夜空を見上げて | ナノ

≪非公式ファンクラブ1≫



「…お?」


その日、初めて靴箱の中に手紙が収められていた。
手に取って見ると、表には自分の名前がフルネームで書かれている。
丸っこい字だ。裏には何も書かれていなかった。
迷うことなく開く。

『篠原智草様
突然のお手紙すみません
どうしてもお話したいことがあります
放課後、屋上に来てください
待ってます』


「……ふむ」


悪意の感じられない文面。
けれどこの文字は――と、智草は口元を緩めて教室へ向かった。
目的の人物へと近付く。


「アキくん、アキくん」
「どうした」
「ラブレターなるものを貰った」
「ラブレター…?」


大げさに後退る。


「まさか鈍感な真田明彦はラブレターすらも知らないと!」
「馬鹿にするな、知っているに決まっているだろう。で、そのラブレターとやらがどうした」
「貰ったの」
「そうか」
「…………」
「…………」


明彦は訝し気に首を傾げた。
言いたいことははっきり言えと伝わってくるが、智草は肩をすくめる。
分かっていたが、面白くない反応だった。


「…ダメだこりゃ」
「?」
「なんでもなーい。そういうことだから今日は現地集合ってこと」
「そんなにかかるのか?」
「いや、お話の後はいろいろ準備がいると思うから。先行ってて」
「分かった」


分かってないよ。と智草は溜息を吐いた。
初回だし準備は必要ないと願いたいが……。



>放課後 屋上


「――何で呼び出されたか、分かってんでしょ?」
「あんな女子の筆跡でラブレター貰ったらねぇ」
「ラブレターとかきもっ」
「アンタさぁ、真田くんの周りうろちょろしすぎじゃない?」
「この間なんてサチが一生懸命な思いで告ったのにさー」
「なんでアンタが平然と明彦くんの隣いるわけ? 意味わかんない」


予想通りの、明彦へ好意を寄せる女子生徒からの呼び出しだった。
明彦は顔立ちが整っているし、背も高い。しかも成績も良好であり、ボクシング部主将として無敗の記録を保持している。
これに魅力を感じない女子生徒はそう多くはない。

けれど、明彦は女子に対して興味を持たず相手にされない。
そんな中で対等に会話をして、登下校や外食も共にしている智草へ矛先が向くのは初めてではなかった。


「と、言われても。というかその告白して断られたことと、私がアキくんと一緒にいること。これって、関係ないと思うんだけど」
「サチ、断られてもめげずにご飯誘ったんだよ? せめて友だちとしてって。でも、明彦くんは練習で忙しいからって……。
なのに、なんでアンタは明彦くんと普通に飯行ってるわけ? 少しはサチの気持ち考えろよ」


サチがどの子かは分からないが、恐らく取り巻きに囲まれて、身を縮めている女子生徒だろう。
小さくて可愛らしいと、傍から見ても思った。


「実に理不尽。しかもそれおかしい」
「は?」
「友だちと初めて知り合った人、同等の扱いなんてそうそうできるものじゃないでしょ」
「なにそれ…ムカつく」
「サチはずっと前から真田くんにアピってきてんだよ?!」


呆れた。智草は溜息を吐く。
明彦が好きだ、と取り巻いておきながら彼のことを全く知らないのだから


「あのさー、アキくんがそういう取り巻きいちいち覚えてると思う? 彼のあの性格考えてみなよ」
「それって自分は特別だとでも言いたいわけ? サイッテーなんですけど…」
「そんなこと一言も言ってないけどね。初対面の人と友達とを比べれば、友達の方がある意味特別なのかもね」
「アンタねぇ!!」
「やめなよ。……今日はこれぐらいにしておいてあげる。でも、真田くんから離れてよね。じゃないと、…………」


睨みが利かされる。この子がリーダーなのだろうか。


「おー、怖い怖い」
「…………」
「…行くよ」
「チッ」


屋上から荒々しく出ていく集団を見送って、智草は天を仰いだ。
携帯を出すと、時刻は予定を少し超えている。
明彦から「もう着いたぞ。まだか」と短いメッセージが届いていた。

海牛につき、明彦の隣へと座った。
本人が知るはずもないだろうし、気が付くはずもないだろうが、何となくムカついた智草は頬杖を突きながら悪態を吐く。


「アキくんのバーカ」
「な、なんだ突然!」
「べっつにー」

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