夜空を見上げて | ナノ

≪09/17(木) 嵐の前触れ≫



「よ、智草」
「アキくん! そっちの方はもう終わったの?」
「あぁ、大方片付いた。そっちは……もうすぐ終わりそうだな」
「まあね。とは言っても、台風が直撃するんじゃ意味ないよなぁ」


文化祭は週末に近づいている。
けれど、台風がその日に直撃する予報が今は話題だ。
中止になるのであろうが、まだ判断は下されていなかった。


「確率が高いというだけで、確実ではないからな。……ほぼ間違いなく直撃するだろうが」
「台風かぁ。残念だね」
「俺らは2度もやっているんだ、一度文化祭ができなくてもどうということはない」
「そう? 最後の文化祭だからこそ、やりたいこともいっぱいあるんだよ。最後の思い出作りってやつ」


まあ、アキくんには分からないだろうけど。
と、言う言葉をぐっと呑み込んで智草は立ちあがった。


「……あーもう! お腹すいた!!」
「っふ、なら放課後どこか行くか」
「今日は平気なの? じゃー、はがくれ行こっ。ラーメンの気分なんだ!」
「了解。なら早めに片付け終わらせるか」
「うん! ありがとう」


明彦が、手元の材料を持ってくれる。
残ったのは軽いものだけであり、智草は甘んじた。
ちらりと腕時計に視線を落とす。

はがくれに辿り着き、いつもとは違ったメニューを頼んだ。
明彦は相変わらず特製の大盛を頼み、既にプロテインまでセッティングしている。


「――ねえアキくん」
「ん?」
「あれから、シンちゃんとは仲直りしてくれた?」
「……」
「……してないか。そうだよね。なんか深刻そうだったし……。そう簡単に片付く話ってワケじゃなさそう」
「悪いな…」


何の話をしていたかは分からないが、智草の予想は当たっていたらしい。
明彦も何か考え込んでいるようで、気遣わせないようにと首を横に振った。


「どうして? 私は2人がいてくれるだけで嬉しいの。きっとシンちゃんにはシンちゃんの考えあるだろうし、アキくんにはアキくんの考えがあると思う。どっちも、お互いを傷つけることはしないって、私知ってるから」
「智草……」
「なーんて言っても、やっぱり2人仲良しの方が好きだけどね!」
「早く解決させないとな」
「ん、…どんな選択を選んだって、私は2人のこと大好きだよ」
「……あぁ」


歯切れの悪さに違和感を覚えながらも、目の前にラーメンが来ては口を開けず。
お互い無言で、汁の絡み合った麺へと箸を伸ばす。


「ところで、さ……」
「ん?」
「………台風、低速度みたいだね」
「そうニュースでやってたな。2,3日とどまると考えてもいいんじゃないか?」
「…だよね…」
「文化祭はやはり中止だろうな」
「いや、それはもう諦めてるんだけど…。そっか、留まっちゃうのか……」


次は明彦が、智草の違和感を感じ取った。
動かしていた手が止まり隣へ視線を向けると、慌てて彼女は笑顔を浮かべる。


「あ、いや、なんでもない! ホラ、早く食べないと麺が延びちゃうよ!!」
「あ、あぁ」
「あとプロテイン没収!!」
「なッ?! 馬鹿、返せ!!」


油断していた!
明彦は取り返そうと身を乗り出すが、智草は自分の鞄のサイドポーチに入れてしまった。


「私より早く完食させたら返してあげる〜」
「明らかにお前もう食べ終わるだろ!」
「喋ってる暇ないよ〜」
「あぁ、もう! ったく」
「ふふっ」


結局、店を出てからプロテインが返ってきたのだが、納得のできない明彦であった。

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