自分の弱さ

 


ただ一緒にいたかった


でも


もう、それさえもできないのかな





++++++





「いやああああああああ!!」





建物全体に響き渡った悲鳴


それは今までの陽気な雰囲気を一気に消し去った





「悠っ!?」


「おい、服部!?」





コナンを始めとした人達が突然の悲鳴に驚き動きを止める


誰もが動けずにいる中、平次がいち早くその悲鳴に反応し一目散に声が聞こえた方へ走り出した


それにハッとしたコナンと小五郎も続けて平次の後を追う





「今の悲鳴って・・・」


「悠の声や!!」





蘭の声に和葉が急いで部屋を飛び出す


何が起きたのかわからなかったが悠が悲鳴をあげなければいけない程のことが起きたのだと誰もが焦った


そして何よりも平次が顔を歪めて、必死だった


コナンはこんなにも必死な平次に驚きながら目的地へと急いで足を動かした





++++++





「・・・っぅ」





目の前に広がる悲惨な光景に私は口を押さえた


目を反らすことも、その場から遠ざかることもできなくて、ただ立ち尽くすだけ


視線を反らすこともできなかった


目の前の状況に胸が痛くなって、何も考えられなくて心の中で必死に゙誰が呼んだ





「悠!!どないしたんや!?」





思いが伝わったかのように平次が現れ、私に近づく


でも、私はそれに答えることができなくて、ただ一点を見つめることしかできなかった





「なっ!?桜さん・・っ」





不審に思ったのか、私の視線の先を見た平次が顔を歪め、視線を遮るように私の頭を肩に押し付けた





「もう何も見なくていい」


「平次・・桜さんがっ」


「大丈夫、大丈夫やから」





そう言って、私の頭をぽんと叩いた


何故かその一言ですごく安心した


それと同時に、自分自身がこんなにも弱い生き物なのだと理解して苦しかった





「悠!!」





勢いよく和葉と蘭と園子が駆け寄り、心配そうに声をかけてきた


゙大丈夫゙って元気に言いたかったけど、思うように言葉が出てこない





「和葉、悠のこと頼むわ」





そんな私の様子に気が付いた平次が私の背中をぽんと押す


それが、まるで大丈夫と言ってくれているようで救われた気がする





「ああ、任しとき!」


「姉ちゃんも、一緒にいてやってな」


「うん。でも服部くんは?」


「俺はおっちゃんと現場調べとかなあかんから」





゙んじゃ゙と手を挙げて平次は私を和葉に任せて新一と現場の検証に向かった





++++++





「落ち着いた?」





現場から離れた部屋でしばらく休むことになり、蘭が心配そうに私の顔を覗き込みながら水の入ったコップを差し出した


まだ気分が悪いけど、心配かけまいと笑顔を向ける





「ホンマ情けないな。こんなことで迷惑かけてもうて」


「何言ってんねん!誰だって死体見たら気分悪うなるわ!」


「そうだよ。それより、悠大丈夫なの?」


「大丈夫やて!もう完璧に回復したわ」





ブイサインを向けながらにかっと笑う


それに呆れたように苦笑いをする三人に゙心配かけまくっているんだ゙ってことを実感した


それでも何も言わないでいてくれてるのは、何を言っても聞かないということをわかっていてくれてるから





「それにしても、あの探偵くんはすごいわねぇ!あんなところで調査するなんて」


「服部くんのこと?」


「まあ、平次は慣れとるから。悠もたまに一緒にいるけど」


「でも殺人現場よ!?平然と居られるとこじゃないわよ」





園子が感心したように溢した





「ああ〜、情けない!!」


「え・・どうしたん?」


「死体くらいでこんなんダメージ受けとったら駄目やないか」


いきなり喋り出す私に三人はキョトンとしている


そんな様子を見て"そりゃそうか"と納得してる自分がいてなんだか笑えた


だって、おかしいじゃん


目を丸くしている三人も、その姿に納得してる自分も、こんなに弱い私も





「こんなんやから、私は平次の隣には居られへんのや」





推理なんて得意じゃなかったけど、平次の役にたちたくて一生懸命勉強した


一緒に事件を解決するとまではいかなくても、手助けくらいはしたかったから


でも、平次は一回も私を現場に連れて行ってくれなかったし、私に事件のことは何も話してはくれなかった





「私が弱いから、平次は私を事件に関わらせなかったんや。はぁ・・ホンマ情けないわ」





今回のことで、それがよく分かった


事件現場に行けば傷を負った人もいれば、死傷者だっているのに


平次は分かってたんだ


こうなることを





「私は、平次の足手まといになってたんやな」


「そんなことないよ!きっと服部君は悠を危険な目に合わせたくなくて・・」


「んなことあるわけないやろ。平次は初恋相手探すのに必死で、ただの幼馴染のために、んなこと考えてる暇なんかあらへんよ」


「・・・悠」


「悔しいわ。何でこんなに弱いんやろ」





悔しくて、悲しくて、情けない


私は笑いながら、涙がこぼれそうになるのを必死でこらえた





++++++





「・・・・・・」


「おい、服部」





部屋の外にいた平次は今の会話を聞いていた


入ろうと襖にかけた手はゆっくりと元に戻される


悠が何を思っていたのか


今まで聞くことのなかった本音が平次の胸を締め付ける





「行くで、工藤」


「おい、ちょっと待てよ!!」





何も言わずに部屋から遠ざかっていく平次をコナンが後を追う





「・・・いいのか。顔見てかなくて」


「ああ、今はええ」


「まあ、巻き込みたくない気持ちは分かるけどよ、悠だってお前の力になりてぇんだよ」


「工藤・・お前かて同じやろ。姉ちゃん巻き込まないために自分の正体かくしとるやないか」


「・・・それは」


「お互い様っちゅーことや」





しゃがみ込み、何も言い返せないコナンの頭をくしゃくしゃと撫でると桜の経営する古美術店へと向かった


それでも、頭から悠が消えることはなく悲しげな悠の声が何度も頭を横切った





++++++




襖が開き誰かと思い視線を向けると、そこにはポケットに両手を突っ込んだ小五郎のおじさんがいた


おじさんは私を見るなり部屋に入り近づいてくる





「おお、もう大丈夫なのか?」


「えらい迷惑かけてしもて、すみません。でも、もう平気です!」


「餓鬼が意地はってんじゃねぇよ」


「意地なんてはってません!!」


「ったく」


「失礼。悠さん、話聴かせてもろうてよろしおすか?」




ゆっくりと襖が開き、綾小路警部が入ってた


第一発見者である私に話を聴かなくてはいかない

だから来たのだろうけど、気を使ってくれているのか少し申し訳なさそうにしている





「すんません。もう気分はよろしゅおすか?」


「あ、大丈夫です。完璧に回復しとります!」





まだ気分が悪いが笑顔を浮かべて大丈夫だと言ってしまえば綾小路警部は何も言えずに困ったような顔をした


申し訳ない気持ちになりながら私は事情聴取を受けた


その後事情聴取を受け終え、山能寺に戻る事になった


戻ると平次と新一も帰って来たらしく、皆は帰ることになった




「んじゃ、私は先に帰るから。和葉は平次に送ってもらい」


「悠は?一人やと危ないやん!!」


「私はタクシーがあるから大丈夫」


「そんな・・ちょっと平次なんとか言ってや!!」





別に気まずいとか、顔が見たくないとかじゃなくて和葉の為を思って言っているだけなのに


何でそんなに必死になるのかな





「ほな、帰・・・」


「ああ〜!!ごちゃごちゃ言わんで、行くぞ!」


「え、え、え〜!!」





いきなり大声を出した平次に呆気にとられている私はずいずいと引っ張られて連れていかれる


その様子を満面の笑みを浮かべながら見送る和葉と蘭達


何なんだよ





2011.01.30

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