夜空を見上げて | ナノ

≪09/13(日) 有里湊の疑問≫



>09/13 日曜日・昼間
>映画館

湊は、茶封筒を貰っていた。


「ハイ、今日もお疲れー。休日は人が多いから大変なんだよね〜。いやー、助かった」
「どうも」
「あ、最近よく来てくれるし、働き具合も良いし。有里クン、給料アップね! 喜べぇえ……9000円だ!!」
「どうも」


店長はガックシと肩を落とす。
目の前の少年は働きこそ良いが、愛想が良くない。


「有里ク〜ン、分かってはいたけど反応薄いねェ。高校生なら喜ぶ金額なんだけどなぁ。というか大学生でも大歓喜なんだけどなぁ」
「…はあ、」
「しかもこんな金額出してるの、君ともう1人くらいなんだよー。もう少し喜んでくれても……あぁいや、彼女ほど喜ばれても困るかも……。…あれ? 確か彼女も月高の生徒だった気が……3年生だったかな?」


湊からすれば仕事を終えれば次に行きたかった。
このお金で装備を整えたい。
だがその前に店長が口を開く。
聞こえてきた名前は、見知ったそれだった。


「知ってる? 篠原智草ちゃん! 手際良いし明るいし計算早いし、なにより可愛いし愛想があるよ!」
「……」
「給料アップの時、嬉しそうというか…本当に助かった!みたいな顔されたんだよねぇ。やっぱり受験生ともなるとお金必要なのかねぇ?」
「……」
「ま、親に金せがむ子どもよりは、自分で何とかしようとする姿勢のあるこの方がいいね!」
「……もう帰ってもいいですか」
「あ、ごめんごめん! じゃ、またいつでも来てよ!」


湊は、ふと手元の茶封筒に目を落とした。
確か先輩である彼女はバイトをしていなかったと話していたことを思い出す。



>09/14 月曜日・夜
>シャガール

湊は静かに目を瞬かせた。


「今日から此処で働いてもらうことになった、篠原さんね」
「篠原智草です。宜しくお願いします」
「確か月高だったわよね。そしたら彼の先輩じゃない?」


ようやく自分に気が付いたらしい。
智草は目を丸めて、驚いていた。


「湊くん!? あれ、ここで働いて……?」
「まぁ知り合い? 有里くんも最近になって来てくれているんだけど、手際がいいのよね。2人が知り合いなら、有里くんからいろいろ教えてもらうと良いわ」
「は、はい…」
「分かりました」
「それじゃあ、今日も宜しくお願いします」
「お願いします……」


制服に身を包んだ智草ははにかむ。
似合っていたが、やはり不自然さを感じた。


「偶然だね。有里くんってばここでバイトしてたんだ」
「まあ…」
「夜できるのってここしかないもんね」
「先輩こそ、」
「ん?」


果たして聞くべきか。
湊が口を閉ざすと、智草が手を振る。


「受験生なのにバイト始めて大丈夫かって? 私、自慢じゃないけど学力と体力には自信あるから大丈夫!」
「…はあ」
「ま、いろいろ不慣れな点はあると思いますが、これから宜しくお願いね。バイトのセンパイ」
「こちらこそ…」



>09/16 水曜日・放課後
>ピーブルヴィー

湊はいよいよ戸惑った。


「は〜い、今日は新人さんをご紹介! 月高3年生の篠原智草さんです。水・木・金と週3で来てくれることになりましたぁ!」
「篠原です。宜しくおねが……」
「…どうも」
「有里くん……」
「2人ともお知り合い? なら安心ね! 彼も不定期ではあるけどバイトで来てくれているの」
「そうなんですか……。とりあえず頑張ります」
「えぇ、頑張って。じゃ、今日もヨロシク!」


制服に身を包んだ智草は困ったように頬を掻く。


「有里くん、ここでもバイトしてたんだね。パワフルだねぇ」
「時間のある時だけです」
「そっかぁ」
「先輩は、」
「ん?」
「……なんでもないです」
「うん? じゃ、此処でもいっちょ宜しくねー!」
「はい…」


>夜
帰寮した湊を出迎えたのは、明彦だった。
いつものように牛丼を食べ、隣にはプロテインが置かれている。


「帰ってきたか。……ん? どうした」
「…いえ」
「体調が悪いのなら、今日のタルタロスは止めにしてもいいんだぞ。リーダーであるお前の士気がないんじゃ、俺たちも動けないしな」
「…すみません、今日はナシで」
「分かった。山岸には俺から伝えておこう」
「…あの、先輩は……」


知っているのだろうか。
彼女がバイトを次々とし始めていることを。


「ん? どうした」
「…いえ、なんでもないです」
「なら早めに休め」
「はい」

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