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「しまった。まさかこの辺一帯大掃除の後だったとは…ゴミがなきゃ植木も能力使えないじゃん。」



バサバサと音を立てるその懸垂幕に小林は然知ったりと額に手を当てた。





―――……





「しまった。やられた…。」



同時刻。美柑自室。
何度呼びかけても返事がなく心配になった柑葉。
意を決し中へ踏み込むと、もぬけの殻になった主の部屋を見て呆然と立ち尽くした。
窓から吹き込む風が部屋のカーテンと柑葉の髪を虚しく揺らす。



「ここから…一体どうやって…。…いや、そんな事より。…無事でいてくれ、美柑…。」



柑葉のその願いは届かず、今まさに美柑にも危機が降り掛かろうとしていた。










殴 ら な い と 逃 げ な い





「あははははは!犬のフンで僕の車を汚すゴリラがいたかと思えば…今度はいきなり殴りかかってくるサル野郎か!」



蔑むような、下品極まりない笑い声が辺りに響く。
地に伏せた桜と植木を嘲笑う黒岩の完全に人を見下した物言いに、比較的沸点が高い美柑の怒りも爆発寸前だった。



「いいかい?この世は全て金しだいなんだ!金を持っている僕はお前ら庶民より常に偉いんだよ!!…死んじゃえお前ら。」
「貴方…間違ってる…。そんなのおかしい!!」
「なんだ小娘。お前もそのサル共と同じザマにされたいのか…?」
「やれるものなら…。」



自分に楯突く者が許せない黒岩は美柑に近付くとその手にある血のついたゴルフクラブを振り上げた。
日の光を浴び鈍く輝くそれが美柑に向かって降り下ろされる…。
減才も能力者であることがバレるのも怖くない…皆が守れるなら…そう思い太腿に手をやる美柑だが何かに気がつきハッとする。
ない…。いつも足に備えてるはずの…。



「(うそ!"ホルダー"忘れた…!!)」

「何をボーっと突っ立っとんじゃ!」



不注意だった。
急いでいた為か、自分の能力(ちから)の要である"針"を入れたホルダーを忘れてくるなんて…。
動揺した美柑は、その場で固まってしまう。
桜の声で意識を確かにするが、もう遅い。
黒岩のゴルフクラブがそこまで迫ってきていた。
来るべき衝撃に耐えようとギュッと目を閉じる美柑…しかし、"ボキッ"と、痛々しい音が聞こえたものの、痛みがないことを不思議に思い目を開くと自分を庇いゴルフクラブでモロに脚を打たれた桜の後ろ姿が見えた。



「ぐぉっ!」
「さ、…桜くんっ!」
「優しいねーデカブツくん。女の子を庇ってあげるなんて。でもお姫様を助ける野獣なんて…笑っちゃうよね。あはははは!」



高らかに笑う黒岩をよそに、美柑は急いで桜に駆け寄る。
人一倍責任感の強い美柑は自分のせいで桜に傷を負わせてしまった事を悔やみその瞳に涙を溜めて謝る。



「ご、ごめん…私のせいで…、私を庇って…ごめん…ごめんなさい…。」
「もうエエからワレだけでもさっさと逃げんかい。」
「出来ない…。」
「あ゙ぁ!?」
「それだけは…出来、ない…です。」
「………。」



女のくせに…泣きそうになってるくせに…震えてるくせに…瞳には強い意志を持っていて…何を言っても聞かないだろうと悟った桜はそれ以上は何も言わなかった。
一方、二人がそんな事をしている間にも、また植木が黒岩に油を注いでしまったようで…。





「じゃあ、もういいよ…仲良く3人纏めて…殺っちゃおう。」





その一言で黒岩の部下達が、植木等3人を身動きできないように鎖で縛り上げた。
それを確認すると黒岩は一人で車に乗り込み100メートル近くバックし助走を取る。
唸るようなエンジン音に桜は小さく舌打ちを漏らした。



「黒岩の奴…マジでどうかしとるわ!どんだけ助走つけんじゃ!」
「……このままひかれたら…、」
「桜くんのシャツに私達が…」
「"ぺったんこ"」
「だね!」
「なるか!!」



変なところで息が揃う二人にツッコむ桜。
黒岩の方も突っ込む準備が出来たようでシフトレバーを切り替えると、今までの怒りを込めるかのように力いっぱいアクセルを踏み締めた。



「あははは。じゃあね!」



勢い良く走り出す車…もう時間がない。
しかし、この身動きが取れない状態ではどうしようもない…。
絶対絶命…そんな境地に立たされ、桜は昔師範と交わした約束が脳裏に浮かんだ。



1年程前桜は、名誉欲しさに自分を狙った2人組の男たちに不意をつかれ襲われた。
その時助けてくれたのが、普段ひと度言葉を交わせば喧嘩になっていた道場の師範で、彼は桜にこう説いた。


『自分のためではない…強くなりたいのなら……誰かのために…だ。桜。』


当時は勿論、1年経った今だに誰の為に強くなればいいのかわからない桜の頭には煩わしいくらい何度もその言葉が過ぎる。



「くだらねえ言葉残して逝きやがって…!今さら後にひけるかいボケ!!」



桜はそう叫ぶと気迫で鎖を引きちぎった。
ブチッと悲鳴をあげバラバラにされたそれが地に落ち自由の身になった3人。
しかし、脚を折られ逃げる事が出来ない桜は美柑の服を掴み、車が入り込めない小路に投げ飛ばした。



「きゃっ!耕助くん!桜くん!」
「なにしとんじゃボケェ!!ワレもさっさと逃げんかい!」



元々は無関係の二人を巻き込むわけにはいかない…桜は植木にそう呼びかけるも返ってきた返事はあまりに予想外なものだった。



「止める。」



桜は一瞬耳を疑った。
庇うように目の前に立つ植木の背中は、自分と比べると遥かに小さく華奢なもの。
なのに、止める…?素手で?そんな事無謀すぎる。
止まるはずがない…誰だって分かることなのにコイツは…。


『誰かのために…だ。』


その時、一際大きく木霊した師範の言葉。
崩れていたパズルが一気に繋がるような感覚に、桜の心臓はドクンと大きく波打った。



「植木!!」
「お、森?」
「コレ見つけんの大変だったんだからね…!世話やかせんなバカ!!」



植木は名前を呼ばれそちらに目を向けると、小路から息を切らした森の姿が見えた。
彼女が、こちらに何かを投げつけたの見て反射的にそれを右手で受け取る。



「サンキュー。」



植木が受け取ったのは、森が必死に探し回って見つけた使い捨てライター。
ゴミと認識されたそれが握られた植木の右手からは光が溢れ、一瞬でそこから伸びた大樹が黒岩の車を貫き天に向かって伸びた。





「植木耕助…最終確認テスト…合格だ。」










11話 end...
(リメイク前が見つからないので当分新しく1から書き直します。柑葉くんのイメージブログにup済み。興味ある方は..。)


 


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