手がかりは欠片

 


貴方を失うと思うと


苦しくて、胸が張り裂けそう


だからもう


無茶しないで






++++++





梅小路病院に運ばれた平次はまだ目を覚まさない


命に別状はないとは言われたけど、まだ目を覚まさない平次に不安で不安でしかたない


幸い、私はお腹に痛みはあるものの内臓に異状はなく、痣ができただけだった


足の傷も大したことなくて、切り傷ができただけだ


とは言っても痣をみれば、なんとも痛そうで自分でも思わず顔を歪めてしまう程


足の傷も歩くとずきずきと痛む


私も部屋で寝てないといけないって言われてるけど、目を覚まさない平次が心配で抜け出してきた





「・・・早よ目ェ覚ましてや」





話しかけても、何も返事をしてくれなくて寂しくなる


゙せっかく抜け出してきたのに゙と思いながら、私は平次のベッドの脇に頭を伏せると、目を閉じた


いろんなことがありすぎて少し疲れたようで、私の意識はどんどん沈んでいった





++++++





「・・・うっ」


「あ、平次、気ぃついた?」





目を覚ました平次が辺りを見回すと、そこには見知った顔が揃っていた


一番最初に気がついた和葉の声に、蘭と大滝もほっと息をついて平次に声をかける





「良かった・・・」


「心配したでぇ、平ちゃん!」





平次が目を覚ましたことに皆が安心し息をつく


意識がはっきりとしてきた平次は起き上がろうと体に力をいれるが左手にが動かなくて、視線を向け驚いた





「悠・・・?」





ベッドの左脇に平次の手を握り締めながら顔を伏せる悠の姿に平次は目を丸めた


何でここで寝ているのか、何で手を握っているのか


・・・若干顔を赤くして照れている様子の平次にコナンは苦笑いを浮かべる





「悠ね、何を言っても服部くんの傍を離れなかったんだよ」





蘭はにこりと笑みを浮かべると、平次の手を握り締める悠に視線を向けた





「こいつが・・・?」


「そうやで!!悠やって怪我してて、部屋で寝てないとあかんのに抜け出して来てるんやで」





゙看護婦さんも困ってたわ゙とため息を吐く和葉の声が大きかったせいか悠が小さくうめき声をあげ目を覚ました


寝起きのぼーっとした目でゆっくりと平次の方を見る





「よ、よう」


「・・・・ドアホ」


「はあ!?」





目を覚ました平次に向かって発した第一声に何故その言葉を言うのかと蘭や和葉を始め、平次本人も驚いていた


コナンに至っては呆れた顔をしている





「お前、もっと他に言うことないんかい!!」


「・・こんな怪我して、人様に迷惑かけて、何を偉そうなこと言うとんねん!!」


「おまっ、ホンマ可愛くないやっちゃなぁ」


「可愛くなくて結構!!」





病室に響き渡る大きな声で言い合う二人の元気そうな姿に蘭や和葉は嬉しそうに微笑んだ





「あの・・・・」





二人の言い合う中、遠慮がちに白鳥警部が話を切り出した





「誰や、あんた」


「・・・警視庁の白鳥です。殺害された桜正造氏が源氏蛍のメンバーだったと聞いて東京から駆け付けたんです」





白鳥警部がここにいる経緯を話す中、平次が傷のある肩を擦る


それに気が付いたコナンが気遣い声をかけた





「痛むのか?」


「ちょこっとな」


「・・・・・・」





小さな声で話していたコナンと平次の会話を聞いていた悠は心配そうに見つめていた


ああは言っていても悠も平次のことを心配しているのだろう


着々と話が進められる中、看護婦と共に綾小路警部が部屋に入って来た





「警部さん、あの短刀は?」


「鑑定に回させてもらいます」


「結果が出たらすぐに教えてや。証拠が足りひんかったら、この肩の傷も提供すんで」


「え、証拠って?」


「あの短刀が桜さん殺害の凶器やっちゅう証拠や。ほんまは犯人の肌に触れてたもんがあったらええんやけど・・・」


「!?」





平次の言葉に悠は昨晩の事を思い出す


靴下に石を詰めて投げたアレが能面に命中した時に落ちた欠片


犯人の肌に触れていて、完璧に証拠として取り上げることができるはずだ


きっと、誰も気づいていない


あんな状態だった平次はもちろん、犯人だってあんな小さいもの気が付かないだろう


だとしたらまだあの場に残っているはずだ


だけど、平次に言ってしまったらきっと真っ先に現場に行くだろう


自分の怪我なんか気にせず、犯人を逮捕するために


警部達の話を聞きながら、悠は一人何かを決意したように拳を握り締めた





++++++





警部達が帰ると蘭は電話のために病室を出ていく


部屋に残されたのは私と平次と和葉、それから新一だけだ





「平次、反省しとるん?」


「え、ああ・・まあ」


「してないなら、してないって素直にいいや!!」


「なんやねん、お前はさっきから!ピリピリしとるな」


「誰のせいや、誰の!!」





反省なんてするわけないってわかってはいたけど、やっぱりどうしても納得できなかった


怪我したこともだけど、こんなになっても私に何も話してくれないことが納得できなくて、悲しい

確かに私は一般人で、平次みたいに事件解決なんてできないけど、私ってそんなに頼りないのかな


探偵馬鹿の平次の隣にはいれないのかな


それとも、元から私は平次の隣になんかいなかったのかもしれない





「悠姉ちゃん?」





急に黙った私にコナンくんが不思議そうに、首を傾げた


和葉がいるから、コナンくんとして私に話しかけている


平次もどうしたのかと私を見ていて、包帯だらけの平次を見て顔を歪めてしまいそうになる


もう、傷ついてほしくない


無茶してほしくない


私の知らないところで、一人で怪我なんかしてほしくない


私に何も話さないで、秘密にして


だから、今回は私が秘密にしたっていいよね


平次だって秘密にしてるんだから





「ああ〜、もう平次なんか知らんわ。ちょっとは反省しいや!!」


「ちょっと、悠!どこ行くん?」


「平次にかまってられへんから、ちょっと出掛けてくるんよ!和葉も平次にかまってたらあかんよ」


「なんやてぇ!!待たんか、悠!!」





後ろで叫ぶ平次を無視して、私は病室から出た


弱い私だけど、足手まといにならないように頑張りたい


迷惑でもいいから、少しでも役に立つために何かしたい





「あれ、悠どこか行くの?」


「うん、ちょこっと。すぐ戻るから、平次のこと見といてな!!」





そう言って蘭に平次を任せたが、きっと平次は病室を抜け出して調査でもしに行くんじゃないか、なんて思った


平次も新一同様、推理馬鹿だから目の前に事件があったはじっとしてられない


新一が一緒なら尚更だ


私は苦笑いを浮かべながら、目的地へと足をすすめた





++++++





「確か、ここのはずやった気がするんやけどな」





目的地に着いたはいいが、あんな小さな欠片


しかもこんな草の生い茂った場所ではそう簡単には見つかる訳がない


それでも、地面に這いつくばりながら必死に探した





「・・・お!!」





ふと何かが目に止まり、ハンカチを使って掴みとる


近づけてよく見てみると、それは昨日の能面の欠片で思わず笑顔になった





「これや!!はあ〜良かった」





これで事件解決に一歩前進だ


嬉しさに小さくガッツポーズをして、急いで持ち帰るために立ち上がる





「!?あんたは・・・」





誰かの気配を感じて振り向くと、そこには昨日と同じく木刀を持った能面の男がいた


まさか、能面の欠片に気付いて回収しに来たのだろうか


それとも、後を付けられていたのか


どちらにせよ、私がピンチであることに変わりはなかった


私は相手を見据えると、困ったように顔を歪めた





「あんなぁ、私も暇やないんで。あんたの相手ばっかしてられへんのや」





落ち着いて話しかけても、相手は刀を構えもせず微動だにしない


何がしたいのか検討もつかなくて、顔を歪めるしかなかった





「どないしょ・・・」





小声で独り言のように呟く


私としてはさっさと能面の欠片を平次に届けたいのだが、目の前の男はそうはさせてくれないみたいだ


私が悩んでいると、男は木刀片手に突っ込んできた





「ちょっ・・・!?」





ギリギリで避けるが、男は完全に私を逃がす気はないようで私も真面目に構える





「なぁ、あんたやっぱり私と会うたことあんやろ?」





始めこの男を見たときから、初めて会った気がしなくてどこかで見たことがあると思ってた


顔は見えないが、体格から、素振りから、雰囲気から、どこかで見ていてずっと引っ掛かっていた


男は私の言葉に前回同様、ぴくりと反応した


図星だということは、男の目的は私の口封じか


ならば余計にこの欠片を届けなくてはならなくなった


私はキッと男を睨み付けて、構える


一瞬でいい


一瞬だけでも相手の動きを封じれば逃げ切れる


私は再び向かって来る男の木刀を振り下ろすタイミングを計り、左に避けると回し蹴りを仕掛けた





「なっ!?」





だが、その蹴りは避けられてしまい逆にお腹に一撃食らってしまった


前回と同じところに二度も食らったため、前より数倍もの痛みで意識が飛んでましまいそう





「ごほっごほ・・・くっ」





がくっと膝から崩れ、そのまま地面に倒れ込んだ


痛みに体がぴくりとも動かなくて、悔しさに唇を噛み締める


薄れゆく意識の中、能面の男が私を見下ろしているのが見え、それを最後に意識は完全に途切れてしまった





2011.01.30

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