夜空を見上げて | ナノ

≪夕日はまだ沈まない≫



「学生の本業は勉強」

誰もがそういう。そしてその成果が出ているかを試すのが試験だ。
誰もが嫌がる試験、テスト。小でも中でも大でも期末でも何でもとにかく嫌なものは嫌なもの。
けれど、絶対にやってくるものでもある。



「アキくん、テスト! もうすぐテストだよ!」
「そんなに叫ばなくても分かってる」
「勉強してる?」
「当然だ。お前は……」
「え、何その表情」
「いや、言わずも知れたことだと思ってな」
「もう酷いなぁ」


この月光館学園高等部でも、その時期がやってきた。
だからか、放課後に図書館で勉強する学生も増えてきている。


「でさ、テスト前だし部活って休みなんでしょう?」
「あぁ、そうだが」


試験1週間前は、どの部活も基本的には休みになっている。
例外として大会が目の前であれば免除になるが、これがこの学園でのルールだ。


「それじゃ、帰りに長鳴神社行こうよ!」
「また100円入れて神頼みか?」
「いやいや、あれ結構助かってるよ? だって、入れてテスト臨んだ時と、入れずに臨んだ時とじゃ成績違うし」
「ただの偶然だろ。俺はそういうのに頼るつもりはない」


試験前には必ず神社でお参りをする。
これが、智草の中で必ず決まっていることだ。

公園が隣接しているあの神社は、近所の人からは人気のあるスポットである。
とはいえ、人気があるからと言って常に人がいるかといえば、むしろその逆ではあるが。
ともかく、智草にとってあそこは、少し特別な場所なのだ。


「そう言わずにさ。ね?」
「……仕方がないな」


手を合わして、小首を傾げそういう智草に、明彦は小さく息を吐く。
彼女がこうやって頼みごとをする時には、大抵彼は断れずにいた。
なんとなく申し訳ないという気持ちでいっぱいになるのだ。
仕方がない、そう言えば眉を下げていた智草の表情がぱあっと明るくなる。


「っし! アキくんならそう言ってくれると思ったぁ!」
「まったく……ほら、行くなら早く行くぞ」
「はいはーい!」


今日も今日とて、彼女の言われたとおりになってしまう。
明彦はそれを不思議と心地良く感じながら、バッグを手にして歩き出した。
後ろから付いてくる軽い足音に、自然と口角が緩んでいることには気付かない。


>長鳴神社
今日もここには人はいないようだ。
偶に近所のおばあさんやサラリーマンがいるが、今はすっからかん。
智草は辺りを見回した後に、すぐにお賽銭箱に近づいた。
そしてお金を綺麗な弧を描いて投げ入れる。


「今回もよろしくお願いします……っと」


瞑っていた瞼を開け、踵を返すと明彦がこちらを見ていた。
目線が合い、智草はふっと微笑む。


「用は済んだか?」
「アキくん、本当にしないの? 効果あるよ?」
「結構だ。さっきも言ったが、こういうのは自分の実力だ。誰かの手でどうにかなるようなものではない」
「ふぅん、そういうことならいいけどさ」


智草はイマイチ納得していないように口先を尖らせる。
自分にとっては効果があっても、彼はそれを頼りにはしないらしい。
それが明彦だと言ってしまえばそうだが、どことなく寂しい気がしたのだ。


「それにしても、今日は居ないのかなぁ……」

神社に入ったときと同じように辺りを見回しても、あるのは古びた公園だけだ。
人の姿など、自分たち以外にはいない。


「誰かと待ち合わせでもしていたのか?」
「そういうわけではないんだけどさ。良くここで会う人がいて……今日は居ないみたいだから」
「残念だったな」
「んー、でもまたいつか会えるだろうし、いいや!」


居ないのならば仕方がない。特別用事があるわけでもないし。
智草は大きく身体を反らせて伸ばせば、大きく息を吐いた。
太陽はまだ、地平線に沈まずにいる。


「この後、どうする?」
「夕飯にはまだ早いな」
「だよね」


思っていたことを言われ、智草は顎に手を当てて考える仕草をした。
このまま解散、は寂しい。せっかくだから夕飯を一緒に食べたいのだ。
さて、どうしたものか。そう悩んでいると、ふとある店が浮かんだ。


「そうだ! 古本屋でちょっと本見てから海牛行くってのはどう?」
「なるほど。多少読み耽ってもすぐ上にあるから問題ない」
「でしょ?」


名案でしょ。とばかりに智草は笑みを見せる。
それに同意した明彦も小さく頷いた。


「なら早速行こうか! 何かいい本でもあるかなー」
「せっかくだし参考になりそうな本でも探すか」
「勉強の?」
「当然だ」


優等生か。
突っ込まざるを得ない返答に、智草は顔を歪める。


「うわぁ、嫌だなぁこういうの」
「お前には到底必要ない物だろうな」


智草の言葉に明彦は不満そうな顔をするわけでもなく、逆に口元を緩めながら横目でこちらを見てそう言い放った。


「あ、その顔むかつくー」
「ふっ、事実だろ?」
「否定はしませんけどねー」
「まったく……。ほら、行くぞ」
「はーい!」


あれ、これ学校でる時と同じ感じじゃない?
そんなどうでもいいことを思いながら、智草は明彦を肩を並べて歩き出した。

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