事件への終止符

優しくしないで


貴方の優しさが


余計に痛くて、苦しいから





++++++





素顔が露になった彼に、その場にいた人が驚き動揺していた


もちろん私も例外じゃない





「な、何!?」


「・・・新一」





コナンの姿ではなく、新一の姿で現れた目の前の彼を見て、涙が溢れそうになる


久々に見た新一


安心と懐かしさが溢れてくる


"どうして"とか、"平次は"とか、聞きたいことはいろいろあったけど今はそんなことを聞ける状況じゃなかった





「くそっ!騙しおったな!!」





平次では無かったことに西条さんは怒りを露にし刀を振りかざす





「行くぞ、悠!!」


「うわっ!?待って新一、あんた・・」





気になった私が口を開くが、新一が私を引っ張ったことにより遮られる


もし私の考えが当たっていたら、新一は立っているのも辛いはず


なのに、何で来たの





「くそっ」





どこへ逃げても弟子達が邪魔をして突破することは難しかった


隠れるところもなく、すぐに追い詰められてしまう


新一の姿を後ろから見ると呼吸が荒く、眉間のシワが深く刻まれていた


それを見て、彼が置かれている状況がわかってしまう





「新一・・あんた、薬つこうたやろ」


「まあな。だけど、そろそろヤベェな」





新一の額に脂汗が滲み出ている


薬の副作用が出始めているせいで辛そう


時間がない


もしここで、コナンに戻ったら・・それこそ大変だ





「新一、ここは私に任せて早く逃げぇ・・」


「は?」


「私のことはいいから。今ここであんたがコナンに戻ったら今までの苦労が無駄になるんやで」





蘭にまで秘密にして今まで頑張ってきたのに、それを私のせいで無駄にするなんて間違ってる


来てくれただけで嬉しいから、もう大丈夫だから


コナンに戻る前に





「バーロォ」


「・・・!」


「お前を守れなかったら、俺が服部に怒られんだろうが。ったく、ホントお前は他人の心配ばっかだな」


「他人の心配とかじゃなくて、私のせいで誰かが傷付くのなんか見たくないんよ!!」





何の役にもたたないけど、せめて足を引っ張ることだけはしたくない


私がいることで誰かが傷つくなら、すぐにでも消える


何もできない私に唯一できることは、迷惑をかけないこと


だから





「・・・私一人の為に、新一に迷惑かけたない」





顔を上げて新一を見つめる


泣きそうになるのを必死で押さえ込むと新一は驚いたように目を見開く


でもすぐにフッと柔らかく笑い私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた





「いいからお前は黙って俺の後ろに隠れてればいいんだよ。たまには誰かに甘えろって」


「・・・・!!」





あまりにも優しい声色に顔の力が一気に緩んでしまった





「・・あんた、アホちゃうの」


「なんだ、っ!!!!?」


「新一!!」





突然起こった発作に左胸を押さえ必死に痛みに耐える新一


彼には時間がない


早くしないとこの場でコナンの姿に戻ってしまう


薬の副作用で苦しんでいる新一に近づく





「新一、大丈夫!しっかり・・・っ!!!」





フッと目に飛び込んだ光景


苦しむ新一の側に西条さんの仲間の一人がいて、刀を振り下ろそうとしていた


新一には待ってる人が、蘭がいる


私が守らなくちゃ


そう思った私が動くのと刀が振り下ろされるのは同時だった





「っ駄目・・・・!!」


「なっ、悠!?」





今度は私が守らなくちゃと新一を庇うように前に出て盾になると、新一が驚いたように叫んだ


斬られると覚悟した私はぎゅっと目を閉じた


そして、来るであろう衝撃を待つ


が、一向に痛みが襲って来ない





「・・何やっとんじゃ、このどアホ!!危ないやんけ!!」


「え・・・・」




聞き慣れた声がして目を開ければそこには能面を外した平次がいて、私は言葉が出なかった





「服部!?」


「情けないなぁ、工藤。そこは意地でも悠を守るとこやろ!!体張って、盾にでもなったれや!!」


「ははは・・・悪かったな」





平次は私を縛っている縄を切ると、襲い掛かる人たちを次々に倒していく


そんな姿を見ながら、私は顔を歪めるしかなかった


だって、本当なら来てほしくなかった


新一にも、平次にも傷ついてほしくなかったから


でも、彼らの顔を見たら・・・嬉しくてたまらない


平次は私の腕を掴むと、新一に向かって叫んだ





「工藤、お前は早う行け!!元に戻ったら帰って来い!!」


「・・・ああ、悪ぃ」





胸を押さえたまま門へと向かう新一


それを阻止しようと何人もの人が新一を追う





「またんかい!!お前らの相手は俺じゃ!!」





だが平次それを許すはずがなく全てを倒し、新一はそのまま門を出た





「悠!!工藤に会うた事誰にも言うなよ。勿論あの姉ちゃんにもや」


「何でや・・・っ」


「何でもや!!」





そう言う平次の顔は見ている私まで悲しくなるほどだった


平次の言いたいことはわかる


どうせ会えないなら、知らないほうがいい


その方がいいって思ってるのだろう


それが蘭の為だって


でもな、平次





「・・運命の人は、私らが何をしようと会うてしまうんやで?」





そう言う私に平次は首を傾げる


蘭と新一は誰が邪魔しようが、きっと会える


私の・・・女のカンだ





「オマエら二人とも、生きて帰さへん!!」





平次の暴れっぷりに怒った西条さんが平次に向かって刀を振り下ろす


攻撃を受けた平次の刀はあっさりと折れてしまった





「焼きが甘すぎんで、この刀!!」


「んなこと言うてる場合か!?」


「わかっとるわ!!」





ついに武器がなくなってしまった平次は私の腕を引くと、迫り来る敵を躱し寺の中へと逃げ込む





「追え!!」





逃げる後ろから数人の男達が追ってきて、私は平次に腕を引かれながらお腹を押さえた


痛くて仕方なかったけど、平次に知られまいと必死に堪える





「・・・・っ」





走って逃げ込んだ先は他の部屋より広くて、寺の一番奥だった


すぐに鍵をかけてはいるものの、破られるのも時間の問題だろう
 




「あ、ここ・・・」


「どないした?」


「ここ、私が押し込められてた所や」





匂いや柱の位置、部屋の感じが最初に見た景色と重なる


間違いない


私はここにいた





「お前、こんなところに押し込められてたんか!?」


「・・・・??」





いきなり大声を上げる平次に私は首を傾げた


別におかしなことなんか言ってないし、拉致されたら部屋に押し込められるなんて普通でしょ





「変なことされてないやろな」


「は?」


「殴られたり、触られたりされなかったんか!?」


「いや、そりゃ・・・」





殴られましたけど


二回も


心の中で呟いた直後、扉の外から大きな音と怒鳴り声が聞こえてビクッと肩が跳ねた


きっと、ゆっくりしてられる時間なんかないんだ





「今は、んなこと言っとる場合やないやろ!!」


「っくそ、後で詳しくきくからな。その腹のことも!!」


「は?」





何でばれたの


気付かれないようにしてたはずなのに


いろいろと疑問はあったが、扉から聞こえる音に全てかきけされた





「ヤバいな。破られんのも時間の問題やな・・ん?何や、えらい引き出しの多い箪笥やな」


「!!」





奥にある箪笥にここにいる時に誰かが話していたことを思い出した





予備の刀は弁慶の、弓矢は六角の引き出しにしもうとけ





「平次っ・・刀は弁慶の引き出しにあんで!!」


「何っ!?この箪笥のか!?」


「そういうこと」


「けど、ぎょーさんありすぎて、どれが弁慶の引き出しか分からへんやんけ」





たしかに、たくさんありすぎる引き出しのどれが弁慶の引き出しなのか全く分からない


早くしないと、扉を壊されてしまうというのに・・・





「ん??この引き出しの線・・京都の通りと同じちゃう?」


「そうや!弁慶の引き出しっちゅうんは・・弁慶石の事や!!」





つまり、弁慶石を見つければ刀が見つかる


後ろで聞こえる大きな音に焦りを感じつつ必死に弁慶石を探した





「手鞠唄や!!えっと、丸竹夷に・・丸竹夷に・・その先は何なんや!!ああ、くそ・・思い出されへん!!」


「え・・・手鞠歌」





手鞠歌


私が、小さいころ必死で覚えた手鞠歌


懐かしくて、私はこんな窮地にも関わらず頬が緩んだ





「まるたけえびすにおしおいけ・・・」


「・・・え!?」


「よめさんろっかくたこにしき・・・平次、三条は鮹の2つ手前や!!」


「あ、ああ・・鮹の二つ上。東西の通りはてらごこふやとみ!!麩屋町は三つ目、此処や!!」





ようやく弁慶の引き出しを見つけると同時に扉が破壊され、西条さんが声を上げて迫ってきた





「覚悟せい!!」





平次は手に掛けた引き出しを一気に引き、中に隠された刀を手にすると、その刀で西条の太刀筋を受け止めた


私は防げたことに一安心して、ほっと一息つく


逆に西条さんは受け止められたことに驚いていた





「この表裏揃うた独特の刃文・・妖刀村正やな。義経にとり憑かれたバケモン斬るには丁度エエ刀やで!!」





そう言うと私の腕を掴みながら攻撃を受け流し、何とかその場を突破する





「・・悠、よく聞け」


「・・なんや?」


「俺がアイツを引きつける。その隙にオマエは逃げぇ」


「はあ!?何言うとんの」





平次を置いて私だけ逃げるなんて、そんなことできるわけない


嫌だと言い張るが、平次は私の肩を掴むと顔を歪めた





「このまま一緒にいても、お前を守られへんのや!!」


「!!」





ああ、やっぱり私は足手まといなんだ


一緒にいたら邪魔になるだけ


悲しくて、涙が溢れそうで


でも、そんな弱いところ平次に見せたくなくて唇を噛み締めて平次を見ながら必死に堪えた





「っ・・・お前、怪我しとるんやろ?無理させたないんや」


「私のせいやのに・・全部私の」


「違う、原因は全部俺にある。お前のせいやない、俺が巻き込んでもうたんやからな」


「でも・・・」


「頼むから、今日だけは言うこと聞いてくれ」





顔を歪めて言う平次に嫌とは言えなくて渋々頷いた





「いたで!!」





平次は私の背中を押して、二手に別れた


平次を西条さんが追って、弟子達は私を追いかけてきた


誰か、平次を助けて


そう思いながら走っていると目の前を松明がよく通り過ぎ、敵を倒していく


何事かと思い、前を見ると驚いて目を丸めた





「新一!!」


「悠、大丈夫か!?」





そこには、コナンの姿に戻った新一がいて、彼が松明を蹴っていたのだとわかった





「私は大丈夫やけど、平次がっ・・・」





そういって屋根の上を指差すと、平次と西条さんが屋根に跳び移り対峙している所だった


助けに行ってほしいが私達の周りには弟子達がいて、外に助けを呼ぶことも出来ない


どうしたらいいのかと、頭を捻っているとたくさんの木材が積んであるのが見えた





「新一、あれや!」


「!!・・・なるほどな」





私の言いたいことが伝わったのか、新一はにやりと笑い松明を手にすると、寺の隅に置かれていた薪の束に向かって投げつけた


燃えやすい木材は赤々と燃え上がり、弟子達は急いで消火作業にかかる


助けはいずれ来る


心配なのは・・・





「平次・・・」





平次と西条さんは決着をつけるため、お互いに構えをとった


2人は二度目の対峙


さすがに、同じ手にはかからないだろう


でも・・・平次はまだ怪我が治ってないのだ





「小太刀か・・・」


「ただの小太刀とちゃう。即効性のある猛毒が塗ってあるんや!!ちいとでも掠ったらお陀仏やで!!」


「何やて!?」


「っ・・・ひどい」





これは、遊びでもなければ、試合でもない


相手は殺人犯で、勝つ為になら手段など選ばない


隙をつかれた平次が西条さんに蹴り付けられ屋根を転がり落ちていく





「っ平次!!?」





悲鳴に近い叫び声をあげる


平次が、殺されてしまう


下では矢が平次に焦点を合わせられ、いつでも打てる状態だった


平次が危険な目にあってるのに私は何も出来ないなんて





「・・・・新一!!」


「!?」





いきなり大声を上げた私に新一が驚いて私を見た


真剣な瞳で新一を見ると、ゆっくり息を吐いた





「平次、助けたって・・・お願い」





私じゃ役に立てないけど、新一ならできる


だから、お願いと新一を見つめると彼は頷いた





「ここは私に任せて・・一人くらいならどうにかできるさかい」


「・・わかった。無茶すんなよ!!」


「誰に口きいてんねん」





そう呟くと同時にコナンが走り出した





「ま、待て!!」


「行かせへんよ!!」





追いかけようとした弟子の一人に回し蹴りをくらわすと、そいつは一発でノックダウン


激しい動きに、私もダウンしかけていた


ああー、マジで痛い


顔を歪めながら新一の方を見ると宙を跳びながら増強シューズでボールを勢いよく蹴った


そのボールは左手の小太刀に見事命中し、西条の手から小太刀が離れた





「うわっ!!」





空中では支えがなくなった新一は重力に従って地面へと落下する





「っ・・何やってんねん」





まったくと思いつつ、墜落寸前で抱き留める


刀のみでの一本勝負


刀だけなら、平次が負けるはずない


西条さんの刀は折られ、峰打ちをくらいそのまま屋根を滑り落ちる





「・・義経になりたかった弁慶か。アンタが弁慶やったら、義経は安宅の関で斬り殺されてんで」





落ちる寸前で西条さんの足を掴んで落ちることはなかった


師匠が倒されて戸惑う弟子たちは、寺に踏み込んで来た蘭や小五郎達に次々に倒され、駆け付けた警察の手により、西条とその弟子達は逮捕される事となった





2011.03.04

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