕助くん達と…。」
「それではまた。森さん。植木クン」



柑葉は、やだやだと駄駄を捏ねる美柑を横抱きにし、植木達に会釈すると軽い身のこなしで家々の屋根を飛び移り姿を消した。










12話 end...
嫉妬大魔王植木。←


 


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