夜空を見上げて | ナノ

≪騒然たる今朝≫



取り巻きとなっている女子すらも気に留めない明彦だが、今朝から与えられる視線には気が付いていた。
廊下でも注目を集めて、何やら小声で言われている。
教室に入るとすぐに智草と目が合った。
丁度良いから聞いてみようと口を開く前に、智草が駆け寄ってくる。


「ちょいアキくん」
「智草か、ちょうど良かった。この騒ぎは一体なんだ?」
「なんだって……その『見当もつかない』といった表情はなんだね」
「まったく見当がつかん」


これには、智草も大きなため息である。


「……さすがは真田明彦」
「…バカにしてるのか」
「してる」
「お前な……!」


いつものことながら、はっきりと言われては気分が悪い。
明彦が抗議しようとした眼前に、智草の人差し指が向けられた。


「アキくん、昨夜誰と一緒にいた」
「昨夜か? 別に誰ともいないが」
「しらばっくれると言うのね!!」
「うるさいぞ。……一体何だって言うんだ」


昨夜はいつも通り、部活をした後に帰寮した。
しっかり肉丼とプロテインを食してから、巡回がてらランニングをして、深夜過ぎに寝た。
いつもと変わらない一日を過ごしていたのだ。


「それじゃ今朝、誰と登校してきましたか」
「誰って……美鶴とだが」


同じ寮にいて、たまたま出る時間が重なった。
だが、美鶴と一緒になることは珍しくない。
それだけでこの騒ぎになるだろうか。


「もう一人いたでしょ」
「あぁ、岳羽のことか?」


そういえばと答えれば、智草が大きく頷く。
どうやら当たっていたらしい。


「そう! それ、岳羽さん! 岳羽さんと言えば、入学当初からの有名人だよ。可愛いって噂になって、告白した男子も数知れず。そんな岳羽さんと美鶴と、両手に花状態で登校してきたとか……。鈍いことで大変有名なアキくんが、ついに目覚めたかと騒然となってるの!」
「……どこから突っ込めばいいのか分からないが。とりあえず、お前、俺のことバカにしてるだろ」
「してる」
「……」


静かに目の前の頭を小突く。
こんなことをできるのもコイツだけだ。
明彦は内心でほくそ笑みながら、表情は呆れたようだった。


「いでっ……! ちょ、叩かないでよね!」
「叩かれて当然だ。だいたい、アイツらとはそんなんじゃない。岳羽が同じ寮で暮らすことになったから、初日ってことで一緒に来ただけだ」
「え、岳羽さん寮住みになったの?」
「まあな」
「ふぅん……」


事情を簡易に説明すると、智草は口元に手を当てていた。
段々瞳が怪しく色づいていく。
明彦は面倒事になる前に離れようとしたが、智草が許さなかった。


「……会いたい」
「は?」
「岳羽さんと知り合いなんでしょ? 私、彼女と話してみたいな〜」
「あのな……」


これでは、そこら辺の生徒と変わらない。


「いいじゃん、別に。ね?」
「会いたいなら自分で会いに行けばいいだろ」
「だって近づきがたいし。ましてや後輩だしさ」
「だったら諦めろ」
「えーせっかくのチャンスを見逃せと」


何のチャンスだ。とつっこみたかったが、明彦は口を閉じた。
智草からすれば、数少ない後輩との交流のチャンスを大事にしたいだけであったのだが、それでも不純な動機が含まれていることに変わりはない。


「それに、俺もまだそこまで親しいわけじゃない」
「だったらなんで同じ寮なの?」
「それは……。…とにかく、会いたいなら自分で会いに行け。俺は関係ないからな」
「んもう、アキくんのいけずー」


理由を言えるわけがなかった。
明彦は「もういいだろ」と自分の席に着く。
後ろから付いてきて顔を覗かせる彼女を、再び小突いた。


「まだ何も言ってないのに!」
「諦めきれてないのが見え見えだ」
「ちぇ」


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