助けに来ないで

 



迷惑になるくらいなら


離れた方がよかった


一緒にいない方がよかった





++++++





「・・・・・・」





意識がはっきりとしてきて、目を開けると見知らぬ部屋が見えた


辺りを見渡しても何処だかわからなくて、薄暗い畳の部屋が広がるだけ





「ここどこ・・・っ痛」





少し動くとお腹に鈍い痛みが走り、身をよじる


起き上がろうとしてみるが両手を後ろで縛られているため起き上がれないうえに、こんな姿勢だからお腹の傷も痛みまくりだ





「なるほど、私はまた足手まといになったわけやな」





目が覚めたばかりの頭なのに、私は至って冷静でよく頭が回った


きっと私は平次を誘き寄せるための餌なのだろう


口封じのために襲われたのならば、今この場に生きて捕らえられている訳がないのだから





「・・あの男、誰なんやろ」





一度目の違和感が、二度目で確信に変わった


桜さんを殺害し、今回の事件の犯人である男は私と面識のある人物だと


だけど、誰なんだかは分からなくてもやもやが募るばかりだ





「ようやく目が覚めたようやな」





考えを巡らせていると、障子が開く音と共に能面の男が数人の仲間を連れて現れた





「あんた誰や」


「ほう、威勢がええな」


「もう隠しても意味ないやろ。私あんたと会うたことあんのや・・違うか?西条大河さん」


「!?・・・ほぅ」





彼は面白いものでも見つけたかのように楽しげ笑って私を見た


それは私の言ったことが当たっているということ


だが、対する私は驚きでいっぱいだった


自分で言っておいておかしな話だが、平然としているが内心焦りまくり





「(マジでぇ!?嘘、ホンマに西条さんなんかい!!)」





確かに会ったことある人だとは思ってた


だから京都に来てから会った人を順番に言っていけばいずれ当たるだろうと思っていたのだが、まさか一発で当たるとは思わなかった


完全なる当てずっぽだ





「よくわかったな。いつからや」


「・・へ、平次を襲った時に違和感があって、確信したのはさっきあんたを見たときや」





違和感があったのは本当だけど、確信したなんて真っ赤な嘘だ


まさか当てずっぽだっただなんて言えるわけもなく、それらしい理由を口にすれば西条さんは信じたようで、能面を取り私に顔を見せた





「まさか、見ただけで気づかれるとはな。大した嬢ちゃんや」





笑いながら私を見下ろす西条さんは、私が知っている西条さんとはかけ離れていて少し恐ろしかった


私は彼を睨み付けるようにして視線を向ける





「あんた、私を囮に平次呼び出す気やろ?」


「ほぅ、察しのいい嬢ちゃんやな。さすがは浪花の高校生探偵服部平次の女や」


「・・・・・・」





なるほど


西条さんが平次を誘き寄せる餌に私を選んだ理由がわかった


彼は私が平次の彼女だと思ったから、一番大切な人だと思ったから連れてきたのだ


そう見られていて嬉しいと思う反面、そうではない現実を突き付けられて胸が傷んだ





「なるほどな。あんたは私が平次の彼女やと思ってるようやけど、それは大きな間違いやで?」


「・・・なんやと」


「私は平次の彼女でもなければ、一番大切な人でもない。残念やな、私を連れてきたのは失敗や」





馬鹿にしたように笑いながら、西条さんを見た


間違いだ


私を連れて来ても何の役にも立たないのに


すると、西条さんはそんな私を見て笑い返してきた





「いや、間違ってない」


「間違いや!!平次は絶対に来いひん」


「それはお前の願いやろ。だが、あいつは来るで・・必ずな」


「・・・・っ」





あまりにも堂々と自信を持って言う彼に、私は悔しくて奥歯を噛み締める


来ないなんて根拠はない


西条さんの言う通り、平次が来ないでほしいというのは私の願いで、絶対じゃないのだ


逆に優しい彼は私が捕まっていると知ったら絶対来てしまう





「まあ、来るか来ないかは本人に確かめてみるこっちゃな」





西条さんはそう言って仲間の一人に命じ、私の携帯をとらせた





「ちょ、何すんねん!!」





携帯を取られ、これから何をするのか察した私は必死に叫ぶが西条さんは私の携帯をいじりだした


コール音と私の声だけが響く中、西条さんは能面を被り携帯を耳に当てる





「この娘は預かった」





携帯から微かに聞こえる平次の声に私は顔を歪めた


また、足を引っ張ってしまう


私が弱いせいで平次が危険な目にあってしまう


情けない


良かれと思ってやったことで、更に平次を追い詰めてしまうなんて





「・・・ごめんな、平次」





小さな声で呟いた言葉は誰にも聞こえなかった


もう、近くにいたいなんて思わない


一緒なんて望まないから


これ以上傷つかないで


平次が私の知らないところで傷つくのも、私のせいで傷つくのも見たくない





「1時間後、鞍馬山の玉龍寺に一人で来い。警察に知らせれば娘の命は無い」


「平次、来たらあかん!殺されてまう!!」





お願いだから、来んといて





++++++





「悠?悠!?」


「服部?」


「悠が・・・悠が攫われてしもた」


「何!?悠が!!」


「・・一時間後、一人で鞍馬山の玉龍寺に来い言うてる!!」


「玉龍寺!?」





平次の言葉にコナンは驚いていた


平次は頭が真っ白になり、顔が真っ青になっていた





「おい、大丈夫か服部。顔色悪ぃぞ」


「くそっ!!なんでっ、なんで悠なんや!!」





頭を抱えている平次は、悔しさに自分をせめていた


どうして守れなかったんだ


ずっと側にいて


事件に巻き込まないようにしていたのに


なんで大事な時に守れないんだ





「助けに行かんと」





死体を見て怯えた悠の姿が頭に浮かび、自分を弱いと言っていた悠の言葉を思い出した


気丈に振る舞っていても、強気になっていても、心の中は弱くて脆い彼女


きっと、今だって不安で仕方ないはずだ


平次はすぐに助けに行こうと動き出す


だが、突然の激しい眩暈が平次を襲い、立っていることもできなくなって地面に倒れ込む





「服部!?」





まだ怪我が治っていないのに無理をしたせいだろう


コナンが何度も平次を呼ぶが、平次は返事をせず意識を失った





2011.01.30

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