優しい嘘と寂しい嘘

 

我慢することが


どんなに苦しいことか


好きでいることが


どんなに辛いことか


私はまだ知らなかった





++++++
 




茶屋から出て、4人で色々な所を観光した


最近は平次のおかげでブルーな気分だったから尚更に楽しくて


だからかな


蘭に余計な心配をかけてしまった





「ねぇ、悠」


「ん?どうしたん」





浮かない顔をしている


不安そうに口を開くことを躊躇している様子に、私は蘭が何を言うのか予想することができた





「服部くんのこと・・・」





ほら、予想通り


茶屋で何も喋らず、悲しそうに私を見る視線に気づいていた


きっと、蘭には全て分かっているのかもしれない


新一と会いたくても会うことができず、何も分からなくて


不安で寂しくて、それでも我慢している蘭


だからこそ、私達はいろんな意味で一番近い





「だから言うたやろ?仮にって。だから、そんな顔しないで!」


「・・・嘘つき」


「あんなぁ〜」





私を見つめる視線はもう嘘も冗談も何も通用しないと言っているようだ


初めて蘭を恐ろしいと思ったような気がする





「ホント、蘭には敵わんわ。何で、バレてまうんやろ?」


「まったく、何年付き合ってると思ってんの!分かるに決まってんでしょ?」





そうだよね


蘭は昔から鋭かったし、人のことをよく見ていた


それに、私は蘭に隠し事をするのが苦手だったし





「でもな、さっき言ったことはホンマやで?」


「・・・・・・・」


「私は何も求めない、友達として一緒にいたいし、一番近くで平次と一緒にいたいんよ・・まぁ、そろそろキツイようやけど・・」





平次は真剣に初恋相手を探し始めている


もし、見つかれば"一番近く"は私ではなく、その人のものになってしまう


少なくとも私は"二番目以降"の存在になる





「どうして、そう思うの?もしかしたら、初恋相手は悠かもしれないじゃない!」


「んなわけないやろ!だって、私は年上じゃないし、水晶玉もおとしとらんし」


「そっか・・・」


「そんな顔せんといて!今は私が平次の一番近くやろ?」





無理矢理作った笑顔を蘭に向けると、やっぱり蘭は納得いっていないような顔をしていた


私はそんな蘭の腕を引っ張り、和葉と園子の元へ走った





「あ・・・」


「・・あれ? 服部君?」




見かけた二人組だと思ったら、その人は平次とコナンくんだった


あれからずっと調べていたのだろう


まあ、あの様子からすると大した収穫は無さそうだが





「何で此処に?」


「いや!街で偶然くど・・やのうてこのボウズと出会ってな!!一緒に絵ェの謎、解こ思て・・」


「それで、絵ェの謎は解けたの?」


「まだや。結構難しいなあ・・」


「ところで、おじさんは解けたの?」

「それがねえ・・」





とりあえず、絵の謎も解けないってのに先斗町のお茶屋に行ってしまった蘭のお父さんを迎えに・・というか、叱りに行くために皆で移動することにした


最後尾を歩いている平次に近づくと、コナンくんも私に気付き視線を向ける





「なんか、分かったん?」


「いや、まったくや」


「・・・予想通り」





何も分からない二人は、明らかに沈んでいるような、疲れているような表情をしていた


そんな二人に苦笑いをする





「あれ?」


「ん、なんや?」


「平次、怪我してるやん」


「ああ・・これは」





言いずらそうに、口をもごもごする平次に何かあったんだと思った


隠そうとしてるみたいだけど、全然隠せてない


傷のある頬に痛くないようにと優しく触れた





「なっ!?おま、何しとんねん!?」


「・・なんか、あったんやな」





顔を赤くして、焦る平次


何をしているのかと思いながら、直球で問いかけると視線を反らす





「な、別になんもない。ただぶつけただけや!」


「・・・・新一」


「え、いやー」





二人して私から視線を反らす


もう、なんかあったの決定だ


きっと、これ以上は何を聞いても何も答えないのだろう


私は、平次の傷から手を離して深いため息をついた


余計な心配を掛けさせないためか分からないが、それが余計に心配だよ





「あんま、怪我しないでな」


「あ、ああ。すまんな」





私は、それだけ言って平次から離れて、蘭達のもとへ向かった





「おい服部、いいのかよ」


「・・・・・・・」


「悠、すごい心配してたみてぇだけど」


「ああ、悠はこの事件に巻き込みたくないんや」


「そうかよ。でも、アイツが素直に黙ってるとは思わねぇけどな」





コナンは悠を見てから平次に視線を向けると、ものすごく顔を歪めた平次と視線が交わった





「・・そないなこと、分かっとるわ」





そして、悠が触れた頬の傷に触れた





++++++





「いよっ、千賀鈴ちゃん! 日本一!!」





部屋の前に着いた私達の耳に毛利さんの呆れるほど情けない声が聞こえた


隣を見れば蘭が物凄い不機嫌な顔をしている





「新一、蘭の顔が恐ろしんやけど・・」


「ははは・・・」





小声で話しかけると苦笑いを返された


その苦笑いは"いつものことだ"と言っているようで、普段の毛利家での生活が目に浮かぶ


毎日大変なんだと、蘭を気の毒に思った





「ごめんやす・・」


「いやぁ、もう小五郎ちゃん天にも昇りそう!!」


「そのまま昇ってったら!!」





思わず噴き出してしまった毛利さんはゆっくりとこちらに振り向く





「お前達!! どうして!?」





私は、もう苦笑いするしかなかった


そりゃ、驚くのも無理はない


だって、絵の謎は解けてないし


私達には秘密にしとくつもりだったんだし





「ほな皆さん、ご一緒にいかがですか?」


「すみません、お邪魔します!!」





その言葉に甘える園子は遠慮しようとせずに席に座る


それにつられて私も失礼ながらお邪魔させてもらうことにした





「あれ? アンタ、宮川町の・・・」





席に着いた平次は舞妓さんの姿を見て声を掛ける


私は、あまりの驚きで動きを停止させてしまった





「へえ、千賀鈴どす。その節はおおきに」


「・・・知り合いなん?平次」


「ああ、ちょっとな」


「・・・あっそう」





ちょっと、って何


舞妓さんと知り合いって、どういう関係


その人が初恋相手なの


次々と浮かび上がる疑問に胸が締め付けられる


だって、あまりにも親密そうな二人に、私には言えないような関係なんじゃないかとか考えてしまって


なんだが、寂しいような気がした



「・・ああ、えらいすまんけど、ここんとこ寝不足でな。下の部屋で暫く休ませてもろてもエエやろか」





突然他の部屋を使わせて欲しいと女将に頼む桜さんに私は視線を向ける


別に気になる訳じゃないけど、私はじっと見つめていた





「それやったら、今晩は他のお客さん、居てはらへんし。隣の部屋でも・・」


「いや!下の方が落ち着いてエエんや。そやな・・九時に起こしてもらおか。皆さんは愉しんどって下さい!」





そう言って女将に案内され、桜さんは部屋を出て行った





「わあ、川が見える!!」





桜さんが出ていくとすれ違いのタイミングで、園子が障子を開けて外を見た


園子の声につられて、私達が視線を向けると、園子の言う通り綺麗な川が目の前に広がっていた


その景色を食い入るように見つめる





「あれ、綾小路警部や」





窓の外を見ていると、綾小路警部が川を挟んだ向かい側にいるのが見えてポツリと言葉を漏らす


すると、突然平次と新一が声を上げて近づいてきた





「綾小路警部!?」


「何してんねん、あんなとこで・・ってか、何であいつのこと知ってんのや!?」


「何でって・・ちょっとな」





幼稚かもしれないけど、さっきのお返しとばかりに何も話さない私に平次は口元をヒクヒクとさせていた


私達のやり取りを見つめていた、新一や和葉や蘭も苦笑いをしている


だって、平次だって何も教えてくれなかったじゃん





「君ら、下のベランダ言って夜桜見物して来たらええ」


「うん、良いね!」


「僕は此処に居るよ!」


「俺もや」


「・・・・・・・」





新一と平次は部屋に残ると言い、誘いを断った


いつもだったら行きたくないんだと素直に引き下がるけど、今日はちょっと違う


私は気になっていた事を口に出して、平次に問いかけた





「何で・・あの、舞妓さんが気になんの!?」


「あほ!!しょーも無い事言うな」


「ああ、そうかい!!私と桜見るより、べっぴんな舞妓さんといた方がええもんな〜」


「なっ!!」


「和葉、はよ行こ」


「ちょ、悠!?ったく、平次のあほ!!」





自分勝手な私はそのままベランダへと早足で向かった


平次は悪くない


ただ、ムカつくだけ





「・・・・・・・」


「あのなぁ・・・」





悠が去った後、項垂れあからさまに落ち込んでいる平次にコナンは呆れてため息が出た





「そんなに落ち込むくらいなら、行けばいいだろ」


「お前は黙っとけ、工藤!!」





コナンはめんどくさと心から思った


そして、ベランダにいる蘭へと視線を向けた





++++++





桜を見るためにベランダに降りた私達


私はコップを持ちながら蘭に問いかけた





「どうしたん?蘭」


「ううん、何でも無い!!」


「・・・・・・・」





嘘つき
"どうしたの"なんてわざとらしく聞いたけど、本当は気づいていたよ


蘭の視線を向ける先にコナンくんが・・新一がいると言うことも


新一が蘭を見ていたことも


先程蘭が見上げていた方向へ目を向けると、ピースサインをして笑顔を見せる平次の姿が目に入ってしまった


あの能天気さに呆れて何も言えない





「平次の奴、ホンマ腹立つわ。悠のこと何も考えてへん!!」


「・・もう、突っ込まへんけど。私を巻き込むのはやめてほしい」





怒りを露わにしながら、そう呟く和葉に呆れながら言葉を絞り出す


でも、隣で和葉の言葉を聴いた蘭が寂しげな表情を浮かべているのに気が付いて私は顔を歪めた





「・・でも、悠はうらやましい」


「・・・え?」


「・・・・・・・」


「だって、会いたい時に会えるんだもん」





そうだよ


私は蘭に比べたら全然幸せなんだ


いつでも隣にいれて、こうして喧嘩もできる


蘭はそれすらできない





「そうだよね!私も真さんとなかなか会えないし。乙女の悩みは尽きないわ!」


「すまん、園子。アンタ、彼氏できたん?」


「よくぞ聞いてくれた!!」


「あの、できたかできてないかだけ答えてくれれば・・・」





私の言葉を聞かず、そのまま彼氏について話す園子にしぶしぶ耳を傾けながら、蘭を見つめた


そして、心の中で謝る


コナンの正体を知りながらも、話す事が出来ない


蘭が一番知りたい新一の行方を秘密にしているという事に罪悪感でいっぱいになる





蘭・・ホンマにごめんな





部屋では芸妓の市佳代とゲームに興じている毛利さん達


一方、私は話に花を咲かせている最中トイレに行こうと席を立った





「私、ちょっとトイレに行ってくるわ」


「うん、一人で大丈夫?」


「蘭ちゃん、私子供やないから!」





冗談混じりにそう言って私はトイレに向かった


暫くしてトイレから出ると辺りを見回し何かを探す女将さんの姿があり、私はすかさず声をかける





「どうかしたんですか、女将さん?」


「ええ、桜はん起こしに来たんやけど居らへんのです。何処行きはったんやろ・・」





困ったように首を傾げる女将さんに、私も周りを見渡す


すると、下へ続く階段に目が止まった





「女将さん、あの階段は?」


「ああ、地下の階段どす。地下には納戸しかありまへんし、お客さんが立ち寄るような場所では・・」


「念のために私見てきます。女将さんは一階を探しといて下さい!」





効率よく探すために私達は二手に別れて探すことにした


平次のように推理が好きだからとか、そんなわけじゃないけど何となく桜さんの言葉が引っかかった


何で隣の部屋じゃなくて下の部屋がいいと言ったのか


ただ、嫌な予感がして、地下へと足を踏み入れた





「桜さん?」





階段を降りきると、納戸の扉の隙間から光が漏れていた


誰かいるのかと思って声をかけるが返事は帰って来なかった


不審に思った私は引き戸を引く


そこで私は後悔した


何で一人で来てしまったのかと


目に映ったのは首から血を流し、既に息絶えている桜の姿だった





「いやああああああああ!!」





2011.01.30

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